昔話風解説:私たちの生活は、どうすれば良くなるの?

「憲法記念日によせて」は今年で、はや4年目をむかえることとなりました。読者のみなさま、いつもご愛読ありがとうございます。思い返せばこの4年間は、アート表現を若干脇に置き、直接的な表現で、無我夢中でブログ記事の山をつくりあげてきました。いまでは様々な分野にわたってどっしり重みのある、充実したブログとなりました。これからも知の水準は下げることなく「伝わる表現」を追求していきますので、今後とも「日夏梢の自由研究」をどうぞよろしくお願いいたします。

さて、2020年の5月3日に向け、私は記事の案を4パターンほど練ったのですが、よくよく考えた末、最も意外性のあるものを選ぶことにしました。それは「憲法が守られるとどんないいことがあるのか、私たちの生活はどう良くなるのか」――このタイミングであえていちばんポジティブなメッセージを、憲法条文と昔話風なたとえとともにお送りします。

選挙権を手中におさめている

せっかくの憲法記念日なので、観念論ではなく、条文の現物をしかと読んでみることにしましょう。

第15条 ①公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

第14条 ①すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第44条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

選挙に行ける=まっとうな地位にある

上の憲法条文は、コピペではなく一文字一文字書き写しました。あらためて味わうと、その崇高さに胸を打たれますね。

今回の記事では、選挙権のあるなしは「地位」の問題である、という側面にスポットライトを当てたいと思います。

投票に行かない、つまり選挙権をドブに捨てる有権者が半数を超える日本の現状。このように選挙権の重みを感じられないのは、身の回りの状況や、いまいる政治家の顔ばかりを思い浮かべるからに違いありません。すすだらけの雑事におおわれて、選挙というものの核心が見えなくなってしまう。けばけばしい政治家に話をすり替えられ、煙に巻かれ、民衆扇動の術中にはまってしまう。

そこで今回は、「選挙権がない状態」とは実際どんなものなのかを第三者の視点に立って見られるよう、昔話風のモデルをつくってみました。

――むかしむかし、海の底に、エビとカニが約半々、それに少数のホタテが住んでいる国がありました。

この国の運営は議会で決定されているのですが、国会議員は全員エビでした。この国では、法律で、「議員になるにはエビでなければならない」と決められているからです。――

どうでしょう。

この国は、エビが支配している国ですよね。

カニとホタテは「地位が下」です。一応この国に住んでいるとはいえ、彼らはソフトに言ったところで「二級市民」にすぎません。

国の様子や生活風景も語ってみましょうか。

――この国のお金持ちは、みんなエビでした。この国では、エビは高等教育まで進みます。みなそれぞれが、勉強するなかで自分の好きな分野を選び、知識をつけ、仕事で活躍できるので、結果として経済力が手に入るのです。しかも、エビの間では議員や官僚をはじめ、あらゆる分野にコネがはりめぐらされていました。エビの世界を渡り歩くことで、エビは人生のいつでも新しい企画や会社を始めることができました。けれど、カニとホタテは教育を受けておらず知識がないので、いい仕事に就くことは望めません。一生、低賃金な下働きのままでいるしかなかったのです。

こんなこともありました。ある時、あるカニが用事で役所に行きました。ところが入り口で、甲羅がドアにつっかかってしまったのです。ドアの幅がエビ向けにできていたからでした。この国では、役所の建物をつくる計画と予算を議決した議員も、建物をデザインした建築家も、役所で働く公務員もみんなエビだったから、自然と何もかもがエビ向けにつくられていたのです。ドアでつかえたカニが困っていると、役所職員のエビは助けるどころか、「カニのくせに役所へしゃしゃり出るからこうなるんだ」と、眉をひそめたのでした。――

エビが支配する国である以上、二級市民の生活がこうなるのは当然の成り行きです。選挙権がエビだけにあるなら、国の何もかもがエビ向けにつくられるのが自然な帰結。冷酷です。

ただこうした国でも、エビが「お情け」でカニに利益をまわしてやろう、と思い立つことはたまにあります。

――ある時、議員は言いました。「近ごろ、カニが社会に不満をためているらしい。たしかにカニという生き物はエビほど高貴でないが、赤いことには赤いから、もう少し待遇を良くしてもよいだろう。カニのための学校をつくろう。カニを扶養するエビに補助金を出そう。カニ専用の年金を支給しよう」などなど。

これらの政策が決まると、一部のカニたちは「これで私たちの生活は良くなる」と喜びました。しかし、あとになって、それが大きな落とし穴だと気づいたのです。

エビの学校では、生徒それぞれが将来進みたい方向を見つけられ、自分の可能性を開花させ、成長できるような教育がなされていました。けれど、カニの学校で教えられたのは、小学校低学年レベルのかんたんな読み書きと、「就職に役立つ」と称した軽作業ばかり。カニの子たちは、かえって成長をさまたげられてしまいました。教育を授けようという甘い言葉で、カニは低賃金な仕事へと、巧みに誘導されたのです。

また、あるカニは、老後はカニ年金で暮らしていける、と信じていました。ところが、いざ受給年齢になって書類を見てみると、その額は雀の涙ほどにすぎないと判明したのです。しかも、受給するには細かい条件が付されていたので、仲間のカニは「受給対象からもれていた」と泣きながら、命果てる日まで低賃金労働を続けたのでした。――

この国にカニとして生まれたら最後、人生はこんなものです。もう一点付け加えておきましょう。お情け程度の教育や年金すら、エビの気が変われば、采配ひとつで全部奪われます。

そのうえ、カニとホタテは自分の惨状をいくら訴えたところで、それが通ることはありません。なぜなら、エビが法律にのっとり議会で決めたことなら、どこも違法でないのだから。

選挙権をもたない身分であるとは、こういうことなのです。

海底を堂々闊歩するエビたちと比べ、選挙権なきカニとホタテは何にも物申すことができません。社会の周辺に生き、一生合法的にしぼりとられるだけで終わる、哀れな日陰者。選挙権なき人々は、結局のところ、社会のすべてから追いつめられる人生に甘んじるしかありません。

このように、選挙権がない身分というものを見れば、選挙権の本当の価値を知ることができます。「選挙に行ける」ということは、「自分はこの国でまっとうな地位にある」ことを意味しているのです。

私が選挙権のあるなしと「地位」の関係を書きたいなと思ったのは、最近ちょっとした興味から、明治時代の文書に目を通したのがきっかけでした。選挙権なき明治生まれの人の肉声からは、彼らの悲惨な実態、そして二級市民の地位に甘んじる腹の底から煮えくり返るような屈辱が伝わってきたのです。

生まれた瞬間から、日本国憲法により一級市民の地位を保障されてきた私は、あまりに気の毒でやるせなかったのと同時に、紙からわき上がる圧と熱で目覚めさせられたようでした。

同じ国に、選挙に行ける人と行けない人がいる。それは「人が生まれでランク付けされている」ことにほかなりません。

そんな薄暗い時代が、たった七十余年前まで続いていた。私は日本国憲法14条「法の下の平等」のありがたさと、それを心の底から望み、命がけで求めながらも生きて体感すること叶わなかった人々への敬意を感じずにはいられませんでした。

能力のある政治家を選べる

戦前の話だけでなく、いまを生きる私たちの生活についても話しましょうか。憲法で選挙権が保障されているとどんないいことがあるのか、「地位」の問題とは別のアングルからも説明しておこうと思います。

議会制民主主義に基づくわが国では、国の運営を決めるのは、王様でも、貴族でもなく、議会です。もし、そのメンバーたる議員たちが無能だったら、私たちの生活はどうなるでしょうか?

国がめちゃくちゃ、荒れ放題になってしまいます。私たちの生活は、立ち行かなくなります。もし世襲の王様や貴族がすべてを決める国だったら、この期に際してもその惨状に甘んじるしかありません。「生活に困っているんです」「この政策のおかげで自分の店がつぶれました、どうしてくれるんですか」なんて言おうものなら、無礼者だの反逆者だのとして逮捕されるのがオチでしょう。

選挙権があれば、投票することで、無能な政権を、有能な政治家にすげ替えることができます。

選挙権をもっているとは、「物申すことができる」そして「政権を変えられる」ことを意味しているのです。

公務員が、全員のために奉仕する義務を課されている

では、明治時代の人がまだ見ぬ未来に描いた選挙権あって当然の世となれば、私たちは二度と二級市民のごとき悲惨を味わわなくてすむのでしょうか。そうもいかないのは、ご存じの通りです。選挙権あるなしとは別の原因で、つまり、選挙で国民に選ばれたはずの政権が横暴をはたらいたなら、私たちの一級市民の地位は台無しになってしまいます。

しかし、日本国憲法はそんなことも想定内。きちんと対策を打っています。優秀ですね。

憲法条文を読むところからはじめましょう。

第15条②すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

こちらも、昔話風に説明するとしましょう。

――むかしむかし、海の底に、タコとイカが約半々、それに少数のクラゲが住んでいる国がありました。この国はエビの国と違い、憲法で「生き物はみな平等」と定められ、タコもイカもクラゲも全員が選挙権をもっています。

ある時、タコの一派閥・黒墨派が有権者の支持を集め、政権をとりました。ところが、黒墨派はひとたび政権の座につくやいなや、自分たちに有利な「お手盛り」を始めたのです。黒墨派の首相は、国の土地を、派閥の友達にプレゼントしてしまいました。またある時は省庁に手をまわして、普通だったら通らないはずの大学設立認可を自分の友達だけ通してあげました。また別の時は、友達の会社に国の費用から莫大な資金を投入しました。警察に手をまわして、逮捕される寸前だった友達を逃がしたこともあります。

黒墨派のタコたちは、国を自分たちのために利用したのです。利益は黒墨派の独占一手でまわされるようになり、国には不正、不公平がはびこりました。黒墨派という友達グループのタコは仕事もお金も老後も安心でしたが、それ以外のタコ、イカ、クラゲたちは、生活に困ってしまいました。――

せっかく全員に選挙権があったのに、エビが支配する国と同じ結果に。

選挙権が全員に行き渡れば全自動で生活が良くなる、というわけではないのです。

日本国憲法は、選挙で選ばれた政権が暴走しうるということを念頭に置き、先手を打っています。国民の生活がおびやかされることがないよう、政治権力にルールを課しているのです。

そう、そもそも憲法とは、政治権力が身勝手をして国民を害することがないよう歯止めをかけるための法律。15条2項により、国会議員など公務員は「全体の奉仕者」と定められています。よって、政権が「お友達」を優遇するのは「違法」です。

さらに、99条により、公務員は、いつ時代の誰でも、どんな政治的立場でも、全員一律に、憲法を守る義務を負っているのです。

もし日本国憲法15条2項と99条がなければ、私たちは政権の暴走に甘んじるしかないところでした。

国が、国民の生活を守る義務を課されている

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で混乱に陥った2020年の世界。人類が取り返しのつかない過ちを犯す定番・緊急事態宣言について言いたいことは山ほどあるのですが、今回のところ細かい解説は省きます。

日本国憲法によって、私たちの生活はどう良くなるのか。最後には、人権のなかでもとりわけ「私たちの生活を良くする権利」にスポットライトを当てるとしましょう。「社会権」、とりわけ「生存権」です。

第25条① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

どうでしょう。日本国憲法25条1項は、私たち国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しています。25条2項により、国はそのためにはたらく義務を課されています。

もし政権が国民の生活を守る義務に背を向けたとしたら、それは「違法」だと定められているのです。

そして第99条。国会議員と大臣は、日本国憲法を尊重し擁護する義務を課されています。つまり、日本国憲法をよく守る政権ほど良い政権だということです。

では、私たちはどうすれば、日本国憲法を守る良い政権に国の運営をしてもらえるのか。悪い政権を良い政権にすげ替える方法を、私たちはすでに手中に収めているではありませんか。そう、選挙権です。

日本国憲法により、私たちの生活はどう良くなるの?

日本国憲法が守られれば、あなたの生活が、生存が守られるのです。

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日本国憲法(総務省ポータルサイトe-Gov 法令検索) – 人づてではなく、生の条文をどうぞ。いつでもどこでも誰でも読めます。

憲法学の定番書。多くの法学部一年生が読む、これから憲法学をやってみたい方にぴったりな教科書です。ビギナー時代からずっと、末永く読み込めます。

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