リスカをやめたいあなたへ:自分でできる認知行動療法ガイド

私はかつてメンタルヘルスに重大な問題をかかえていたころ、ネット上でリスカをしている大勢の人に出会いました。掲示板で「また切ってしまった」と泣いている十代の人。傷痕を服で隠すため、リスカがアムカになっていく人。闘病記にその経験を克明に記している読み物サイトの管理人さん。私自身はリスカはしていなかったのですが、その分読んでいて怖かったし、もう心配で心配でたまらなかったあの気持ちを忘れることはありません。

そういう過去があるから、私はリスカなど自傷行為におよんでしまう心理学的な原因については知見があります。しかも実は今、リスカから脱するのを支援してくれるすごいスマホアプリを知っているんですよ。

知れば助かる人がいる。助かる命がある。このページには、リスカをやめたいそこのあなたが自分でできる認知行動療法と、自傷行為の原因について正しい知識をありったけ詰め込んでおくので、ぜひ読んで実践してみてください。あなたが自分を傷つけないで暮らしていける穏やかな日が一日でも早く来ることを願っています。

筆者の一押しアプリ「Calm Harm」

Calm Harm(コーム・ハーム)は、リスカをやめたい人がその衝動に耐えたり、やり過ごすのを助けてくれる無料のスマホアプリです。

AndroidアプリストアのCalm Harm。世界で50万以上ダウンロードされている(2021年5月現在)。

精神医療には「弁証法的行動療法(DBT)」というのがあって、リスカなど自傷行為の衝動を制御するのに有効性が高いといわれているんですけど、Calm Harmはそれを自分ひとりでもできるようやり方を紹介したり、時間をカウントダウンをしてくれたりするスマホアプリです。アプリ提供者は、イギリスの臨床心理学博士・Krause氏が立ち上げた十代のメンタルヘルスに取り組む団体「stem4」。完全無料で、会員登録等もありません。Andoroid・iPhoneどちらでも出ています。

私は何年か前にこのアプリを偶然知りました。自傷を止める方法はもちろん、提供者は信頼できるか、あとアプリにあやしいところはないかまできちんとチェックしたのですが……判定はどこをとっても問題なし。それ以来、「リスカをやめたいのに……」と悩んでいる人にぜひとも教えたいと思ってきました。

Calm Harmによれば、リスカなど自傷の衝動は「波」だとか。なので衝動を制御する行動療法は、「波」が高まった時に低くなるまでなんとかやり過ごそう、やり過ごすのを覚えていこう、ということなんですね。Calm Harmは行動療法が自分ひとりでもできるようガイドしてくれるし、誰にでも無料で医学的な情報を提供してくれる。いい時代になったものです。

波をのりこなそう。

このアプリ、ホントすごいと思うんですけどひとつ難点があって、実は英語版しか出ていないんですよね……。

でもアプリの中はシンプルなので、なにも英語を読まなくても十分使える箇所はあります。(もちろん英語が好きならどんどんチャレンジ! 世の中には「学校で習った英語は使えない」みたいに信じ込んでる人多いんですけど、あれは神話にすぎないので、やってみれば読めます。ネイティブ英語に触れるチャンスなのでぜひ。)

それに、Calm Harmの趣旨は「弁証法的行動療法」を自分でやってみようということなので、やり方さえ覚えてしまえばこのアプリがなくてもOK。いつでもどこでもひとりでできるし、自前のタイマーを使ったり、友達といっしょにやったりと、やり方は自由です。

以下ではアプリの操作をサポートしながらやり方・使い方を翻訳して紹介しますので、リスカをやめたいそこのあなたは必見。これでつなぎとめられるものがあればと願っています。

初回セットアップ

さて、Calm Harmアプリをダウンロードして立ち上げると、初回だけいくつか質問が出てきます。次回からは聞かれません。

心おきなく始められるよう、初回セットアップでどの選択肢を選び、どのボタンをタップすればいいか、以下にガイドを書いておきます。

最初の質問は、住んでいる国。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアの人にはホットラインの電話番号などを教えてくれるようになっているのですが、ここは「その他」を選んで次へ。

「Rest of the World(その他)」を選んだら、画面下の「Submit(送信)」をタップ。

次に、アプリをロックするパスコードと秘密の質問をセットする画面が出てきます。

入力せず、下の「Skip」ボタンで進む。

パスコードを設定するのは、英語をいとわない人はいいんですけど、そうでない人はスキップしておくのを勧めます。というのも、パスコードと秘密の質問を両方忘れるとアプリを開けなくなってしまうので、いったんアプリをアンインストールして再インストールしなければならなくなるのですが、そうするとそれまでの記録が全部なくなってしまうということなんですよね。Calm Harmはそこまで個人情報が問題になるようなアプリではないので、パスコード設定はパスしてしまうのが無難かと思います。

3番目は、アプリ開発者から調査のための質問です。とくに答える必要はありません。

生まれた場所と性別、医療機関にかかっているかどうかを聞かれている。回答は必須ではないので、下の「I’d preffer not to answer(答えたくない)」ボタンをタップすればとばせる。

ここまできたら、あとは好きなキャラと、

好きなマスコットキャラを選んで「Continue(続ける)」をタップ。

色を選んだら

アプリ内のカラーテーマを選んで「Continue(続ける)」。

設定完了! 次のメニュー画面に出られます。

リスカ衝動の波をのりこなす4種類のアクティビティ

Calm Harmでは、リスカなど自傷行為の衝動をやり過ごすためのアクティビティが「なだめる(Comfort)」「気をそらす(Distract)」「自分を表現する(Express Yourself)」「発散させる(Release)」の4種類に分けて紹介されています。

Calm Harmのメニュー。4種類のアクティビティと、ランダムで表示されるモード、それから呼吸のエクササイズがある。

リスカの衝動は「波」だと言いました。切りたい切りたい切りたい切る!……と「波」が高まった時に、その波が低くなるまでリスカしないでいられればいい、ということなんですね。

アプリにも書いてありますが、人はみんな違うので、以下のアクティビティは「いいな」と思ったものを選んでください。「なんか気がすすまない……」と感じたものをやる必要はありません。自分のフィーリングやその時の気分に合わせ、あるいは自分でアレンジしてやってみてください。

時間は、1分区切りx最大5回で5分間か、15分間です。

なだめる(Comfort)

まず最初は、リスカの衝動をなだめるアクティビティ。メニュー左上、オレンジの子です。タップして、「5 Minutes(5分)」か「15 Minutes(15分)」を選ぶと、いろんなアクティビティがずらっとリストで出てきます。

5分間のアクティビティには次のようなものがあります。

  • 切ろうとしたところにバンドエイドを貼ったり、フエルトペンで模様を描いたりして、自分を癒そうとしていたことを思い出す
  • あなたにあたたかい笑顔をくれる人を5人思い出す。できればその人に電話をかける。
  • 手にハンドクリームをぬる。その気持ちよさを感じながら、やさしく。
  • 何かを食べてみる。ゆっくりと、その食べ物に集中して、楽しんで。
  • あなたの大事な人が悲しんでいたら、その人に何と言いますか?それを声に出すか頭の中で言ってみて、その言葉を自分にも言う。
  • とてもやわらかく抱き心地のいいものを探して、思いきり抱きしめる。そのやわらかさと心地よさを意識して。
  • 好きな歌を歌う、あるいはハミングする
  • 心地よい場所に座って、できるだけリラックスする。そしてやさしく息を吸って吐いて、体をもっとリラックスさせる
  • かわいい動物の動画を見る
  • クッションの上で、自分が水の上に浮かんでいると想像してみる

どうでしょう。いろんなのがありますけど、こういう何かをやっているうちにリスカの衝動をやり過ごそう、ということなんですね。ただその場をやり過ごすだけでなく、アクティビティはどれも心に良い作用があります。内容は自分に合うようアレンジしてOKです。

リスカの衝動が来た時にはどれかを選んで、まず1分間それをやり続けます。たとえば「ハンドクリームをぬる」を選んだら、まずハンドクリームをとりに行って、手にぬり始めて、だんだんその心地よい感触を意識するようにして――1分間。「かわいい動物の動画を見る」だったら、まずYouTubeを立ち上げて、「動物 かわいい」と打って検索、ずらっと出てきた動画からどれかを見始めて――1分間。

Calm Harmアプリを使うとこんな感じです。

「とてもやわらかく抱き心地のいいものを探して思いきり抱きしめる。そのやわらかさと心地よさを意識して。」60秒間スタート!

スタートボタンを押せば……

 

こんなふうにカウントダウンしてくれます。

無事1分経つと、「衝動は去りましたか?(Has the urge passed?)」と聞かれます。「No」の方は、同じアクティビティでも別のでもいいのでもう1分続けます。

「YES」なら、

よくできました!

波をのりこなせました!

アクティビティは覚えておいて、次に衝動が来た時にもやってみてください。こうして「リスカをしないでいられた経験」を積み、「できた」時の感覚を覚えていくことで自傷行為から脱していけるのです。続けていくと効果も高いそうですよ。

「なだめる(Comfort)」15分間のアクティビティでは、次のようなものが紹介されています。

  • 絵を描く、料理をする、文を書くなどあなたにとって落ち着くアクティビティをする
  • 好きな映画を見ながら、いちばんおもしろいシーンのことを考える
  • お風呂に入る。シャワーを浴びて、できる限りリラックスする
  • 音楽のプレイリストをつくる
  • ヨガのポーズを練習する
  • ブランケットやぬいぐるみと昼寝をする
  • お気に入りの本、マンガを読む
  • 誰かとゲームをする
  • 好きな曲を聴いて、歌詞の好きな部分について考える

15分間続けます。その間に衝動が去っていればお見事! 波をのりこなせましたね。

「なだめる」アクティビティは、リラックスできたり、やさしい手ざわりを感じられたりするのがいいですね。いいなと思うものをやってみて、あたたかな気持ちになってください。

気をそらす(Distract)

2番目、メニュー右上のピンクの子は「気をそらす(Distract)」アクティビティ。リスカしたくなってしまった時は別のことをしてやり過ごそう、ということです。こちらはちょっとしたクイズとか、連想ゲームみたいなのが多いですね。

5分間のアクティビティは以下のような感じ。「Aではじまる曲名を言う」など英語前提のものは使いにくいので、私のほうで日本向けにアレンジしてみました。

  • いまいる場所で、緑色をしたものを数える
  • 都道府県名を言っていく
  • テレビ番組のタイトルを最低15個言う
  • 知っているマンガのキャラの名前を言っていく
  • 「友達になりたい」と思えるマンガのキャラを思い浮かべる。その理由も考えてみる
  • まわりでどんな音がしているか耳を澄ます。いい悪いなどを判断せず、ただ聞いている。
  • ストレッチを始める。たとえばヨガの「ダウンドッグ」など。
  • スマホのアプリを並べ替える。何か月も使っていないアプリをアンインストールする

15分間のアクティビティはこちら。

  • 外に出て散歩する
  • 部屋をそうじする
  • 自分の服を整理整頓する
  • ジグソーパズルやクロスワードをやってみる
  • ショートストーリーを書く
  • イラストを描く
  • これまで聞いたことがなかったジャンルの音楽を聴いてみる
  • 笑えるYouTube動画を探す
15分間「部屋をきれいにそうじする」。順調、順調。

気をそらす方法には、連想ゲームやパズルみたいな方向のほか、整理整頓など作業的なアクティビティもあるんですね。好みや気分にもよりますが、それで身のまわりをピカピカに、なんていうのも気分転換にいいかもしれません。

自分を表現する(Express Yourself)

メニュー中段左、黄緑の子は「自分を表現する(Express Yourself)」アクティビティ。リスカの原因になっているつらい気持ち、または自己紹介的なことや感じたことを表現してみましょう。

「『なぜ私は自傷行為をやめたいのか、自分をケアしたいのか』について自分宛てに手紙を書く」。下の空欄は文を打てるようになっているし、手元の紙やノートを使うのもいい。

5分間の例はこちら。

  • あなたを悩ませていることを大声で言う
  • 友達にポジティブな言葉を書いてもらう。リスカをしそうになったらそれを読んだり、新しい言葉を付け加える
  • 自分の考えや感じたことを日記につける。もしできれば、信頼できる人に読んでもらう
  • SNSでポジティブなことを投稿する
  • 怒りや不満を全部紙に書いて、破り捨てる
  • 好きな歌詞を紙に書き写して、それが自分の心にどう響くのかを考えてみる

「自分を表現する」アクティビティの内容は、15分間でもあまり変わらないかもしれません。

  • ダンスやジャンプなど、身体を動かして気持ちを表現する
  • 詩や絵で感じていることを表現する
  • 感じていることに基づいてフィクションを書いてみる
  • 浮かんでくる思いを全部日記に書く
  • 心配事やストレスを紙に書いて吐き出す
  • 友達に電話をして、何でもいいからポジティブな話をする

「自分を表現する」といっても、おおげさに「いい作品にしなければ」とはとらえないで。大事なのは、気持ちを表現して外に出すことです。人間にとって自己表現は生きる喜び。無理せず気張らず、ピンとくるアクティビティがあったら心のおもむくままにやってみてください。

発散させる(Release)

4種類の最後、中段右の青緑の子は「発散させる(Release)」アクティビティ。リスカの衝動は、自分の体の代わりに別のもので発散させてしまおう、という発想です。

5分間の例は……

  • ゴムボールを強くにぎりつぶす
  • 超速くジャンプしまくる
  • まくらにパンチする
  • ひとりになって大声で叫ぶ
  • 古い新聞紙や雑誌を破いて気持ちを発散させる
  • ハイスピードでももあげをして、だんだんゆっくりにする
「気分が晴れるまで、まくらに向かって叫ぶ」。周りへの配慮もバッチリ。

15分だと……

  • 泣ける話や映画を見る
  • 最低5曲おどる
  • かんたんなトレーニングやヨガの動画を見ながらやってみる
  • 怒っていることを紙に書いて破る
  • イヤフォンをつけて音楽を聴きながら外を歩く

初めはやりにくく感じることがあるかもしれませんが、抑えられた感情を解き放つことには心身ともによい効果があります。感情の幅が増していくといわれます。いきなり激しくやってノドや体を故障しないよう、ウォームアップは忘れずに。

いちばんお手軽:深呼吸(Breathe)

以上が4種類のアクティビティになりますが、いかがだったでしょうか?

Calm Harmはもうひとつ、とってもお手軽なアクティビティを用意してくれています。深呼吸です。

メニューの右下が「Breathe(深呼吸)」。

ふうせんのようにふくらんだりしぼんだりするガイドに合わせて、吸って吐いてを1分間。

お手軽で、かんたんで、感性や事情を問わず誰にでもおすすめできます。私はこれだけでもCalm Harmをインストールしておく意味があると思ってます。

プワーっとふくれていくのに合わせて吸ってー(Breathe in)

止めて!(Hold!)

しぼんでいくのに合わせてゆっくり吐いてー(Breathe out)

またすうぅーっと吸ってー……そのくりかえし。秒数でいえば、3~4秒くらいで吸って、1秒止めて、5秒くらいかけて吐く、くらいですね。

アプリは1分間カウントダウンしてくれます。3~5分続けるといいそうです。

心に関することではイメージはとっても大事。ピンクの丸がいい感じで、イメージをつかめるのがいいですね。覚えてしまえばいつでもどこでもできるので、ぜひ今から一度やってみてください。

なぜリスカをしてしまうのか?―傷を隠すより、もとを断つために

以上、Calm Harmで紹介されているアクティビティは、リスカなど自傷行為の衝動に効果が高いといわれている認知行動療法のひとつ「弁証法的行動療法」に基づいています。

それはそうなんですけど、人の心と体は元来、命を守るようにできています。健康な人が自分の体を傷つけることはありません。リスカを考えたり、実際に切ってしまったりするとしたら、必ず何か原因があるはずなんですよ。

リスカしている人はよく「傷を隠すために服には気を遣ってる」とか、「半そでになったら傷痕を隠せなくなるからどうしよう……」と切実に悩んでいたりしますよね。だけどやっぱり問題はそこじゃない。傷を隠すとかそういう表面的な部分ではなく、根本的な原因を明らかにして、解消していかなければなりません。

その第一歩として、まずは日記というか、リスカしてしまった時には何がきっかけだったか、その時の気分がどうだったかなど自分の記録をつけてみてください。きっかけが明らかになってくれば、何を変えればいいか、今後どうすべきかも分かってきますし、医療機関を受診した際にも診断に役立つからです。

以下では考えられる代表的な原因をあげておくので、参考になればと思います。

身体的な暴力

私が真っ先に指摘したいリスカの原因は暴力です。これを読んでいるあなたは、家庭などで殴られたりしていませんか?

暴力を振るわれている人は、自分で思っている以上に心身とも傷ついています。

身体的な暴力を受けることが、なぜ自分を傷つけることにつながってしまうのか。それは、身体に痛みを加えられることで、自己と外界の境目をあいまいにしか認識できなくなってしまうのが大きな原因だといわれています。

人体のなかで、「皮膚」というのは自分が外界が触れる最初の部位。触覚をはじめ世界を知覚するさまざまな機能があり、最近は「0番目の脳」などともいわれています。その「外界との接点」を外部者から攻撃され、身体に痛みを与えられると、外界をうまく認知できなくなってしまう。自分で自分の身体のイメージをつかめなくなってしまう。

リスカしている人は、周りの人が青くなって「なんでそんなことをするのか」と聞くと、しばしば「自分が生きているかどうかを確かめるため」と答えるんですよね。あなたもそうかもしれないし、表現はちょっと違っても似たようなことを感じているかもしれません。昔ネットに生々しい手記を載せていた読み物サイトの管理人さんは、なんかこう、現実感を感じられず、リスカをしてはじめて「あ、ってことは、自分生きてるんだ」みたいになった、と書いていたんですけど、この管理人さんも父親がDVをする家庭で育ったということでした。ネットの掲示板でリスカしている子を見かけるとたいてい家に暴力があったので、私は長らく「リスカ=殴られてる子」くらいの印象を持っていたんですよ。

実際には、下記で解説する通り、原因は暴力に限らずいろいろあります。暴力を受けている人は必ずリスカをするようになる、ということでもありません。

ただ、自傷行為している人を調査したら暴力を受けている人の割合が一般に比べて高かった、という報告は医学界でもあるそうです。

リスカの原因が身体的な暴力だったらどうすれば?

身体的な暴力が自傷行為につながってしまうのは、外部者から身体を攻撃され、痛みを与えられることで、自己の身体のイメージをつかめなくなってしまうからでした。

なるほど。だったら、リスカから脱していくためには自分の身体のイメージを取り戻せばいい、ということになりますね。

これには、上記で紹介した行動療法がとてもよく効きます。

痛い思いをしてきたあなたには、とくに「なだめる」系統のエクササイズ、肌にやさしい実感があったり、おだやかなイメージを思い浮かべるイメトレ系をおすすめします。

「ものに触れる」ということは、誰しも日常的にいくらでもやっているじゃないですか。今の瞬間スマホをにぎっているとか、キーボードを打つなんていうのも、肌でものに触れていることに変わりありません。エクササイズでは、ものに触れることを、落ち着いて、意識的にやります。たとえばスマホだったら、「今スマホが手のひらに当たっている」と意識してみるんですね。その感触を、じっと味わってみる。机でも、木でも、触れれば感触が返ってきます。

やわらかいもの、あったかいもの、肌ざわりのやさしいものだと気持ちいいですよね。こう、触れてみると「フワッとした感触が返ってきた!」とか「手のひらがほわ~んとあったまってきた……」とか「やわらかくてすべすべしてる……」とか、意識的に感じてみる。クッション、枕、ぬいぐるみなど、やわらかいもの、肌ざわりのやさしいものをピックアップして自分の周りに集めておくといいでしょう。

殴る蹴るされて数限りなく、もう覚えていないくらい「身体の痛み」を経験してきたそこのあなた。今日からは「やさしい感触」を経験していってください。

精神面の暴力も

と、ここまで言及してきたのは身体的な暴力ですが、それだけではありません。精神面の暴力や性的な被害も、リスカなど自傷行為の原因としては代表的です。

「精神的な暴力」というのは、たとえば……

  • 親から「だめな子だ」と言われ続けている。あるいはそういう態度をとられる。
  • 「お前はいらない」と言われた。
  • クラスにいじめがあって、「キモイ」「死ね」などと言われた。
  • 無視される。
  • 職場でパワハラやセクハラをされている。

外部者からの侵犯がある。強いストレスがある。それは身体への暴力と何ら変わるところがありません。なので上で紹介した行動療法は、精神的な暴力、性被害を受けている人にも効果的です。

社会的支援

以上の通り、暴力で傷ついているあなたが自分でできることはあります。ただ根本的には、暴力がある生活環境を変えなければどうにもこうにも……。その環境にいるだけで、どんどん傷ついてしまうからです。

あなたが暴力で困っているなら、社会的な支援が必要です。学校に行っているなら、担任の先生や保健の先生に相談するのを強くすすめます。また、人が暴力を受けているのに精神は健康万全、ということはあり得ません。うつ病などが疑われる状態で苦しんでいませんか? 地域の保健センターへの相談や医療機関の受診も、社会的な支援と結ばれるきっかけになります。

あなたの事情がどのようなものであるにせよ、まずは誰かに自分のことを話してみてください。誰かに知ってもらうことがきっかけとなり、支援に結びついていけるからです。

どんな病気の可能性?

Calm Harmのアドバイスによれば、人が自傷行為をしてしまう理由はいろいろあります。

上記では私が昔ネット掲示板で受けた印象から真っ先に「暴力」を挙げたのですが、リスカの原因は精神疾患ということもよくあります。つまり、リスカしている人のなかには暴力とはまるきり縁がない人もまざっているのです。

以下では代表的な疾患をピックアップしておきますので、あなたの今後の参考になればと思います。

境界性パーソナリティ障害

自傷行為の代表的な原因に、パーソナリティ障害のひとつ「境界性パーソナリティ障害」があります。医療機関では「リスカをしている」と聞けばまずこれを疑う、というほど代表的な原因だそうです。

そもそもパーソナリティ障害には種類が10種もあり、「境界性」はその一つなのですが、それらはどれも「パーソナリティ(性格やものの見方、考え方など)の極端なかたより」を指しています。境界性パーソナリティ障害は、一言でいえば「見捨てられる」恐怖や不安があるというもの。より具体的に言うと、

  • 情緒が不安定
  • 慢性的な抑うつ感がある
  • 空虚感がある
  • 衝動性がある
  • 対人関係が非常に不安定

といった症状があるということです。……心当たりはありますか?

人のパーソナリティは、持って生まれた性質、周囲の環境、社会的背景などが複雑に影響しあって形作られていくもの。したがって、境界性パーソナリティ障害を患う原因は何か一つではないといわれています。境界性パーソナリティ障害は「見捨てられる」恐怖が軸ですが、ほとんどの患者さんには実際に見捨てられた経験はないんだとか。一般に患者さんは女性に多いといわれています。それこそリスカなどで周囲の家族や友人が不安になり、医療機関等への相談、受診にこぎつけるケースも多いようです。

境界性パーソナリティ障害の治療には、認知行動療法、精神分析的精神療法などが用いられています。抑うつ状態には投薬も効果があるということです。

もし症状を読んで「自分はこれかも?」と心当たりがあったら、早めに治療に入るといいそうなので、まず医療機関を受診することをおすすめします。私は患者さんに直接会ったことはないのですが、SNS上でいいねをくれた人が「境界性パーソナリティ障害で通院しながら治療をがんばってる」と話していたことがあります。抑うつに悩まされ「本当によくなるのかなと思う時もある」ということでしたが、医療情報によれば、数年~もう少しでよくなっていくということです。

解離性障害

境界性パーソナリティ障害と並んでよくあるリスカの原因が、解離性障害です。

先に言ってしまうと、解離性障害は、衝撃的すぎてそのまま受け止めれば精神が崩壊するような体験から精神を守るためのヒトの防衛反応です。

「解離性健忘(=衝撃的な出来事について思い出せない)」や「解離性遁走(=家など日常的な場所を離れて放浪し、その間の記憶がない。その間自分が誰であるかわからなかったり、その最中に起こった出来事の記憶が失われていることもある)などの形をとって表れます。こうした症状からかつては「多重人格症」と呼ばれていたのですが、偏見があったり興味本位で見られたりするのが問題となって、今日では「解離性障害」という名称になりました。

ほかには「離人症性障害」といって、現実の出来事に現実感がなく、まるで夢の中にいるように感じるなどという症状もあります。ただこちらは以下で述べるうつ病等や、健康な人でも寝起きなどには同じ状態が起こるので、現実感を感じられないからといって直ちに離人症性障害ということではありません。

くり返しますが、解離性障害は衝撃的すぎる体験から精神を守るための防衛反応です。なのでその原因としては、虐待、性被害などをはじめとするトラウマ体験が代表的。この「トラウマ体験」は、自分が直接被害を受けた出来事に限らず、たとえば事件や事故、災害を目撃してしまった、なども含まれます。また単発のトラウマ体験以外でも、精神的に抑圧された環境にある、極端な校風の私立学校に通っている、などが原因となって解離性障害を発症した例も聞かれます。

治療では、安全感、安心感を与え心理的に保護することが必要だということです。

もしあなたや周りの方が症状に該当するようなら、必ず医療機関を受診して専門家の助言を受けてください。

摂食障害

ものが食べられなくなる「拒食」と、拒食から突然大量の食べ物をとる「過食」。摂食障害は難病です。リスカとの関係では、太るのが怖いなど「自分の身体のイメージ」にトラブルが生じている点が重なってきます。

摂食障害といえば「太っちゃダメ」と言って自己流の食事制限をしていた十代の女子がものを食べられなくなってしまって……というパターンがよく聞かれますが、きっかけはなにもダイエットだけではありません。受験や就職、職場、自信を失うような失敗、人間関係などでの強いストレスから発症することもあります。境界性パーソナリティ障害やうつ病などとの合併も多いです。

治療ではさまざまな心理療法を行っていくということです。

私から強調しておきたいんですけど、摂食障害は難病です。悲しいことに、亡くなった方もおられます。食糧に全然困っていないこの時代に、食べ物が目の前にあっても食べることができなくなり、栄養失調で苦しんだ末……。どうか大変なことになる前に、専門の医療機関を受診してください。

うつ病

長期間気分が沈んだままになる「うつ病」。精神疾患としては非常によく知られていますよね。

原因は一つではなく、置かれている生活環境、性格の傾向などが積み重なってなるといわれています。離婚、大事な人の死といった人生での悲しい出来事や、仕事や子育てなどストレスが引き金になることもあります。

心の症状には、

があります。2週間以上にわたってこのような状態が続く場合はうつ病が疑われるとされています。

体のほうでも、不眠、頭痛、食欲低下、疲れやすいなどの症状が現れる人が少なくないようです。

うつ病の治療の基本は、投薬と、十分な休養です。個人的な話ですが、こちらは私に経験があるのでだいたい感じがつかめます。うつ病はセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質の減少によって引き起こされるので、投薬によって物質を補い、十分に休むうちに、やがては多少なりとも力が戻り、少しずつ回復していける。そんなイメージでしょうか。私の場合は強いストレス下の日々から受診にこぎつけるまでに何年もタイムラグがあって、そのために損をしたというか、治療も人生もうんと遠回りすることになってしまいました。その後は、まぁ、いろいろあってこうして生きられたのですが、受診は早いに越したことはないとは身に染みて思います。これを読んでいるあなたはできる限り早く、今日にでも受診できますよう。

強迫性障害

強迫性障害(強迫神経症)は、不安障害の一種で、自分の意に反してつまらない考えが繰り返し浮かんできて抑えようとしても抑えられない「強迫観念」や、そのような考えを打ち消そうとして無意味な行為を繰り返す「強迫行為」を症状としています。

具体的には、強迫的に手を洗うとか、ものの数を数えないと気が済まないとか、そういうのが強迫性障害の表れ。自分でもつまらない考えだとわかっており、やめたいと思っていても、やめようとすると不安が募ってくるのでやめられない、ということです。

強迫症状は、うつ病や統合失調症などほかの精神疾患、あるいは脳炎などの疾患でも出ることがあるので、専門的な診断が必要とのことです。

動物にもある自傷行為

誰がどう見たって、リスカは恐ろしいです。人間は普通自分を守ろう、生きていこうとするものなので、あなたが自分を傷つけているとなれば周りの人がぎょっとするのは自然なことでしょう。

人間は知能の高い生き物です。ゆえに複雑な悩みを抱くから、生き物としてあり得ないことをしてしまうのか――と思えてくるところですが、じつは自傷行為は動物にもみられます。

ひどい飼い方をされていたイヌが自分の体にかみついて、傷だらけの状態で保護された……。

鳥が自分の羽を抜いて、見るも哀れにボサボサに……。

こういう話、どこかで耳にしたような気がしませんか?

強いストレス下に置かれると、動物でも自傷行為という反応はしているのです。このあたりは医学、生物学とも研究道半ばらしいのでなんともいえないのですが、リスカというのはもしかしたら、自分にかみついたイヌや、自分の羽を抜いた鳥の人間版なのかもしれません。

結びに―心に浮き輪を

以上、リスカをやめたいあなたが自分でできる認知行動療法と、原因を探るための医療情報はいかがだったでしょうか? 情報はどれも確かな筋から引きました。たとえまた「波」が来たとしても、このページがあなたの心の浮き輪になってくれれば筆者として本望です。(家族や友達がリスカしていて心配だという方はぜひともシェアしてあげてください。)

知っていることはありったけ書いたんですけど、私はお医者さんではないので、あなたの病気を診断することはできません。私にできるのは、アプリを紹介したり、英語を翻訳して伝えるところまで。あなたに合った治療プランを立てることも、お薬を出してあげることもできないんですよ。なので、いまリスカをしている人には一刻も早く専門医療を受診してほしいと思います。

すでに述べた通り、自傷行為をしてしまう原因はいろいろあります。事情は人それぞれなので、これから歩んでいく道は一人ひとり違ったものになるでしょう。

しかしながら、リスカしているみなさんに共通して言えることがひとつあります。それは、「リスカしている時点で健康ではない」ということ。

考えてみてください、自分にかみついてボロボロになったイヌを……。自分の羽を抜き続けてボサボサになった鳥を……。もうムリムリムリ、目も当てられない。生き物は、普通なら自分自身を傷つけるなんていうことはあり得ません。自分の体に矛の先を向けている時点で、普通の状態ではないのです。

まずは自分でできる行動療法、やってみてください。まくらとか、クッションとか、やわらかいものを身のまわりに集めて、自分をふんわりやさしくいたわってあげてください。そして誰かに話してみてください。

私はお医者さんではないけれど、リスカをやめたいあなたにこの一言だけは伝えておきたいと思います――「お大事に」。

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自殺サイト・掲示板の思い出~自殺したい方憩いの読み物 – 筆者の回想録。何を隠そう私自身十代から二十代はボロボロで、そういう経験があるから今苦しい方を何とか支えたいという思いがあり、この度リスカしている方にどうか回復してほしいと、知っていることをめいっぱい詰めた次第です。個人的な回想録ですが、読み物としてよろしければ立ち寄ってみてください。

誰かの言葉で傷ついたとき、どうすればいい?―4つの応急処置方法 – 言葉の暴力にさらされている方に向けてずっと前にまとめた心の応急処置です。

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マインドフルネス瞑想のやり方と効果と徒然 – 「マインドフルネス」とは「今、ここ」だけに集中して、良し悪しを判断することなくあるがままの自分の状態を受け入れている心の状態のことをいいます。今回紹介した弁証法的行動療法のなかにもよく出てくるんですけど、最近のマインドフルネスブームはシリコンバレー発、ビジネス向けの自己啓発なんですよね……。まぁ、それでもマインドフルネス瞑想のやり方はきちんと載せておきましたし、トラウマをかかえた人への注意点も呼びかけているので、エクササイズに加えたり、参考にしてみてはいかがでしょうか。

<主要参考文献>

Calm Harm バージョン4.4.0(stem4 2021年)

ビッグ・ドクター家庭医学大全科(法研 2004年)

MSDマニュアル家庭版

『不幸にする親―人生を奪われる子供』(ダン・ニューハース著、玉木悟訳 講談社 2012年)

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