マインドフルネス瞑想のやり方・効果と感想徒然

書籍やネットで頻繁に目にする「マインドフルネス」。現代で深刻化しているストレスへの対処をはじめ、ビジネスでの成功やリーダーシップ論、スポーツなどで注目を集めています。

以前、自己肯定感についてショートエッセイ10話を書いた時、私は「心のあり方は人生をいいほうにも悪いほうにも根底から変える絶大な力を持つ」と言いました。今回は「マインドフルネス」とはどういうものなのか、そして「瞑想」のやり方を整理したあと、私が思ったことを徒然につづってみようと思います。

マインドフルネスとは?

マインドフルネスとは、

今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること

日本マインドフルネス学会設立趣旨

だと定義されています。

ふと思い出した、小さいころのいやな出来事。今日送らなければならないメールをどう書くか。人生先行きへの不安……。人の頭には、以前あったことや先のことが次々と浮かんでくるものですよね。このように浮かんでは消えてゆくさまざまな思念が日々のストレスや心配事、悩みにつながっています。

そこで、もし過去や未来に関して生じるモヤモヤを取り除くことができたらどうでしょう。ストレスや悩みの種が消えることになりますよね。

「マインドフルネス」は、「今、この瞬間」だけにフォーカスして、自己をただ観察することをいいます。頭に浮かんでくる過去や未来をそぎ落として「頭をクリアにする方法」だといえるでしょう。

マインドフルネスの効果

マインドフルネスの効果としては、ストレスへの対処をはじめ、心身の健康増進、自己成長、人間関係の改善などが挙げられます。その良さは、一時的なリラックス効果だけで終わらないこと。もっと継続的に、ストレスマネジメントの上手な人に成長することを目指していくのです。

具体的にはどんな場面で使われているかというと、まずあげられるのは自己啓発やリーダーシップ論、オフィスの人間関係を改善する社内研修といったビジネスシーンでしょう。あるいは、過去の試合結果や先への不安が心に重くのしかかるアスリートにメンタルコーチがアドバイスしたり、一般向けなところでは、ヨガ教室、健康番組なんかでもよく取り上げられています。もっと深刻な場面では精神医療の現場で、心的外傷を抱えた人や自傷行為をしている人などの心理療法、行動療法にも活用されています。

ブームのきっかけ

このようにマインドフルネスが幅広いシーンで注目されるようになった背景には、米Apple創業者・スティーブ・ジョブズの存在があります。かの世界的成功者、スティーブ・ジョブズが日本の禅に深い関心を持ち、瞑想を実践していたことが世に知れ渡ると、アメリカのビジネス界では瞑想ブームが沸騰しました。

最近の「マインドフルネス瞑想」は、Google社内で作られた研修プログラム「Search Inside Yourself」が書籍化されたことで注目を集めました。

近年のブームはシリコンバレー発だと言っていいでしょう。

なんかあやしい?―心配無用な理由

「瞑想」などというと、なんだかあやしくないかと勘ぐったり、読者の個性や価値観によっては気味が悪いと顔をそむけるかもしれません。自己啓発は悪質商法なども多いので、気にはなっても心配だという人もいるのではないかと思います。なので、ここでは信用の面に少々解説を付け足しておこうと思います。

いわゆるマインドフルネスの由来をたどっていけば、脳科学の研究に行きつきます。シリコンバレーのZenブーム以前から、脳科学では座禅している僧侶の脳波を計測するなどの研究が普通に行われていました。前述の定義を引用した日本マインドフルネス協会は、瞑想の実践や研究を行ってきた心理学、精神医学、宗教の専門家を中心とした団体です。つまりもとをただせば、ビジネス自己啓発ではなく、「心」にかかわる学問分野の人々によって研究されてきたのです。その一部を一般向けに広めたのが、今日私たちが目にする書籍や講座だということになります。

もちろん内面に関わることなので、講師や本の著者によってはスピリチュアルにとらえる人も散見されます。しかし、「『今、ここ』だけにフォーカスして自己を観察する」という骨格の部分はいたってシンプル。団体に所属したり、受講料を払ってセミナーに参加しなければできない性質のものではありません。

「マインドフルネス瞑想」のやり方

「マインドフルネス瞑想」の具体的なやり方は以下になります。

  1. 背筋を伸ばしていすに座る。目を軽く閉じるか、視線をななめ前に落とす。
  2. 自然に呼吸して、呼吸に注意を向ける。呼吸をコントロールしたり特別な呼吸法をする必要はなく、あくまで自然に。息を吸った時には、お腹や胸がふくらむのを感じる。吐いた時には、おなかや胸がゆるんで縮むのを感じる。
  3. 何かが思い浮かんできて注意がそれたことに気づいたら、注意をまた呼吸に戻す。

いかがでしょう。特別な道具などはまったくいらないので、日々の生活の中でもお手軽にできますよね。

最初は5~10分くらいやってみるといいといわれています。

頭と心をクリアに。

雑念はあっていい

なお、瞑想といえば「雑念がわいてくる」のが問題となりがちですが、マインドフルネスの実践において雑念は悪いものとは考えられていません

なぜなら、「そうだ、あとで○○さんにメールしなきゃ」であれ「昨日○○からかかってきた電話は腹立ったなぁ」であれ、何か考えが浮かんできた、その状態を客観的に観察するのが目的だからです。むしろ、「雑念がわいてきたからまだまだダメなんだ」と考えるなら、それは良い悪いの「評価を下す」ことなので本来の目的からそれてしまいます。

雑念が頭をよぎっていくのを含めて「ありのままの自分の状態」なのです。

「書く瞑想」とは?

上記の「呼吸」はいかにもそれらしいメソッドですが、瞑想には「座って目を閉じて精神集中」という形をとらないやり方もあります。

そのひとつが、「書く瞑想」です。こちらは「頭で考えず手を動かす」ワークのことで、「ジャーナリング」とも呼ばれます。

具体的には、「今日うれしい気分になったこと」「誰かに対する感情」など何かテーマを決めて、「文章を書こう」と気張ることなく、手を先に動かして頭に浮かんできた言葉をただ書いていきます。書き終わってふり返れば、紙に自分の今の状態が可視化されているので、自分の考えや気持ち、価値観などを客観的に見ることができるのです。大学生がよく行う自己分析に近いといえるかもしれません。

医学研究において、「書く瞑想」には、健康面ではストレス緩和だけでなく免疫、肺、肝臓をはじめとする身体機能の改善、社会的な面では他者との交流やコミュニケーションの改善といった効果があるとされています。

マインドフルネスに思うこと徒然

巷で話題のマインドフルネスが私の心に強い印象を刻んだのは、丸の内の大型書店、丸善でのことでした。

私は翌年の手帳を探しに行ったのですが、その手帳コーナーには1年間実践をサポートしてくれるという「mindfulness diary」なるものが。また資料集めで本棚の間を行き来していると、さすがは銀色のビジネス街、あちらにもこちらにも関連書籍が。ちょっとおもしろそうだと手に取ってみたのです。

ただ私の心に刻まれた印象は、あわただしい日々がバラ色に変わっていったとか、緑の風が頭の中を吹き抜けていったという感じではありませんでした。小さなトゲがチクチクうずくような残り方をしたのです。

私は決してマインドフルネスに否定的なのではありません。十分信頼できると思っていますし、研究には期待も寄せています。ただ、自分は関連本をそのままレジには持っていかなかった。それに、ブームとなれば粗悪な情報も比例して増加します。本をパラパラとめくっていると、「これだけは世に注意を喚起しなければ」と使命感を抱いてしまうような部分もありました。

そんなこんなで、以下では注意点を含めてマインドフルネスに思うことを、頭に浮かんでくるまま徒然につづっていこうと思います。

私の自己啓発観

さて、一体どうすれば仕事がうまくいくんだろう? 人間にとって、ビジネス(=お金)や人間関係は永遠のテーマです。知りたい人の人数に応じて、丸善にはビジネス書の棚がワンフロアを埋め尽くし、ネット上には何年かかっても読み切れないほどのコンテンツが浮遊しています。

仕事で成功するためには、良いマインドは必要不可欠だ。私はそう確信しています。

参考:自己肯定感を高める方法を探すあなたへの10話

なのですが、私は自己啓発本の類は前々から読まず、セミナーにも参加したことはないんですよ。丸善でせっかく見つけた「mindfulness diary」も、結局はパフッとワゴンに戻してしまいました。

別のスケジュール帳と大正デモクラシーに関する資料を肩から提げ、私は帰路の電車にゆられていました。心は少し疲れていて、ビュンビュン過ぎ行く秋の景色は幾分色あせたように見えました。

結局のところ、自分の頭で考えるのがいちばんなんだよな。

マインドフルネスの研修プログラムをつくった人には、その人独自の思考と文脈があります。その人にはその人をとりまく環境やコミュニティ、生い立ちやキャリアがある。私はそれとまったく別の人生を送ってきたのだから、食い違いが生じるのは避けられません。

それにかれこれ15年、私はいちばんの趣味である音楽で発声練習を続けてきました。呼吸には長年取り組んできたので、十中八九、ビジネス書の著者よりくわしいと思うんですよね。歌だけではありません。フィットネスジムで参加したヨガ教室で、「呼吸を観る」「体と心の状態を確かめる」というのは体験済み。また「書く瞑想」といいますが、私は大学くらいからノートの端に思い浮かんできた言葉をメモしてまとめあげる作業を膨大な量やってきました。作詞です(作品は音楽作品のページ参照)。

こうした実体験があるので、私はマインドフルネスの基本的な解説を読むたび、これは心身によい効果があるだろう、自分の成長につながるだろうとうなずきます。決して異論があるわけではないのです。ただ、研修プログラムを作った人々との間には、微妙な齟齬がある。加えて、本で解説してある呼吸や自分の状態を確かめる方法は、私が送ってきた人生においては特段新しい情報ではなかったんですよね。

怒涛の情報が猛スピードで走り抜ける現代社会。人心を引かんとするキャッチフレーズの強風は絶えませんが、心の奥にたたずむ自分の声にそっと耳をすませばどうでしょう。本当に知りたい答えは、得てして最初から、自分のなかに眠っているものです。

アメリカン自己啓発と大正キッチュ文化と私

丸善で平積みになっている「Search Inside Yourself(SIY)」ですが、この研修プログラムを開発したのはGoogle社内のエンジニアです。Googleは就業時間の20%を自分の仕事以外のプロジェクトに使っていいとする社内風土で有名ですが、これはまさに「自由時間」から生まれたイノベーション。Google社内で大評判となったので他の企業・組織にも広げていき、ついには太平洋の向こう側まで拡大したというわけです。

アメリカといえば、世界的な起業大国。既存の会社ありきの発想が深く根を下ろした企業中心社会・日本とは正反対に、なにもない大地に立って、さあ、ここで新しい生活を始めるぞ、というフロンティアスピリットを原動力に動くお国柄です。

だからアメリカ人は、「仕事」の発想自体が根本的に違うんですよね。ほんの一例ですが、私は前に「海外のYouTuberは起業家、日本のYouTuberは芸能人」という指摘をしました。等身大で裏表がなく、オープンでさっぱりした性格。「やればできる!」と精神論を叫ぶのではなく、成功だけを目的にすえていながら、地に足がついていて、案外カネ至上主義ではなかったりする。起業大国の成功者が語るビジネスの方法論は、合理的で現実的です。ビジネスは、ビジネスパーソンはこうでなければと、私はいつも開眼させられます。

ただ、自己啓発の方向となると、私はアメリカのそれとはどうもソリが合わないんですよね。

その理由をひもとくには、ビジネスではなく、文化や歴史の知識体系が有効です。アメリカン自己啓発が肌にしっくりこないのは、アメリカと日本、それぞれの抱える複雑な文化的・歴史的背景が互いにからみ合っているからなのだろう。私は自分でそう結論しています。

まずアメリカのほうは、世界各地から移民が集まって建国された、いわゆる「新しい国」です。

それゆえか、アメリカ人は物事に行き詰まると、外国の目新しいコンテンツに黄色い声をあげたりするんですよね。歴史の浅い自分たちにはない叡智を発見したような気がするのでしょう。1920年代には「モンロー主義」、近年では「アメリカファースト」などと言い出すのからすれば意外な横顔です。そしてアメリカ人が飛びついたコンテンツは、いつもアメリカの独特な思想・文化的風土にローカライズされます。アメリカン自己啓発はこうして生まれるわけです。

スティーブ・ジョブズをアイコンとした米ビジネス界の「Zen(禅)」ブームは、まさにこうして醸造されたアメリカン自己啓発でした。それからというもの、アメリカで「Zen」が取り上げられる場面では必ず出てくるイメージがコレ。ちょうど私が撮影した写真があるのでお見せしますね……。

「禅」の象徴……?

うーん……。禅のイメージとして間違っているわけではないし(この積み石を撮影したのは禅寺でした)、日本の禅をゆがめるなと偏狭なナショナリズムをふりかざすつもりもないけれど(だいたいそんな説教をたれるほど私は禅にくわしくない)、やっぱりチョットずれてるんですよね。

このように、もとが「まね」の自己啓発は、いくら高級感ある装丁、上質な紙に脳科学研究のグラフを載せたところで、表面的な感はぬぐえません。

では、アメリカと反対に歴史の古い日本はというと、こっちはこっちで、明治に萌芽し大正に全盛を迎えた「キッチュ文化」というミョーな文脈があるんですよね。

「キッチュ」とは、ドイツ語で「まがいもの」「模造品」という意味です。これについてはこの場で論じきれるテーマではなく、いつの日か十分な紙を割く機会があるでしょうが、戦前から戦後にかけて、日本では欧米の最新トレンドをまねするのがステータスシンボルだったり、エリート意識の源だったり、はたまた大衆文化の流行だったりする時代が続きました。

そんなキッチュ文化を象徴するのは、宝塚歌劇団だといわれています。……つまり今となってはすっかり「レトロ」の立ち位置に押されたのですが、実はこうした大正文化の流れをくむ人は日本社会に今でもわずかながら残っているんですよ。

私はこのエッセイを書こうと思い立ってからもう一度丸善を見て回ったのですが、メソッド本の著者紹介を開いてみれば、「宝塚」の残り香がふわりと立ちのぼる人がちらりほらり。アメリカで流行っているものを日本に持ち帰ることで、「自分こそは最先端を行くスーパーエリートだ」と信じ込んでしまう――そういう胸の張り方をして鼻高々な顔写真と目が合います。

アメリカ人がよその国からまねして作った自己啓発が、いまや日本人にとってもリアリティのない「キッチュ文化=欧米のまね」という文脈に置かれる。これはたとえるなら、忍者にハマったアメリカ人が、衣装は忍者、中身はスパイダーマンそっくりなニンジャ映画をハリウッドで制作したら大ヒット、そうしたら今度は日本人が「世界の最先端だ!」と飛びついてスパイダーマンぽいニンジャの映画を作りました、みたいなものなんですよね。だからもうなんだかよくわからんものが出来上がってしまう。私がアメリカン自己啓発とソリが合わない原因は、こうした二重の「まね」だと思っています。

自己啓発全般についてうさんくさいなどと否定的には考える人はけっこういるようですが、私はそうではありません。むしろ、新しい情報にオープンであること、自己としっかり向き合うことは人生を歩んでいくうえでとても大切だと思っています。

ただそれは、あくまで自分が主体的に行うこと。ビジネス書に載っているメソッドや壇上に立つセミナー講師についていけば人生がバラ色に変わるとか、そういうものではありません。メソッドを作ったのはどんな人で、信用に足るか、紹介しているメソッドに合理的な根拠はあるのか。相手がどういう人なのか意識することは、万人に強くすすめられると思います。

心的外傷を抱えた人はちょっと待って!

そう、自己啓発メソッドは取捨選択が大事なんですよ。個性や事情は人それぞれ。誰しも合う合わないが出てくるからです。

再び赴いた丸善をうろついていて、私は一点「これだけは」と世に注意喚起したくなったことがあります。

それは、「過去にトラウマがある人はちょっと待って!」ということ。

子どものころ親から暴力をふるわれていた、犯罪の被害に遭ったなどのトラウマ体験がある人は、マインドフルネス関連の本を読んでみて違和感があったり、瞑想などを実践して不調を感じたという場合は決して無理することなく、いったん冷静に立ち止まってほしいと思います。

つらい過去の先を生きている人にとって、マインドフルネスには心をひかれる要素があるかもしれません。なぜなら、「過去からの解放」が大きな関心事だから。この苦しみからぬけ出す知恵が載っているかも……と期待して手を伸ばす気持ちは分かります。

しかし、自己啓発本の著者は誰しも、必ず一定範囲の読者層を想定しています。たとえばある著者は「成功するために自分を変えたい経営者」に向けて書いているかと思えば、別の本は「同僚を抜いて昇進をつかみたい30~40代の事務職」を念頭に置いている。息ぬきタイムにいやしを求める人といっしょに楽しむスタンスのコミックエッセイだってあるでしょう。もし著者が想定している範囲に自分が入っていないなら、いくら読んだりやったりしたところで的外れな感じにならざるを得ないのです。

最近のマインドフルネスブームは、土台からしてビジネス向けなんですよね。本やセミナーを主催する団体のうたい文句に注目すれば、「Google本社で開発されたプログラム」「Facebookやフォードなどで採用」と大企業の名がズラズラと羅列されています。輝かしい企業の名で「自分もやりたい!」と信用するような人々が想定読者なのです。私が書店やネットを見て回ったところによれば、想定読者はたいてい「オフィスの人間関係を改善したい管理職」や「社内で昇進したいと思っている20~30代」といったところでしょうか。マインドフルネスの効果として「心的外傷の緩和」が挙げられていることはあるのですが、昨今の瞑想ブームは基本的にビジネス向けで、トラウマがある人を想定したものではないのです。

そこにもってきて、本の著者は不特定多数に向けて書く以上、大なり小なり最大公約数的な一般論におさめなければならないという事情も抱えています。

一口に「つらい過去」といっても、くわしい事情は一人ひとり違います。したがって、一般向けに書かれたメソッドでは、ある人には心のたんこぶをなだめる薬になったとしても、別の人にとっては古傷に激痛を走らせる劇薬になりかねないのです。

「慈悲の瞑想」はまぜるな危険!

私がとりわけ「これはちょっと」と首をひねったのは「慈悲の瞑想」でした。

これは「自分や他人の幸せを願う文言を心の中で唱える」というメソッドで、由来をたどれば仏教修行に行きつくのですが、シリコンバレーのZenブームによって最近はビジネスや心理関連でしばしば取り上げられるようになりました。

マインドフルネス関連の本にも「慈悲の瞑想」で唱える文言が載っていて、その一部に「嫌いな人の幸せを願う」というのがあるのですが、これ、すごーくうすーくのばした一般論なのがわかるでしょうか?

というのも、「嫌いな人」と言われて誰を連想するかは人によって全然違うんですよ。たとえばセミナー会場で、講師がいろいろ説明した後、「ではやってみましょう」ということになったとします。ある参加者が思い浮かべたのは「ひねた性格の佐藤先生」……誰?? と、我々からはうかがい知れない個人的な関係者かもしれないし、隣の人は「トランプ大統領」だったかもしれない。嫌いだけど幸せを願う相手がこの程度の人物だったら害はありません。ところが、心的外傷のある人はどうか。「嫌いな人」と言われたら即「子どものころ自分の体を触った父親」の顔、そしてその時の光景がフラッシュバックする人は、心の悲鳴を押し殺してまで「慈悲の瞑想」を断行すれば、精神状態を著しく悪化させかねません。

絶対に無理はしないで

すべてメソッドには、人によって向き不向きがあります。万人向けのメソッドはこの世に存在し得ません。

これを読んでいるあなたがもし「マインドフルネス本を買ってみたけどなんとなく自分に合わない」「瞑想をやるとなんかいやな気分になる」などと感じたなら、立ち止まってその理由を考え、取捨選択にのぞんで「捨」を選んでほしいと思います。

人生で不要な迷路に迷い込み、無用な苦しみを背負わないために。自己啓発はあくまで「道具」にすぎず、それをやらねばならない義務などどこにもない、ということを覚えておいてください。

結びに―主体的実践のなかにあり

先日、母が押し入れの奥を整理していた時のことです。

部屋に山積みされたお掃除グッズや衣料品。私がつま先立ちで通ろうとすると、ふと、表紙のひしゃげた本が下敷きになっているのが目にとまりました。「大事な本だったら大変だ!」と私があわてて引き抜くと、折れた表紙にはスポーツトレーナーの女性がでかでかと載っていて、「やせる」「お腹が引っ込む」といった文句がズラリ。5年くらい前に流行った、某骨盤ストレッチのメソッド本だったのです。そういえば、たしか母の知人がハマっているから話のタネに、とかなんとかでアマゾン注文を頼まれた記憶が……。でも、すでに街から消えた昔の健康法は痛々しくて、今ではもう見られたものではありませんでした。私が「○○ストレッチはもういいよね」とかざして見せると、母は「○○ストレッチはいらない」と苦笑い。こうして5年前のブームは、可燃ゴミの袋にほうりこまれたのでした。

メソッドには流行り廃りがあります。ちょっと考えてみてください。5年前に平積みされていたビジネス書が何だったか、あなたは思い出せますか?

近年話題のマインドフルネスは、もとは脳科学や心理学、精神医学の研究です。こうした分野の研究者たちは、ブームがどうあれ研究室へ毎日通い、これからもお坊さんの脳波測定などを着々と続けるでしょう。一方で世間のブームは去り、メソッド本はいつしか押し入れの奥につめこまれ、色あせていくのでしょう。

ワッと世に広まって、人々に「これはすごい!」ともてはやされるけれど、しだいにあきられ、いつしか消えてゆく――。世の流行の運命は儚く、何かを信じて進む気概すら失ってしまいそうです。

では、時を経ても変わらぬものは何なのでしょうか。

人間には常に課題があります。誰しも一生を何の心配事もなくのびのび生きられればよいのですが、現実には必ず不足が、体の痛みが、心の苦しみがあるからです。

再び5年前に流行っていた骨盤ストレッチをふり返って思います。ブームがどうあれ、ストレッチ方法として間違っていない限りは、大なり小なり健康増進効果があるはずなんですよね。次にどんなストレッチがブームになるかは神のみぞ知るですが、骨格バランスの大切さを理解している人なら、どのストレッチでもある程度はうなずけるはずなのです。

「仕事で成功したい」という願望もこれと同じ。それを何と呼ぶにせよ、「頭と心がスッキリした状態」は成功への道を歩む助けになるでしょう。余計な心配事を取り払って、目の前の仕事に集中できたら……。能率が落ちないようモチベーションを保てれば……。クリアな頭でビジョンを描けたら……。私はメソッド本とソリが合わなかったというだけで、こうしたマインドはすばらしく、ビジネスでの成功に必ずや寄与すると思います。

スタートラインは、自分の体系です。これだと決めた目標へ一歩一歩実践を重ねていくなかで、必要になった知識を探し出しては吸収し、自分のスタイルを最適化していく――。マインドフルネス瞑想にヒントを見出す人もいれば、新しい発見はなかったと書店の棚に戻す人もいるでしょうが、どちらにせよ、今後どんなメソッドが世に出てきたとしても、主体的でバランスのとれた心はいつも忘れないでいたいものです。

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(公開:2020年11月16日)

参考リンク

NHK健康チャンネル

日本マインドフルネス学会

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(筆者注:セミナー等主催団体。)

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