機材なし~最低限での「歌ってみた」スタートガイド

「歌ってみた」をやってみたくなる気持ちは、音楽好き、カラオケ好きな私にはよく分かります。ひとたびYouTubeなどで見始めるとハマりますし、同じ曲が好きな人に親近感を感じ、自分も投稿すればいろんな人とつながれる――楽しそうですよね! 一方、私がネットの「歌ってみた」動画を見ていると、セキュリティやプライバシーの面で「この人、危ない目に遭ってなければいいけど……」と気になることも実はけっこうあるんです。

今回は、「歌ってみた」の録音機材のことを必要最低限までそぎ落して紹介し、併せて、ちょっとした経験談や使う時のコツ、ネットセキュリティ・プライバシーの注意点なども解説したいと思います。ぜひこれで気持ちいいスタートをきってください!

目次

「歌ってみた」は機材なしで始められる!

まず最初に覚えるポイントは、「歌ってみた」に必要な音楽レコーディング機材を買おうと思い立ったら、その管轄は楽器店だということです。基本的に電機屋さんではありません。

いざ楽器店に踏み入れる時は、自分の使用目的と予算をはっきりさせておくことが大事です。音楽に通じた店員さんが、あなたのニーズに沿った商品をていねいに紹介してくれるからです。

たとえば私が初めて録音機材を買いに行った時は、「やっているのは自作の歌のアコギ弾き語りです」「経験がないので初歩的なものだけスタートしたい」と伝えました。実際の雰囲気を感じられると思うので、私が持っているものや経験談は以下でちょくちょく紹介していきますね。

……でも、実は「歌ってみた」は楽器屋さんが扱うような特別な録音機材はなくてもできます。なぜなら、要は、歌を録音したデータファイルさえあればいいからです。

スマホ・パソコンのボイスレコーダー

今のスマホやパソコンでは、録音アプリがたいてい最初から入っています。

たとえばiPhoneだったら「ボイスメモ」、Windowsのパソコンなら「ボイスレコーダー」がそれです。たとえなくても無料のスマホアプリがたくさん出ていますので、アプリストアで検索してみてください。

ボイスメモアプリの録音開始画面
無料スマホアプリ「簡単ボイスレコーダー」。タップするだけで録音できる。

こうした無料の録音アプリで歌を録音し、それをSNSに投稿すれば、「歌ってみた」はすぐにできてしまうのです。

動画にしたい人には、スマホカメラで動画を撮影してそのままアップ、という手軽な方法があります。

無料録音アプリの限界

もちろん、無料の録音アプリでは相応の限界はあります。

まずは、プロが使うようなレコーディング機材と比べたら音質が落ちること。……そりゃあそうですよね。

また、マイクには「指向性」という概念があり、タイプやモデルによってどれくらいの範囲の音を拾うかが違っています。ではスマホやパソコンのマイクはどうなのかというと、これはオンライン会議など様々な用途を想定しているので、正面からの歌声だけでなく、周りの音を何でもかんでも拾うようにできています。室内のエアコンや床を踏む音、道路を通る車やバイク――四方八方からそういう雑音が入りがちなのです。

さらに、簡易的なレコーダーゆえ、歌はすべて「一発録り」に。音声の編集などはできません。

安かろう悪かろうではない意外なメリット

と、やれることに限界はあるのですが、私は個人的にボイスレコーダーでの「歌ってみた」はなかなか良いと思っています。

まず、デスクがギシッ……ときしむ雑音などが入っていたりするのは、時にはかえって「実際にやっている感」があったりしないでしょうか? 私は以前、Twitterで一般ファンが投稿した声だけ伴奏なしの素朴な「歌ってみた」を聞いて、「あぁ、この人はこの曲が心から好きなんだな」と好感を持ったことがあります。編集の手が入っていない生の歌声には、それはそれで味わいがあるように思います。

それに、音質が鮮明すぎないことは必ずしもデメリットではありません。レコーディング機材が本格的になれば歌の細かい粗も拾いますから、それに見合った歌唱力やセッティング、音声の編集が必要になってきます。鮮明すぎる歌声にエフェクトをかけたりと、不自然な音声が自然に聞こえるようチキチキいじくりまわさなければならないんですよね。ただ「楽しそうだからやってみたい!」というのであれば、自分の歌声が「だいたい」であるのはそんなに悪くないと私は思っています。

そして最後に一番大事なこと。「一発録り」はすべての基本です。高価で高品質なプロ用機材があれば「歌ってみた」が楽しくなるわけではありません。それに、むしろプロ志向の人こそ、最後の最後はごまかしのきかない生の歌唱力がものを言います。「生の歌を録音する」という原点は、初心者であれプロを目指す人であれ大事ではないでしょうか。

授業や仕事用のボイスレコーダーでもOK!

録音機は、スマホやパソコンのアプリ以外でも大丈夫です。講義やビジネスミーティング、英会話などのためにボイスレコーダーを持っている人はそれでOK。「歌ってみた」にも活用することをおすすめします。

ボイスレコーダーは、歌を録音するには向いています。なぜなら「会話を録音する」ことが念頭なので、スマホやパソコンのマイクと違って、指向性(=音を集める範囲)が正面にしぼられているからです。

Olympusの赤いボイスレコーダー
筆者愛用のボイスレコーダー。歌や弾き語りの練習に長年使ってきた。

ボイスレコーダーといえば、ビジネス会議でテーブルに置いてあるとか、ジャーナリストが取材相手に向けているイメージかもしれません。でも実は、歌や楽器をやっている人の間では必須アイテムというくらい普及しています。音楽向けに音質の良い商品も出ているので、「一発録りでいきたい!」という人にはボイスレコーダーもけっこうおすすめです。

「歌ってみた」最大の関門・音源の準備

以上のように、「歌ってみた」自体は特別なレコーディング機材なしにもできるのですが、最大の関門はカラオケ音源の確保に違いありません。自分が歌うのはいいけれど、では伴奏はどこから持ってくればいいのか、という点です。そう言われてみれば疑問ではないでしょうか?

実は、知識やバックアップ体制のあるなしに関わらず誰もがネットで発信者となれるようになったいま、音源をめぐっては著作権関係のトラブルが数多く報告されています。これから始めたいという読者は、知らず知らずのうちにトラブルへ踏み入れてしまわないよう、ぜひここで覚えていってください。

初心者注目!絶対やってはダメなこと

音源での著作権トラブルは、音楽教室に通いながらやっているようなプロ志向の人ではなく、初心者や、趣味でやっている人に多発しています。ほとんどの場合悪気はないのですが……やってしまいがちなのがこれ。

  • アーティスト本人のCDに合わせて歌う
  • アーティスト本人のインストゥルメンタルトラックを音楽プレーヤーで流して歌う
  • カラオケボックスやアプリで歌い、自前の機材で録音する

……どれもすぐ思いつく方法だと思いますが、こうして録ったものをネットにアップすると著作権の侵害になってしまいます。なぜなら、音源の著作権が自分にないからです。

もしある日突然SNS運営会社やアーティストの関係者から「著作権侵害です」と公的な文書が届いたら、誰だってドキッとしますよね。中には、警察沙汰になったケースも……。投稿は削除することになりますし、何より精神的に「そ、そんなはずじゃ……」「大変なことになってしまった……」とがっくりくるはず。

他人が作った音源は、他人に著作権があります。だからたとえ遊びでも、勝手に使うことはできないのです。(ちなみに、歌詞やメロディといった楽曲自体の著作権に関しては、YouTubeが一般ユーザーに代わってJASRACおよびNexToneと契約し、ロイヤリティを払っています。)

音源を手に入れるかんたんな方法

では、YouTube等で人気の「歌い手」は何の音源に合わせて歌っているのでしょうか? アーティスト本人から使用許可をとったりしたのでしょうか?

実は、彼らは自分で一からカラオケ音源を作っているんです。

音楽にすごく詳しい人だと、”耳コピ”によって曲の全パートをパソコンソフト(後述)に打ち込み、本物そっくりのカラオケ伴奏を自分で作れてしまうんですよ。また、本格的に活動している「歌い手」だと、ギタリストやドラマーなど、ミュージシャンに依頼して演奏してもらっていることが多いです。動画の説明欄にスタッフクレジットが載っていますよね。

あぁ、そんなの自分にはとっても無理だ……と気持ちがみるみるしぼんだかもしれません。

でも大丈夫! かんたんに無料で手に入る音源はちゃんとあります。最近では「歌ってみた」を見越して、ネットでフリーの音源を提供している音楽制作者がいるのです。

一例ですが、YouTubeチャンネル「カラオケ歌っちゃ王」には数多くの人気曲の音源がアップされていて、一般個人の「歌ってみた」なら、動画URLを記載するなど一定の条件を守れば、無料かつ無申請で利用を許可しています。このような音楽製作者は他にもたくさんいるので、歌いたい曲のタイトルと「音源」などのワードでネット検索してみるといいでしょう。ダウンロード販売されていることもあります。

さらにボカロ楽曲の場合、作者自身が「歌ってみた」用の音源をフリーで提供していることがあります。作者の説明をよく読み、必要であれば本人に問い合わせてみてください。

音源を作るなんて無理……とあきらめかけたけど、なぁんだ、かんたんに手に入るんじゃん! きっとみなさん、ほっと安心したのではないでしょうか。便利な時代でよかったですよね。また、こうして音源が出回っているのは、それだけたくさんの人が歌を歌いたがっていることを反映しています。

しかし、たとえ無償で提供されていたとしても、音源は制作者が手塩にかけて作った作品です。そのバックには、アーティスト本人や関係者の諸権利もひかえています。音楽著作権の権利関係はとても複雑。選曲にせよ、音源の入手経路にせよ、ギリギリはねらわないのが賢明です。「歌ってみた」で音源を使用する際は、著作権を尊重し、制作者が記載している規約や条件などしっかり読んで、決まりを守って利用しましょう。

最低限の音楽録音機材はこの5つ!

機材なしでもできるのは分かった。けど、自分はもっと本格的なレコーディングをしたいな、と考えている読者もいるはずです。カバーアーティストがマイクの前で歌っている姿は、やっぱりそれっぽいですよね。ああいう雰囲気に今からワクワクしているなら、最初は最低限の機材で始めて、あとから少しずつ買い足していく道をおすすめします。

「歌ってみた」を録る最低限のレコーディング機材はズバリ5つです。

  1. 音楽制作ソフト(DAW)
  2. マイク
  3. オーディオインターフェイス
  4. マイクケーブル
  5. ヘッドホン

この5つに音源があれば、あなたの自宅はレコーディングスタジオに早変わり。くり返しになりますが、音楽レコーディング機材は楽器屋さんの管轄です。「歌ってみた」を始めたいんです、と伝えれば、音楽に通じた店員さんがていねいに教えてくれるでしょう。

後に買い足していくオプション品も今からリストしておくと、

  1. ビデオカメラ
  2. 動画編集ソフト
  3. ポップガード(マイクの前に立てる丸いネットのようなもので、吹きかかった息が「ポッ」という雑音になってしまうのを防ぐ)
  4. マイクスタンド
  5. リフレクションフィルター(マイクを囲うように設置するフィルターで、部屋の反響音などを防ぐ)

などがあります。

このうち、カメラと動画編集ソフトは「歌ってみた」を動画でやりたい人には必須アイテムとなりますね。ただ、動画の撮影はスマホでも可能。実際にそうやって楽しんでいる人もいます。動画編集ソフトは、Windowsにプリインストールされている「ビデオエディター」や加工アプリなどでも十分です。

音楽制作ソフト(DAW)

まず最初は、音楽制作ソフトです。「Digital Audio Workstation」を略してDAW(読み方は「ダウ」または「ディーエーダブリュー」)といいます。DTM(Desk Top Music=自宅で音楽制作すること)という語が同じような意味で使われていることもあります。

実を言うと、筆者が持っている音楽録音機材はMTR(多重録音機)というものなのですが、

TASCAMのMTR
筆者のMTR。自作の曲を自分で弾き語りするならこういうシンプルな機材も役立つが……。

今時の音楽制作は、プロからアマチュア愛好家までパソコンソフトが主流になっています。これから「歌ってみた」を始めたいなら、最初からDAWで入るのをおすすめしますよ。

DAWは音楽制作の中心的役割を果たします。歌の録音から、その調整、編集、ミキシングなど、音楽制作を最初から仕上げまで担うのです。

代表的なDAWとしては、「Pro Tools」というソフトがあります(公式HP)。個人的には、その名の通り、プロや音楽にすごく詳しい人が使っているイメージがありますね。

他だと、「Cubase」というソフトはボカロと相性がいいというので近年人気が高まっています。ボカロが好きだとか、歌わせてみたい、という人は、後がスムーズに運ぶよう、Cubaseを選ぶといいと思います。値段は初心者向けの「Cubase Element」が13,200円で、体験版もあります(公式HP)。

マイク

2番目はマイクです。歌といったらコレがなければ始まらないですよね。なんだかドキドキしてくるんじゃないでしょうか。

マイクには種類がある

さて、マイクには主に2つの種類があります。ダイナミック型とコンデンサー型です。

まずダイナミック型は、手で握るかスタンドに立てて使うタイプです。カラオケでおなじみですね。ステージでプロシンガーが使っているのも、私が録音用に持っているのもダイナミック型です。

スタンドで固定されたマイク
とても有名なSHUREのダイナミック型マイク。多くの読者がもうすぐ手にするのでは?

ダイナミック型は耐久性が強く、また大音量の入力にも強く、音を拾う範囲が限られているので雑音が入りにくいという特徴があります。値段は安いものなら数千円だったり、別の機器の付属品としてついてくる場合もあるのですが、ボーカル用の代表的なモデルなら12,000円前後くらいを想定しておけばいいでしょう。

一方のコンデンサー型は、基本的にスタジオ向けで、高価、高音質だと覚えておけば大丈夫。レコーディングスタジオのマイクは必ずこちらです。

具体的には、繊細でナチュラルな音を録ることができます。ただ、あらゆる方向から小さな音でも拾いますので、雑音は入りやすいという難点も。プロの声優やナレーターでさえ、スタジオの床を踏む音などには手を焼くそうです。また、コンデンサー型マイクは物品としてデリケート。湿気や物理的衝撃に弱いため、管理はむずかしくなります。マイク用に別の電源も必要になります。

このように、コンデンサー型はスタジオレベルの設備がなければ扱いにくい代物です。なので、「歌ってみた」を始めたい人は、おのずからダイナミック型を選ぶことになるはずです。

マイクを使うコツ―構え方ひとつで声質はがらりと変わる

ところでみなさんは、「マイクは構え方によって同じ声を全然違ったものに変える」ということはご存じだったでしょうか? 歌を歌うなら、マイクワークはとても重要です。以下をぜひ参考にしてください。

まず第一のコツは、マイクの左右に顔をずらさないこと。ダイナミック型は単一指向性で、音を拾う方向が一つであり、しかも狭いです。なので顔が右にいったり左に偏ったりすると、歌声を十分拾えなくなってしまうのです。必ず正面にくるよう意識しましょう。

二番目は、マイクと口の距離です。距離が近いと声は太くふくらんだ感じになり、逆に遠いと細くなります。これによって録音された歌声はかなり変わってくるので、自分の声質や好みを考慮し、どう魅せたいかで決めるといいでしょう。たとえば私の声質だと、口元までもってくるとモヤモヤこもった感じになってしまうので、遠めに持つようにしています。カラオケボックスでも試せますので、自分にとって理想的な距離を探ってみるといいでしょう。

最後はマイクの位置、高さです。まず、口より低く、下方から口元をねらうと、太くて深い声になります。胸での低音の共鳴が多く拾われるからです。これが口と水平な高さになると、ハッキリ、ヌケのいい声に。マイクをななめ下に向けて口を高くからねらうと、頭部での共鳴を多く拾うため、高くてブライトな印象の声になります。私の場合、こちらでも自分の声をシャープにすべく、高めに構えるよう心がけています。

音楽の世界で録音やデジタルが当たり前になった今日では、マイクは事実上「楽器」の一つに数えられます。置いておけば自動的に声を拾ってくれる道具、という地位ではないんです。自分の声が持ち方ひとつで全然違ったものになるので、上のコツを参考に理想の歌声を探してみてください。

オーディオインターフェイス

3番目は、楽器店の外ではまず耳にすることのない機材、オーディオインターフェイスです。グッと専門的でカッコいい雰囲気になってきたのではないでしょうか?

オーディオインターフェイスは、いわばマイクとパソコンの間の仲立ちです。マイクに入力された音声を電子信号に変換して、パソコンに取り込める形にするのです。

さらに、カラオケ音源をパソコンからヘッドホン(後述)に送る役割も果たします。

音質のためなら最大限良いものを選ぶべし

オーディオインターフェイスの品質によって、仕上がりの音質は大きく左右されます。音質を良くするためにレコーディング機材をしっかりそろえたいんだ、という人は、ここでは出し惜しみせず、最大限良いものを選びましょう。

ネット配信向けの定番モデル

最近は、楽器大手・ヤマハがネット配信を念頭に置いた「AGシリーズ」という商品で人気を集めています(公式HPリンク)。「歌ってみた」だけでなく、ゲームの実況などストリーマーの間では定番モデルとして定着しているとか。価格は、3チャンネルのモデルなら18,700円、6チャンネルだと23,100円となっています。

楽器屋さんに足を運ぶ時は、「ヤマハのAGシリーズってどうですか?」と聞いてみるのも手かもしれません。

マイクケーブル

4つ目は、オーディオインターフェイスとマイクをつなぐケーブルです。これがあれば「マイク→オーディオインターフェイス→パソコン」を一直線につなげられます。

たかがコードとあなどるなかれ!

ケーブルといったら、付属品というか、脇役のようなイメージがわいてきますよね。マイクやオーディオインターフェイスに力を入れたいからコードは安くすませたい……といった考えが頭をよぎりはしないでしょうか?

しかし、実はマイクケーブルは音質を大きく左右します。楽器店の店員さんや、実際にレコーディングを行っている音楽愛好家はよくそう話します。たかがコード、ではないのです。

実をいうと、私は初めて自作の曲を自宅で録音しようと機材をそろえた時、マイクに比べてケーブルは手を抜いたのですが……ちょっと後悔したりしました。あぁ、あの時お店でもう一歩いいのを選んでおけばよかった、と。

音質を良くする秘密はケーブルにあり。音質のいいレコーディングをしたい人はココで差をつけ、そこまで本格志向ではない人も、たった数百円などと異様に安いものは避けたほうがいいでしょう。

ヘッドホン

最低限の機材、最後はヘッドホンです。

レコーディングで歌う時は、カラオケ音源は部屋に流すのではなく、ヘッドホンで聞きます。音源がマイクに入り込まないようにするためです。スピーカーで部屋中にガンガン鳴らすカラオケボックスとの大きな違いですね。

レコーディングで使うのは、イヤホンではなく、オーバーヘッド型のヘッドホンです。イヤホンだと耳の穴をふさがれ、自分の声と音を把握しにくくなって歌いにくいからです。プロのスタジオレコーディングでも、必ずオーバーヘッド型を装着していますよね。(……もっとも、私は「歌ってみた」動画でイヤホンを使用している人をけっこう見るんですよね……。髪型をスマートに決めたいからでしょうか。本人がそれでいいならいいんですけど、歌う方法としては不自然なので、やりにくいだろうなとは思います。)

オーディオインターフェイスの品質は大事で、マイクケーブルはあなどるなかれと言いましたが、ヘッドホンは手抜きでいいです。音源が聞けて、外にもれなければそれでよし。ヘッドホンの質は、仕上がりに一切関係ないからです。

番外:USBマイクとは?

以上が、最低限の音楽レコーディング機材5点になります。

ところが最近、従来のセオリーを崩す「USBマイク」というものが出てきています。オーディオインターフェイス不要で、直接パソコンにつなげる、というのです。リモートワークの普及などを背景に広がりを見せていて、最近ではプロのナレーターなども使用しているとか。

一般に、このタイプだと、音質ではオーディオインターフェイスより劣るようです。また将来性という点でも、「マイクをもっと良いものに買い替えよう」などということができないので、後々不自由に感じるかもしれません。ただ、最近の人気からだんだん音質は上がっているといいますので、特に「歌ってみた」以外でもマイクに使い道――たとえばオンライン会議を頻繁に行ったり、就職面接にのぞむなど――がある人は検討してもいいかもしれません。

動画を撮影するなら学んでおくべきセキュリティ・プライバシーの注意点

以上、ここまではどうやって歌声をレコーディングするかを解説してきました。多少なりとも私の経験をからめましたので、初めて楽器店に踏み入れる際の参考になればと思います。

ところで、読者のみなさんの中には、「歌ってみた」を動画でやりたい、という人も少なからずではないでしょうか?

ネットに投稿するのが音声だけでなく、動画ということになると、大きく変わってくる部分があります。というのも、SNSに自分の顔や姿を公開するのは、世の人が思っている以上に怖いこと。ネットに投稿したものは不特定多数が見られるからです。

「歌ってみた」動画のために後悔したり、自分の身を思わぬ危険にさらさないよう、以下ではセキュリティ・プライバシー面での注意点を紹介したいと思います。決してむずかしいことではないので、あらかじめ学んでおき、安心して投稿を楽しんでください。

動画は後悔しない内容で

SNSの年表がじりじり伸びていくなか、自分の投稿を何年も後になって見返したら恥ずかしくなった、という話は今そこらじゅうに転がっています。人はどんどん変わっていきますが、ネットに投稿した文や写真はその時のまま、歳をとらないからです。

部屋で独り顔を赤らめた、というだけなら現実にダメージはないのですが……。十代のころ遊びで投稿したおふざけ動画のために就職が立ち消えた、とか、忘れ去りし過去の投稿を読まれたら職場で人柄を信用されなくなった、など、IT業界では何年も経って真っ青になったエピソードをけっこう耳にします。

無数の人が日々遊びでやっているSNS投稿ですが、内容的に他人が見ておかしかったり、軽薄だったりすれば、後々トラブルのタネになりかねないのです。

「歌ってみた」はあくまで音楽の動画ですから、余計な話などはせず、歌だけに集中するのがいいだろうなと思います。もちろん動画内で何を言ってどんなことをするかはあなたが決めることですが、一般論として、ふざけたりするのはおすすめしません。

そして、チャンネルやアカウントの管理は、最初から長い目で見てしっかりと行いましょう。もしコメント欄などで何かがおかしいように感じたり、昔の動画に嫌気がさしたりしたら、

  • 公開範囲を限定する
  • その投稿だけ削除する

などの対処が可能です。

そして最も強力な手段は、アカウント自体を削除すること。SNSは永遠ではありません。やり始める前から頭に入れておくようおすすめします。

背景には細心の注意を

犯罪者や悪意ある人物にとって、SNSは新しい宝の山となっています。動画(や写真)を投稿する際には、背景に映り込んだものが思いもよらぬ怖い事態を招く可能性があるので、細心の注意が必要です。

たとえば、あなたの動画には町の風景や特定のビル、家の中の様子などは映っていませんか? 普通の人の目には、ごくありふれた日常の映像かもしれません。しかし、悪意ある人物は、風景やカメラの角度を、動画の撮影場所や住所を特定するのに利用します。

私は以前、中学生が自宅マンションで撮ったという動画に窓の外の風景がくっきり映っているのを見て肝を冷やしたことがあります。動画自体は好感を持てるものだったのですが、これでは住んでいる町や住所、マンションの階と部屋番号まで明らかにされかねない。あの後怖い目に遭ったり、引っ越しを余儀なくされたりしていなければいいのですが……。

特にリスクが高いのが、家の中の様子がわかる投稿です。空き巣や強盗に入る等の目的でそういう写真・動画を探している犯罪者がいるからです。

こうした危険を避けるため、動画の背景はよく考えてセッティングしなければなりません。自分の実生活から切り離された、どこだか分からない空間を作り上げ、さらに個人情報につながり得る物品をカメラのフレームから排除しなければならないのです。

では具体的にどうすればいいのか、といえば、いつも見ている人気の動画が最高のお手本になるでしょう。気持ちよさそうに絶唱しているYouTuberの後ろに目をやると、白いカーテン一枚だったり、たとえ自分の部屋でもほとんどからっぽの飾り棚があるだけだったりしますよね。自分もそうやって、背景には極力何も映らないようセッティングすればいいのです。

セキュリティ上やめるべき意外なポーズ

ネット投稿のセキュリティやプライバシーは、「普通でない見方をする人」を念頭に置いて考えるものです。

「歌ってみた」に限らず、今のご時世では、世界中の人が自撮り写真や、友達と遊びに行った時のスナップショット、卒業式の記念写真などをネット上にアップしています。笑顔満面でピースしている、手を振っている……しかし、ネット上にはこれを普通でない目的で見る人がいます。

「なんで?」と意外に思うかもしれませんが、ピースサインなど、手のひらをカメラに向けるポーズは、サイバーセキュリティ上やめるべきことの一つです。なぜなら、映っている指紋が生体認証などに悪用される可能性が指摘されているから。……不気味な話ですが、いまの時代には、指紋を解析するために指の腹が見える写真や動画を探してSNSを徘徊する人がいるといわれているのです。

高性能なカメラで撮った場合はもちろん、最近はスマホカメラといえども精度が高まったため、指紋が解析可能なレベルまで鮮明に写るようになりました。……鮮明であることは、必ずしもいいことではないんです。

私は何も、是が非でも手のひらを隠さなければ危険に巻き込まれる、などと言っているのではありません。ネットのセキュリティ対策はポイントさえ押さえれば飛躍的にアップするので、怖い怖いとノイローゼになるようなことではないですし、その危険性もまだ指摘段階にすぎないからです。

しかし、生体認証に関わる技術は日進月歩で、今後どうなっていくかは予測できません。キラッと笑顔のピースサインや大胆不敵なプッシュ(?)など、カメラに手のひらを向けるポーズは、やってもやらなくてもいいなら、やめておくのが賢明です。

カラオケサイトで楽しむという選択肢

以上、ボイスレコーダーでの一発録りと、最低限の機材5つを解説してきました。

ここで私は、歌のカバーを楽しむもう一つのオプションを紹介したいと思います。

「歌ってみた」は、要するにカラオケですよね。だったら、何も自分で録音しようとしないで、素直にカラオケに行く、という選択肢があります。

人気のカラオケサイトやアプリ、あなたは利用していませんか?

……などなど。歌の録音としては楽ができるやり方ですが、以下に述べる通り、私からすればメリットが多いんです。検討してみてはいかがでしょうか?

機材もスタジオも用意しなくていい

まず、カラオケボックスには、行くだけで機材も音源もカメラも全部そろっています。防音設備もカンペキで、背景のセッティングも気にしないでよし。音のバランス調整も、本体のつまみを回すだけ。

アプリの場合でも音源に心配がありませんし、スマホが前提なので機材も特にいりません。私はTwitterのフォロワーさん経由で「カラスタ」を知ったのですが、様子をのぞいてみれば、多くの人は日常使いのマイク付きイヤホンで歌っています。

著作権の心配なし

また、カラオケサイト・アプリなら自分で音源を探す必要もありません。歌いたい曲をリモコンでピッとするだけ。「歌ってみた」をやりたい人にとって音源は悩みのタネですが、その努力をスキップできるのです。

各サービスのルールを守っている限り、著作権がらみでトラブルになる心配がありません。むずかしくて複雑な権利のことは、カラオケサービス会社がすでに整備してくれているからです。素直にその大船へ乗船するのは、それはそれで賢い選択肢ではないでしょうか。

すでにファンコミュニティができていることの強み

私が特に強調したいのが、カラオケサイト上なら、ファン同士のコミュニティがすでにできていて、仲間とつながりやすいというメリットです。

YouTubeの「歌い手」を見ていると、その動画は何万回、時には世界中で何百万回も再生されていたりしますよね。彼らの新しさは、最初は無名であることです。「歌い手」として人気になったことからプロデビュー、スターになっていく彼らの背中から夢と勇気をもらい、自分もやってみたいと勇んでいる読者も多いと思います。

しかし、私がここで指摘したいのは、音楽ではなく、IT業界の現実なんですよ。

私は長くネットの世界を見てきましたが、YouTuberやSNSインフルエンサーとして人気になろうとしたらそれはそれは大変です。10年以上前のYouTubeでは、一般人がねらったわけではないのに動画の大ヒットで一躍有名になった、というケースが世界中にありました。でも今は違います。YouTubeなどのアルゴリズム(検索結果に出てきやすいか、自動再生やおすすめに表示されやすいかなどを決めるプログラム)は開きたての無名なアカウントに対して公平なわけではないので、そこから成功するためにはIT業界の専門的なノウハウ等がなければなりません。

かなり本格的なレコーディング機材をとりそろえ、歌唱映像にはがっつりテロップを入れ、肝心の歌にはしっかり練習した跡がある。だけど再生回数に目をやると150回……などというケースを見かけるたび、私は何とも言えない気分になります。

逆に本格志向ではないほうでも、いかにも趣味っぽいスマホ撮影で再生回数が50回、コメントなし、なんていう人が……。たとえプロになりたいわけではなくても、歌を通して人とつながりたいと思っていたなら、この再生数は切ないでしょう。悲しくなってやめてしまうかもしれません。

できあがった「歌ってみた」動画を手に独力でSNSへ乗り込んだ場合、期待に胸をふくらませていたら誰の目にも留まらなかった……となる可能性は十分あります。まるで世界から無視されたように孤独を感じた。スターへの階段を駆け上がっていった「歌い手」と比較して、「自分はダメなんだ……」と自信を失った。本当はIT業界の事情にすぎないのですが、そんなSNS疲れで自分の心を壊してしまいかねないと、私は懸念しています。

私がカラオケサイトのメリットを強調するのは、歌を歌って交流したいというニーズにぴったり合わせて作られているからです。「DAMとも」や「うたスキ」には、フレンドをつくるなどメンバー同士が楽しく交流できる機能が用意されています。全国の人とコラボできるなんていうのは、ここならではのオリジナルな楽しみ方ですね。しかも、こうしたカラオケサイトはすでに多くのファンをかかえています。仲間が見つかりやすいのです。

YouTubeやSNSは、何でもござれの巨大なプラットフォームです。音楽というジャンルがあるとはいえ、専門ではありません。歌が好きな人の集まる場所に出て行って参加しよう、と考えるのは、ネット上での人とのつながり方として賢い選択であり、また同時に、歌を楽しむ近道ではないでしょうか。

まとめ―自分に合った方法で始めよう

以上、機材なしから最低限で「歌ってみた」を始める方法を解説してきましたが、いかがだったでしょうか?

最後に3つの方法をおさらいしておくと、

  1. 音楽機材なしでボイスレコーダーの一発録り
  2. 最低限のレコーディング機材5つをそろえて始める
  3. カラオケサイト・アプリを利用する

このうちどれがいいのかは、あなたがやってみたいことや、なりたい自分のイメージによって決まります。自分に合った方法がイチバンなのです。

それではみなさん、楽しい「歌ってみた」ライフを!

関連記事・リンク

著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)MastodonYouTubeOFUSE

<音楽>

自宅ボイトレ15年のまとめ:高音、筋トレ、苦手克服、意見の違いを整理整頓! – 歌がうまくなりたい方はこちらをどうぞ!

クリエイター支援サイト9選ー作家視点のおすすめ&海外との比較 – いわゆる「投げ銭」サービスをクリエイター視点でまとめました。動画やライブ配信の収益化を考える際の参考に。

ゼロからわかる!初音ミク・ボカロPとは&音楽制作の行方 – ボーカロイド(ボカロ)の始め方を解説してあります。実を言うと私自身はアキハバラ系のコンテンツが苦手なのもあってボカロはまるきりなのですが、音楽の視点から初心者向けに書いてみました。新しいプロデビューの形にも言及しています。

女性ボーカルのアニソン:かっこいい~深い曲まで私が選ぶ16曲+α – 曲ごとに動画(なければ歌詞へのリンク)とカラオケのコツを付けました。あなたの好きな曲はランクインしているでしょうか?

Ado『うっせぇわ』の歌詞の意味を3つの視点から読み解く – 「歌い手」からプロデビューしたAdoの鮮烈なヒット曲についてです。「歌い手」の立場のことなども書きました。

評価二分の『ONE PIECE FILM RED』~ウタはなぜ”炎上”したのか – 「歌い手」Adoが主題歌・劇中歌の7曲を歌った、人気マンガ『ワンピース』の映画のレビューです。楽曲もレビューしています。

おすすめなアコースティックギターへの道案内~初心者女性の足跡をたどって – 自分で作詞・作曲してみたい方は、私が音楽を始めた時の話などもいかがでしょうか。初心者として楽器屋さんに足を踏み入れた時のことなども書いています。

声優になるために今から自宅でできること – 音楽ではなく「演技」という別の視点から発声について書いたことがあります。好奇心がくすぐられた読者はちょっとのぞいてみてください。

<ネット上のセキュリティ・プライバシー対策>

TwitterやLINEの乗っ取り対策と、SNSの今後 – アカウントの乗っ取り対策をまとめました。

YouTuberの行く末~問題とその後を解説 – YouTubeに動画をアップするときの注意点を書いておきました。

<主要参考資料>

『ヴォーカリストのための全知識』高田三郎著、2003年初版、2011年6月1日第6版、リットーミュージック

【歌ってみた】自宅で歌・ボーカルを録音するならコレ!必要な物やおすすめ機材ラインナップや機材を一挙紹介!(島村楽器HP)

石橋楽器、クロサワ楽器の店員さん方

トップに戻る