これまで個人情報流出事件やSNSアカウント乗っ取りに関する記事で、私たち個人のデータが現在どのように扱われているか、そしてそれが悪用された最悪のケース等をそれぞれ論じてきました。話が煩雑になるのを避けるためその時は触れなかったポイントカードについて、今回あらためて書き下ろそうと思います。
私は扇動的になるのを好みません。都市伝説をささやくのと同じ怖いもの見たさ・面白半分で「ポイントカードはとにかく怖い!」と言い立てる気はありません。テクノロジーといかに正しく健全に付き合っていくのかが課題となっている今、私自らがインターネットを介して人々に混乱を起こすのは恥ずべき背理だからです。
今回は、企業などによる個人情報利用の実態をありのままの「現実」に基いて解説し、それからTポイントカード、dカード等の個人データ第三者提供オプトアウト(離脱)方法を紹介します。ガイドに沿って第三者提供を止めることはもちろん、キャッシュレス支払いやSNS、そしてプライバシーの本当の意味を考えるきっかけにしてもらえればと思います。
目次
背景事情:「データ分析産業」の急な台頭
本稿は、最初に背景事情の解説から入り、次にプライバシーポリシーのチェックポイントや第三者提供拒否のやり方、最後にまとめと、順を追って説明していこうと思います。最近怖い出来事があったので「1秒でも早く第三者提供を止めたい!」という方は、先に具体的なオプトアウトガイドへ進んで、拒否設定が無事完了してから最初に戻ってきてください。
さて、あなたは「データ分析産業」というのを聞いたことがあるでしょうか。データ分析は、近年急激にのし上がった巨大産業です。私はこれまでの記事でも繰り返し取り上げてきました。
この産業を可能にしたのは、コンピュータープログラム(最近はオシャレに「人工知能(AI)」と呼びたがる人が多い)の発展です。
データの検索、照合、並べ替えは、コンピューター(=電子計算機)がもっとも得意とする作業です。かつて、企業はいくらお客のプロフィールやアンケート結果等(コンピュータープログラムの発展にともなって「ビッグデータ」と呼ばれるようになった)を集めても、手間がかかりすぎるので手のつけようがありませんでした。それが最近のコンピュータープログラムにより、処理可能となったのです。放置されていたデータの山が、ここ十数年で突然スポットライトを浴びるようになりました。
巨大産業にのし上がった、ということは、データ分析産業にはたくさんの顧客が付いたわけです。データ分析会社の客は、企業です。つまり、企業は大金を払ってまでデータ分析会社からデータを購入しているということ。これが、データ産業側がビッグデータを「21世紀の資源」と呼んでもてはやす所以です。
また、GoogleやFacebookをはじめとする企業は、データ分析プログラムの開発に巨額の投資をしています。巨額投資に勝る巨大な利益を生み出せると考えているからです。
では、大金をはたいてまで人々の行動パターン、願わくば個人のデータを手に入れると、一体何ができるというのでしょうか?
世界一怖い事件:いま何が起こっていて、何が問題なのか
私は以前より、「個人情報」と聞いたら米トランプ大統領を連想するよう提案しています。まず最初に最も怖いケースを頭に置けば、論点がはっきり見えるからです。
結論を一言で言えば、個人情報を手に入れれば、人々の心理を裏から操作できるのです。……SFホラー映画みたいな話ですが、それを現にやってのけたのがトランプ陣営でした。トランプ氏に雇われたデータ分析会社Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)は、Facebookから流出した8000万人以上の個人データを分析し、選挙戦の広告などに利用することで、人々の心理をトランプ氏への投票へ誘導したとみられています。
Cambridge Analyticaはトランプ氏の勝利パーティーに出席しており、”We did it!(やったぞ、成功だ!)”と喜び祝っていた。「良心の呵責に耐えられなかった」という同社元従業員は、そう証言しています。クライアントであるトランプ氏を当選に導いたことで社の実力を証明できた、というわけです。トランプ氏の予想外の当選は、個人データとその分析・活用によってもたらされたのだ、とまでいわれています。
個人情報を集めれば、極端な話、世の人々を大統領選挙であんな情緒不安定な人物に投票するよう誘導することだってできてしまう。怖いどころの騒ぎではありませんよね。SNS史上最大最悪といわれる同事件については、以下の記事で詳しく解説しました。
FacebookとCambridge Analyticaの事件徹底解説はこちら:インターネットからの個人情報流出事件解説と、自分でできる対策
最悪なケースから見えてくる、個人情報の本当の意味
すべての行動には、その人の人物像が表れます。そういった行動データを分析するという行為は、まるでタンスの引き出しを順々開けていくかように、あなたの頭の中身を閲覧して、あんなものがあった、こんなものが入っていた、あれとこれはこう関係していて……などとこねくり回すことに他なりません。
こうしてあなたの行動を分析し、まとめ直したデータ分析会社は、それを自社ばかりでなく、あなたとはまったく関係ない誰かのために利用できるのです。自分のデータは、一体誰に買われているのか? 想像しただけで気分が悪くなったのではないでしょうか。
個人情報を手に入れた者は、人々の心理を陰から誘導できてしまう。あなたに特定の商品を買わせることも、ある政治家に投票する気を起こさせることも……。それが可能になった危うい時代の真っただ中を、私たちは今生きているのです。
人の頭の中身は、モノではありません。プライバシーは、人間の尊厳に直結しているのです。
ポイントカードから集まる個人情報は?
こうした現代の怖さを押さえたところで、ポイントカードの話に入っていこうと思います。
Tカードのような加盟店方式のカードを念頭に置くと、ポイントカードによって収集され得る情報には……
- 氏名
- 住所(居住地域)
- 電話番号
- メールアドレス
- 生年月日(=年齢)
- 性別
- 職業
- 家族構成
- 購入した商品名
- 購入日時(何年何月何日何曜日何時何分まで正確に)
- 購入した店舗の位置/ネットショップならインターネット接続環境等
- クレジットカード番号
- クレジットカードの利用履歴
などがあります。
そりゃあ会員登録したし、レジでカードを出したんだからそうだろう……といえばそうなのですが、もしかしたらこの時点ですでにぎょっとした人もいるかもしれません。
たとえば、もし見も知らぬ人から「あなたは2018年11月14日水曜日7時34分にコンビニ○○駅前店でホットコーヒー(S)と週刊××を、同日12時13分に薬局○○通り店で鼻炎薬と裏起毛くつ下(紺)2足、12時24分にコンビニ○○通り店でチャーハン・シューマイ弁当を、17時26分にスーパー○○店で30品目サラダ2パック、ケチャップ(中)1本、健康緑茶(500ml)2本、ティッシュペーパー1箱……(中略)……を買いましたね?」なんて言われたらどう感じますか? どんなストーカーだ! 一体今までどこに隠れてつけ回してたんだ! そんなふうに悲鳴を上げるでしょう。ところが、現代社会ではこういったことは広範に行われています。この新手の「ストーカー」は目に見えにくい、というだけなのです。
「Google社は、生涯の大親友よりも配偶者よりもあなたをよく知っている」という有名な格言があります。オンラインショップやSNSはもちろん、スマホアプリなどを介して、本人すら覚えていないような事細かな行動データがどこかに記録されていることは、現代社会ではよくあります。ポイントカードも、使いようではそういった「ストーカー」の一つとなり得るのです。
さらに、企業による分析が加わると、集まったデータは姿を変えます。あなたのライフスタイルはもちろん、個人的な心の奥深くや社会的立場、健康状態など、極めてデリケートな情報まで描き出される可能性があります。
たとえば、ネットショップで「このアカウントの人は粉ミルクを買った」というデータがあれば、その人には離乳前の赤ちゃんがいる、と推測できますね。その購入日時から3年が経っているなら「おそらく現在3歳の子を育てているだろう」という推測が成り立ちます。これらの推測は、高確率で当たります。「粉ミルクを買った」というデータだけで、本人に直接質問するまでもなく、その人の年齢や家族構成がまるわかりになってしまいかねないのです。
さらに、「ある男性が、バイク雑誌と、政治家××を批判する本と、コレステロールはどうすれば下がるかについての本を買った」というデータを見たら、あなたはどう考えますか? おそらく彼はバイクが趣味で、政治家××に批判的で、コレステロールが高いことに悩んでいるのだろうと推測できますよね。このように、顔すら知らない人のことでも、買い物履歴さえ手に入れれば彼の個人的な内面や思想、健康状態まで分かってしまうんですよ。買った商品や購入場所のデータがたくさん積み重なっていけば、彼の購買力、つまり収入まで推測できるかもしれません。
もっとも、「ポイントカード」と一口に言っても、サービス内容は千差万別です。Tカードやdカード、Pontaカードのようにそれ自体が一大事業のポイントカードと昔ながらの紙のスタンプカードでは、もはや別物と言って過言ではありません。さらに、ポイントカードの使用頻度は利用者によって様々です。あの店、この店、買い物のたびに毎日何度もカードを出してポイントをためている人と、会員登録はしたけれどめったに使わなかった上、買い物履歴が2009年8月3日11時47分に東京駅内のコンビニでミネラルウォーター2本購入したのを最後に止まっている人では、状況はまったく違います。なので、竹を割ったような結論はありません。
ただ少なくとも、ポイントカードには、あなたの極めてデリケートな個人情報や驚くほど深い心理まで集まり得るのだということは分かると思います。

心理誘導の今昔:人の欲望は作り出せる
最近買った物、ほしいと思っている物、望む生き方。それらは本当にあなたの意思だったでしょうか?
「人の欲望は作り出せる」ということ自体は、新しいことでもなんでもありません。コンピューターがない昔から、人にモノやサービスを買わせたりする方法はありました。そしてそのような心理誘導は、ごく普通に行われてきました。
一例として、「マイホーム神話」はあまりに有名です。テレビのニュースやドラマ、娯楽向けの雑誌、映画やマンガに登場する家族をはじめ、世間のあちらこちらで「マイホーム」が話題にのぼっている。繰り返し流れるテレビCMでは、陽光さし込むすてきな戸建住宅で、夫婦と子どもが笑っている。こうして、本来はまったく別の話である「住宅」と「幸せ(のイメージ)」が人工的に結び付けられ、人の心の奥に眠る競争心もあいまって、やがては猫も杓子も「マイホーム」をほしがるようになる。このようにブームを人工的につくることで、人々の心理を誘導するわけです。マイホーム神話の時代、純粋に自分の意思で住宅を買うと決めた人などいったい何人いたのでしょうか。世を席巻したマイホーム願望のほとんどは、姿も見せぬどこかの業界人が、田植えマシンのごとく人々の心に植え付けた欲望にすぎませんでした。
では、最近の心理誘導は何が違うのでしょうか?
その新しさは、高度な「パーソナライズ」にあります。従来のテレビCMなどは不特定多数に向けた広告ですが、コンピュータープログラムの発展により、いまではあなただけにぴったり合った販売戦略がはじき出される時代になりました。とりわけネット上では、あなたのこれまでの行動履歴によって表示される広告が決まりがちです。
「この人は3年前に粉ミルクを買った」というデータがあれば、3歳児向けの子供服やおもちゃ、教材などのカタログを郵送するとか、ネット上でそれらの広告を表示させるといった販売戦略が可能となります。また、もしあなたがネット上でバイクの広告ばかりを見かけたなら、それは偶然ではありません。最近バイクについて検索したとか、バイクのサイトを見た覚えがあるはずです。
テクノロジーの発展により、こうした広告のパーソナライズはさらに加速していくと考えられます。「バイクに興味のある方はこちらにも興味を持っています」という形式の「おすすめ」が暴走すれば、しだいにどこからがあなたの意思だか分からなくなる。そんなことが起こる可能性があります。
「おすすめ」プログラムの問題点解説はこちら:おすすめの連鎖が生む、世にも不気味な現象
ポイントカードで収集された個人情報は、主にはこうした販売戦略に利用されます。
なら、ポイントカードの利用者はこれからの時代、何に気を付ければいいのでしょうか?
まずはプライバシーポリシーを読もう
その企業が個人情報をどう取り扱っているかは、規約とプライバシーポリシーで公開されています。後で述べるようにプライバシーポリシーのクオリティは企業によってまちまちで、残念ながらよくわからないままになることはありますが、とりあえず読んでみないことには始まりません。
まずは、気になるポイントカードは「誰がやっている」「どんなサービスなのか」を知ることです。
必須のチェックポイント5点
プライバシーを語るにあたって必須のチェックポイントは、
- 収集する個人情報は具体的に何なのか(氏名、住所、購入履歴、閲覧した商品の履歴、サイトを訪問した日時など)
- その利用目的(本人確認、商品の送付、マーケティング目的など)
- データの管理方法
- データの保存期間(一定期間後に削除されるのか、それとも保存期間が定められていない=ずっと保存されるのか。退会したあとデータは削除されるのか、それとも利用され続けるのか。その会社が合併あるいは倒産した場合、どう扱うのか。など)
- 第三者提供の有無(する場合の条件。提供先のリスト。何の目的でどのように利用されるのか。など)
です。プライバシーポリシーを開いたら、これら5点に注意してみてください。
自然なことと不気味なことを仕分けよう
現代社会の裏側で行われていることを知れば、「個人情報を提供する=ものすごく怖い」と感じるでしょう。「これからは全部拒否したい!」と頭から拒絶したとしても無理はありません。
しかし実際には、個人情報を提供するといっても全然怖くない場面は多々あります。
たとえば、通販のプライバシーポリシーで「収集する個人情報及びその利用目的」に「氏名および住所:商品を送付するため」とあったらどうでしょう? ごく自然ですよね。通販会社に名前と住所を教えなかったら、商品を送ってもらいようがありません。
このように、プライバシーポリシーには怖くもなんともない当たり前のことも書いてあります。そもそも個人情報とは、一切を絶対誰にも教えないような性質ものではありません。
また、会員サービスの内容がシンプルなら、個人情報の取り扱いもシンプルです。たとえば私は最近、ある海外化粧品メーカーのメンバーズカードをつくりました。プライバシーポリシーは、たったの数行。個人情報の利用目的は本人確認と店頭での商品紹介、データ管理を第三者に委託する可能性があるがそのときは本社と同様の管理をさせる、など。いたって自然な内容でした。きちんとした会社だという印象です。
長すぎる……プライバシーポリシーを読むコツ
これが複雑なポイントプログラムだったり、インターネットが関わってきたりすると、プライバシーポリシーは比例して長くなります。
長文のプライバシーポリシーは「むずかしそう……」「分からない……」と読む気が失せるもの。ろくに読まないまま「同意」をクリックするのが、もはや普通になっています。
「条文」と名のつくものを読むコツは、最初は重要な言葉と結論部だけを拾うことです。「機能改善にご協力いただくため……」などという「個人情報を提供するのはどれほど良いことか」を説明した部分は、ただの飾りなので全部そぎ落としましょう。先ほどのチェックポイントを見返してください。長くて堅い条文も、「何を」「どうするのか」の2点だけに注目すれば、うんとシンプルになります。
「何を」「どうするのか」を押さえてから、ひとまず読み飛ばした「どういう条件のときにそうするのか」に戻ります。この「条件」によっては結論ががらりと変わることもあるので要注意。たとえば「第三者提供は」「いたしません」と書いてあったとしても、文の途中に「お客様の同意がない限り」という条件が付いていれば、「同意があれば第三者提供します」と言っているのと同じです。
現状では、プライバシーポリシーの内容とクオリティには企業により雲泥の差があります。自社のビジネスをありのままに公表した透明性が高いものか、悪意はなさそうでも素人っぽいか、それともあの手この手でお茶を濁しているか。ある程度目立つところに載せているか、うんとわかりにくいところに隠してあるか。法的に十分なクオリティか、具体性がなくスローガンを吠えたレベルのものか。この企業は相手にしていいな、と思える場合もあれば、好感度が一気に冷え込むこともあるでしょう。
これは大丈夫? 判断に迷う条文
プライバシーポリシーを読んでいる途中、そのデータ利用方法は怖いかどうか、いまいち判断に迷う場面が出てくるかもしれません。
とくに、多くのプライバシーポリシーに出てくる「マーケティング調査のため」という利用目的は、漠然としていて分かりにくいですね。具体的にどんな調査を行っているのか、どこまで深く掘り下げているのか、私たちにはあまりよく見えません。
「マーケティング調査」は、ケースバイケースです。先ほど粉ミルクの例を出しましたが、薬局が売れた個数を数えて集計し、売れ筋の粉ミルクはAメーカーとBメーカーどちらなのかを調べるだけなら、おそらく抵抗はないでしょう。
それがあなたの他の買い物履歴や、登録した年齢、性別、行動時間や場所などと結び付けられ、自分にパーソナライズされた広告等に利用されていくとしたら? その方法や程度、人それぞれの感覚にもよりますが、不気味に感じるかもしれません。
いいのか悪いのかに、客観的な正解不正解はありません。プライバシーは、あなたが納得するかどうかです。
匿名加工してあるなら安心……とは限らない
プライバシーポリシーを読むようになると、「データは匿名加工して利用します」とか「氏名・住所等あなたを特定できる情報は利用しません」と規定されているのをよく見るでしょう。
なぁんだ、匿名なら安全だ……と思えるところですが、実は絶対とまではいえません。
たとえポイントプログラムからは氏名が提供されなかったとしても、その会社には別の経路からもあなたに関する情報が集まっているかもしれません。サイトのアカウントや独自のアンケートなどです。それらがどこかでつながれば、それはもはや匿名ではなくなります。
あるいは、あなたはあのサイトでもこのサイトでもお気に入りの同じログインIDを使っていたりはしませんか? 最初に説明した「データ売買」のネットワークにより、各所で愛用しているログインIDや電話番号が一致したことから、すべての個人情報がつながってしまうことはあり得ます。そうすれば、匿名化された情報からも個人は特定される。近年、そのような研究結果が出ています。
私たちにできる安全策は、「匿名加工されるとしても油断はしない」ことでしょう。最悪のケース、つまり匿名加工されなかった場合や個人が特定されてしまった場合を想定した上で、企業と付き合っていきたいところです。
第三者提供がもっとも怖い、その理由
プライバシーポリシーのチェックポイント5点のうち、最もデリケートなのが、第三者提供です。
プライバシーポリシーを読んで「この会社は信用できる」と結論し、ポイントカードを使い始めたとしましょう。しかし、自分のデータが全然別の会社の手にわたるなら話は変わってきます。提供された側の会社は、果たして信用に足るでしょうか?

一般に、第三者といってもデータ管理を委託されただけの企業やグループ企業(たとえば子会社なら、一応別の会社の形をとっていても事実上は親会社と一体だったりする)なら、最初の相手企業のプライバシーポリシーに服する限りあまり問題は起きないでしょう。
しかし、直接の関係性がない提携先が出てくれば、話はがらりと変わります。ポイントカード会社からデータの提供を受けた企業は、それを何のために、どのように利用するのでしょうか? あるいは、その第三者にデータ仲買業者や悪質な業者がまぎれていたら?
もっとも怖いのは、データを提供された第三者がさらに第三者提供を行っていた場合です。自分のデータが知らないうちに転々と動いていったら最後、私たちの力ではもうどうにも、その行方は制御不能に陥ってしまうのです。
第三者提供に「明示的な同意」をした覚えはないけれど?
プライバシーポリシーを読むようになると、必ずと言っていいほど「明示的な同意がない限り第三者には提供しない」と書いてあるのに気づくでしょう。ここでも「なぁんだ、大丈夫じゃん」と胸をなでおろすかもしれません。
ところが、これはなかなかトリッキー。会員登録した時点の初期設定では第三者提供するようになっており、オプトアウトしたい人にはそのオプションが用意されている、という形式が多いんですよ。つまり、初期設定のままでいると、意図せず「明示的な同意」をしてしまっているケースがほとんどなのです。(もっとも、第三者提供への同意を会員登録時の規約にねじこんでおくことで、オプトアウト方法を設けてすらいないポイントカードもありますが。)
「プライバシーに目覚めたのは、見も知らぬ会社から突然ダイレクトメールが届いて背筋が凍ったことがきっかけだった」という話はよく聞きます。こういうケースでは、自分の会員情報を掘り下げてみたら第三者提供の「同意」にチェックマークが入っていたのでガックリ……という結果になる確率が高いです。これを機に、スパッと第三者提供拒否設定をしてはどうでしょうか。
第三者提供拒否の実用的クイックガイド
ここからは実用的に、代表的なポイントカードでの第三者提供拒否(オプトアウト)方法を紹介します。効率よく達成できるようリンクも付けていますので、これに沿って進めてみてください。
Tポイントカード
Tカードは、個人情報提供オプトアウト方法を3通り用意しています。
Tサイトにログインして設定する、Yahoo! JAPANのアカウントを持っていない方などはTポイントカード番号のみで手続きする、アナログに書面を郵送する、のいずれかでオプトアウトできます。3つとも、以下のリンクから進むことができます。
Tカード個人情報提供停止ガイド:https://www.ccc.co.jp/customer/optout.html(新しいウインドウで開きます)
ここでは、Tサイトにログインして設定するやり方をとりあげます。まずは上記リンク先にある「Web『Tサイト[Tポイント/Tカード]』」をクリックして、Yahoo! JAPAN IDでログイン。するとこの画面に進みます。
この画面を下のほうに行くと、提供先企業のリストが出てきます。
「チェックが外れている=提供しない」です。あとでまた変更することはできるので、この際、根こそぎ外してはどうでしょうか。そしてページ下の「設定を変更する」をクリック。これで完了です。
同設定画面には、Tサイトの自分の登録情報確認・変更ページからも進むことができます。
この中の「各種停止」からも、上で紹介した画面へ進めます。
せっかくの機会なので、Tポイント・Tサイトに登録した情報を確認してみてはいかがでしょうか? データ流出事件の記事でも触れたのですが、スクリーン越しの相手企業に対して、自分のことを洗いざらい教える必要はありません。何なら教えてよくて、どこまでの範囲で付き合うかは、自分で決めましょう。それがプライバシーの本当の意味のひとつです。
数えてみると、提供先リストに出てくる企業は140社もありました(2018年11月時点)。Tカードを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ系列の会社はわかりますが、銀行なんかまで入っているのは驚きです。Tカード加盟店として有名な店なら耳に覚えがあっても、私にとってはその多くが縁もゆかりもない会社でした。おそらくみなさんにとってもそうではないでしょうか。Tカードによって集まったデータを、彼らは彼ら自身のビジネスのために利用している、あるいは少なくとも利用できる状態にあるわけです。(Tサイトの提供停止の設定ページには、どの提供先にどのような情報を提供しているかは問い合わせがあっても具体的には答えられない、と記載されています。また、同サイト「よくある質問」は、提供先同士での共有はないとしています。)
自分のデータはこれまでずっと、見も知らぬ140社に利用されていた。ショックだったのではないでしょうか。いまから変えられる部分は変え、この先ポイントカードをつくるときには最初から気を付ける。その後悔は、今後の教訓としていきたいものです。
dポイントカード
加盟店式の共通カードといえばTカードが有名ですが、同様のカードは他にいくつもあります。せっかくの機会なのでもう一つ、dカードにも触れておきます。
まず、dポイントクラブサイトにアクセスして、下のほうにある「会員規約・各種設定」に進みます。
次に「会員情報の確認・編集」へ。
進んだ先のページには、氏名や住所などが続く部分に「第三者提供許諾」という欄があります。
「変更」ボタンを押し、「第三者提供許諾」を「許諾しない」に変更。これで完了です。
店やブランドなどのポイントカードは?
Tカード、dカード、Pontaカードなどは加盟店方式の共通カードですが、ポイントカードといえば個人経営の店舗やチェーン店、商業ビルやブランドなどが独自にやっているものが大半です。財布におさまりきらなくなった人のため、文具屋にはカードケースたるものが並んでいるくらいです。
こういったカードは、発行元によりそれぞれとしか言いようがありません。規約はたいてい、カードの裏や公式サイトに記載されています。一律にアドバイスできることがあるとすれば、使わなくなったら退会してしまうとよい、くらいでしょうか。身の回りの整理整頓にもなります。
おまけ:LINEで絶対おすすめのプライバシー設定
SNS乗っ取り対策の記事では内容が雑多になりそうだったので言及しなかったのですが、いい機会なのでここで触れたいと思います。
第三者提供に関連して、LINEのプライバシー設定にはこんな項目があります。

――LINE上の友だちがサードパーティアプリに自身の友だち情報へのアクセスを許可した場合、そのサードパーティはあなたのプロフィール情報(=LINEで設定した名前、プロフィール画像、ステータスメッセージ、LINEが割り当てた内部識別子)にアクセスできる。――
「さらっとすごいことを言ったな!」という感じです。先に述べたFacebookとトランプ氏の事件で利用された「診断系アプリ」を彷彿させる設定ですね。しかしLINEに限らず、SNSとはこういうものなんですよ。
LINE友だちがあなたにいちいち「これから○○社にアクセスを許可するんだけど、そうすると○○社はお前のプロフィール情報にもアクセスできるんだって。いい?」なんて聞いてくることがあるでしょうか。まず現実としてありえませんよね。しかもLINE上の友だちには、直接会ったことがない人、疎遠になって久しい人、LINE上でしかつながっていない人等が含まれていることもめずらしくないはず。あなたが一切関知しない間に、サードパーティアプリがあなたの上記プロフィール情報へアクセスしている可能性があります。

無事拒否設定ができたら、「アプリからの情報アクセス」の下にある「情報の提供」と「広告の設定」にも行ってみるとよいでしょう。
LINEに限らず、SNSはとりあえずすべてのプライバシー設定を「許可しない/公開しない」で始めることをおすすめします。設定はあとからいくらでも変えられますからね。
SNSの設定に関してはこちら:TwitterやLINEの乗っ取り対策と、SNSの今後
クレジットカード、スマホ決済、SNS等は?
日本にも一応個人情報保護法があるので、クレジットカードやスマホ決済、SNSなどでもたいていは同じようなプライバシー設定ページや個人情報に関する問い合わせ窓口がもうけられています。疑問があったり、自分のデータ削除を求めたい場合には、相手企業に問い合わせてみてください。
ただここで、ある矛盾が生じる場合があります。電話やメールで情報の開示を求めたり、第三者提供オプトアウトを相手企業に頼んだりするときに、自分の名前やIDなどを伝えなくてはならない、ということです。現在のところ、この矛盾を解消する方法はありません。
「お得」「便利」だからといってスマホ決済やSNSなどをどんどん使ってしまう前に、現代社会で何が起こっているのか、またどんなことが起こり得るのかは頭に入れたほうがいいでしょう。キーワードは、「テクノロジー」と「ビジネス」です。
2019年消費増税とキャッシュレスでのポイント還元解説
2019年10月、政府は消費税を10%に引き上げると同時に、キャッシュレス決済によるポイント還元事業を開始しました。
この制度は、消費者が対象店舗で買い物するときにキャッシュレスで支払うと、中小規模事業者では5%、フランチャイズ店では2%がポイントで還元されるというもの。ポイント還元が行われるのは、2019年10月1日~2020年6月末までの9か月間です。消費増税で客足が遠のくであろう競争力が低い中小店舗を支援することが、本制度の主な目的とされています。
「こんなにお得に!」と盛り上がり、ポイント還元を存分に利用する方法を解説する雑誌。どのスマホ決済がおすすめか、表を載せる比較サイト。スマホ決済の始め方をやさしいイラストで説明するパンフレット。巣鴨へ撮影に行き「デジタルに弱いお年寄りがキャッシュレスを使えない」様子を流すテレビ――。
しかし、ここまで読んできた読者には、キャッシュレス支払いの裏側がもう見えているはずです。
買い物履歴争奪戦
ここで、スマホ決済サービスを展開する企業の立場に立ってみましょう。
スマホ決済には、代表的なだけでもLINE(LINE Pay)、ヤフー系列(PayPay)、楽天(楽天ペイメント)、NTTドコモ(d払い)、メルカリ(メルペイ)、KDDI(au Pay)、みずほ銀行(J-Coin Pay)など、多くの企業が次々と参入しています。比較的かんたんに参入できるからです。今回のポイント還元制度では、政府がこういったキャッシュレス決済業者に補助金を出しています。
スマホ決済業界は、競争がいちだんと激しくなっています。では、先に挙げたような企業は、具体的に何を奪い合っているのか? スマホ決済業者の競争とは、「買い物履歴の争奪戦」のことをいいます。一般消費者はぎょっとするかもしれませんが、法人・投資家の視座に立てばこれは常識。多くの利用者を獲得した業者は、それだけ多くの買い物履歴を手に入れられるのです。
スマホ決済とは、買い物履歴の分析・利用によって利益を出す「ビジネス」です。「無料であなたのお財布を軽くしてあげますよ」などというボランティアではありません。
ポイント還元という甘言
これはえげつない! 今回のポイント還元制度の中身を読んだとき、私は閉口しました。以下、4点を指摘しておきます。
第一に、先ほど、政府がキャッシュレス決済業者に補助金を出していると言いました。もっと言うなら、補助金を受け取っているのは決済業者だけではありません。政府は、キャッシュレス支払いを導入する店舗にまで補助金を出し、決済業者への手数料は一部、端末代は全額を負担しています。つまり、政府はキャッシュレス決済業を全面支援しているのです。
第二に、消費増税の負担軽減措置と言いながら、ポイント還元が行われるのはたったの9か月間です。それに誘われてスマホ決済などのアカウントを開いた人は、制度が終わったあとはどうするのでしょうか。せっかくだから、とそのまま使い続ければ、決済業者は引き続き買い物履歴を手に入れられます。たとえそれきり忘れ去ったとしても、決済業者側はそれまでに得たデータを利用できます。
第三に、データ分析が近年巨大産業になってきたことはすでに解説しました。一般消費者に無料でアカウントを提供し、ポイントをプレゼントするのと引き換えに、買い物履歴を獲得する。のちにデータ分析・売買で入ってくる巨額の利益を考えれば、1円、2円分のポイントをあげるなど「安い買い物」です。
最後に、本制度では、一般消費者への還元はポイントで行われます。現金で、ではありません。ということは、消費者は還元されたポイントでまた買い物をするのだから、決済業者にはここでもまた買い物履歴が流れ込むわけです。
以上のように、本制度において、キャッシュレス決済業者はどう転んだってもうけられるのです。一方、私たち一般消費者は、尊厳ある人間であるにもかかわらず、「21世紀の資源」として鉱山の石炭や海底の石油のごとく掘られる立場に。本制度は、最新のテクノロジーが可能にした「データ産業」が野放しにされた先例となったといえるでしょう。
消費増税の負担感をうやむやにしつつ、国民をキャッシュレス決済業者へ誘い込む――消費増税にともなう「ポイント還元」は、とことんえげつない制度でした。
巣鴨で「スマホ決済はわからないわ」と話すお年寄りがテレビに映れば、「キャッシュレスを使えないのはデジタルに弱いお年寄りだ」というイメージが暗黙のうちに伝わります。政府関係者が「海外ではキャッシュレス決済が普及しているのに、日本ではまだまだ現金払いが主流だ」などと口走るのは、「キャッシュレス=進んでいる、現金払い=遅れている」のイメージを国民に植え付け、キャッシュレスに走らせようとの意図でしょう。
事実は、正反対です。デジタルに詳しくなればなるほど、キャッシュレスには手をつけない。それこそが現代社会の最先端です。
私たちのプライバシーを、データ産業からいかにして守るのか。この問いは、国内だけでなく世界においても議論道半ばです。国際的な議論を深めつつ、国内では立法により規制していくべきですが……。現状では、自分の身は自分で守っていくしかありません。
ポイントカードとは、どうつき合っていくか
では、ポイントカードとは今後どう付き合っていけばいいでしょうか? ここではアイデアをざっと机に広げ、関連する知識を雑記しておきます。
まずは第三者提供の有無をチェックし、見知らぬ第三者への提供があるならオプトアウトする。これはポイントカードに限らず、どんなサービスでも気づいたときに必ずしておくことを強く勧めます。そうすれば人間関係は自分と相手企業の二者間になるので、自分に関する情報を自分のコントロール下に置いておける度合いが一気に高まるからです。
もし背筋が凍るような出来事があって第三者提供オプトアウトだけでは気が済まないというのなら、いっそ退会して、もう戻らないも手です。ポイントカードがストレスになっているなら、ばっさり断捨離して肩の荷を下ろすのは賢い選択といえるでしょう。
共通カードの場合、個人的に使用先を限っておくのも手です。たとえばTカードを使うのはレンタルビデオ店とレストラン何々だけと決めておく、など。こうすれば、相手企業に渡す情報量はうんと減ります。
ちなみに私は、Tカードを持っています。利用は限られた店で月数回あるかどうかですが、ちょっとした楽しみになることはあります。たとえば先日、キーボードをたたきすぎて指が痛くなったことがありました。それで急にアームレスト(手首用のクッション)がほしくなった時、ちょうどたまっていたTポイントで引き換えることができて、なんか得したとうれしくなったものです。そんなこんなでいまのところは持っているつもりですが、永遠にとまでは思っていません。必要性がなくなったり、あるいはサービス自体の変化や社会情勢にともなって不愉快になったりした場合は、スパッと退会してしまうかもしれません。先のことはこの先次第、という感じです。
あと、いらなくなった会員登録、アカウント等はほうっておくのではなく、削除・退会する。とりわけSNSや、職歴、健康などデリケートな内容を含む会員サービスは要注意です。心当たりがあれば、確実に退会すべきでしょう。
あるいは、カードの利用者ではなく法人の視点からアプローチしてみるのは、ポイントカードの仕組みを学ぶのにとても効果的です。たとえば、自分がラーメン屋を開いたと想像してみましょう。「Tカードに加盟するとどんなメリットがあるのか」を、店舗の立場から調べてみるわけです。もうひとつ、投資家向け情報にアクセスして決算書や取引先を閲覧すれば、「ポイントカードを運営すると、どこから利益が出るのか」がわかります。
私たち個人にできることはここまで。相手企業は自ら定めたプライバシーポリシー通りにデータを扱っているのか? プライバシーポリシーに記載がない事柄がある場合、それはどうしているのか? そこから先は、他のいかなるサービス同様、あなたが相手企業を信用するかどうかの問題です。
今までを後悔した人のために
データ利用の実態をこの記事で初めて知り、「今までの自分のデータがどこかに出回っているなんて……。どうしよう……」と青くなった読者の姿が目に浮かびます。「会員登録した時にタイムスリップして最初から第三者提供を拒否したい……」とか「現実を知っていたら、最初からTポイントカードなんてつくらなかったのに……」などと後悔はつのるばかり。それでも退会はしにくい、という場合はありますよね。
今までに提供してしまったデータは、もうどうにもできません。
ただ、一つ、救いになる事実があります。
データは、古くなるにつれて価値が下がります。利用価値が減るからです。
たとえば、大手ネットショップで10年前にしきりとフラダンス関係の商品を買っていた人が、今もフラダンスに興味を持っているとは限りません。とっくのとうにあきてしまい、教室をやめ、忘却の彼方である可能性はかなり高いですよね。なら、その人にフラダンス衣装の広告を見せるのは、販売戦略上効果的でありません。会員登録の内容から、その人の年齢や性別がわかる可能性はあります。それでも「10年前にしきりとフラダンスグッズを買っていた」というデータは、もうほとんど役に立たないのです。
なので、今までの自分に青ざめたなら、時が経つのをそっと待つというのも一手です。私も現在、2つほどのアカウントを「経過待ち」にしています。いかがでしょう。多少は救いになったでしょうか。
結びに
一口にポイントカードといっても、中身は千差万別です。Tカードやdカードのような共通カード、商業ビルのカード、交通系、クレジットカード、チェーン店のポイント、ブランドのロイヤリティ・プログラム、そしてシンプルな紙のスタンプカード。すべての形態のすべての運営者に当てはまる竹を割ったような結論は、出しようがありません。
ただ、ポイントカードは、空から降ってくる恵みの雨とは違います。必ず相手企業が存在していてカード越しに向き合っているのだという意識は、人間社会を生きていくにあたりなくてはならない感覚です。
「お得」への疑問符今昔:サービスしているのは、ポイントをもらっている側である
ポイントというのは長年、お店の売りでした。お得意様になってくれるよう、特典をつけるわけです。「ポイントをためてお得に買い物」は、「生活の知恵」として語られることすらありました。
ポイントカード普及のデメリットが指摘されることは、かねてからなかったわけではありません。市場全体でみれば、商品の価格が割高になりかねないからです。たとえば、家電量販店Aで独自のポイントシステムをやっていて、商品価格はあまり下げないけれど「ポイント還元」という形で値引きをしているとします。ところが同業のBやCもそれぞれ同じことをしている。なら、家電量販という業界でポイントが普及していなければ、商品自体の価格をもっと下げられたはず。ポイントシステムが普及しないほうが、市場の価格競争は活性化されるというわけです。
それでも、指摘されるデメリットは「囲い込み競争の弊害」でした。ポイントはあくまでおまけだったので、一般消費者が「怖い」と言うことはあまりありませんでした。
それがいまや、無料でサービスしているのは、ポイントカード利用者のほうだ。しかも皮肉なことに、お得意様になればなるほど、事細かな行動データを企業にゆずり渡している。その人の尊厳にかかわる大切な個人情報をたった数ポイント=数円と引き換えるなら、フェアなトレードとはいえません。こういうシーンを見かけるたび、私は何とも言えない気分になります。
コンピューター関連技術は、急速に移り変わる分野です。10年前の常識は、もう通用していません。
プライバシーは人間の尊厳に直結していると言いました。各ポイントカードとの付き合い方は利用者一人ひとりが決めることだ、とも。しかしその判断がどうであれ、私たちが今どういう世の中を生きているのかを知っていなければ、主体的な判断や自己管理はできません。
ポイントカードのこれから―予測不可能と予測可能
私たちには、ポイントプログラム運営者の頭の中を読むことはできません。インターネットから「SNS」という概念が生まれようとは誰も予想しなかったのと同じく、テクノロジーの発展が社会に何を生み出すかは未知数です。
しかし、何もかもが予測不可能なわけではありません。もっとていねいにみてみれば、かんたんに予測でき、かつ、ほぼ確実に当たる事柄はずいぶんあります。
まず、共通ポイントカードは魅力が命。使う人がいなければ成り立ちません。なら、たとえばTポイントカードが白い目で見られる代物になってしまい、利用者が減っていけば、ポイント事業は崩壊します。この因果関係は予測可能です。
また、コンピュータープログラムの発展がどうあれ、純粋な特典としてのポイントプログラムがなくなったわけではありません。これからなくなるわけでもありません。紙のスタンプカードはもちろん、化粧品メーカーのメンバーズカードもそうです。データ分析をしないか、するとしても自社の売れ筋調査など誰でもすんなり納得できる範囲にとどめておくこと、そして第三者提供をしないことが、店やサービス、企業のブランド価値になる時代が来るかもしれないと、私は期待しています。データ分析が盛んになった結果、かえって紙のスタンプカードの時代が到来するかもしれない。ポイントプログラムは純粋な「お得意様サービス」へ回帰するかもしれません。
ポイントカードのこれからは、運営する企業それぞれのモラルと経営手腕、そして利用者ひとりひとりが現実を知るかどうか、その現実についてどう判断するか次第です。
テクノロジーやビジネスと健全な関係を築くために
SNS乗っ取りや個人情報流出事件、人工知能を扱った時には記事からもれてしまったポイントカードについて今回あらためて書き下ろしましたが、いかがだったでしょうか。
私はこれまでIT関連にいくつもの記事を割き、夢中でタイピングしてきました。それくらい重要な案件だと考えているからです。インターネットや関連技術、関連ビジネスによっていま起こっていること――誰もがぎょっとするような一大事も含まれる――は、一般にはあまり知られておらず、関心も薄いのが現状です。
正しい知識は、広く共有すべきです。
発展していくテクノロジーを、いかに正しく健全に使っていくのか。
時には魔物に化けてしまうビジネスを、いかに制御下に置いて、「豊かさ」につなげていくのか。
冷静な頭をもって、事実に基づき、ていねいに思考して、きちんと話し合う。人類社会を持続させるための知性は、どんな時代が来ても決して変わることがありません。
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性質上、この記事は更新されることがあります。公開:2018年11月16日、更新:2019年10月15日。
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人工知能(AI)の問題点5選と、人間が全然心配しなくていいこと – 私にとっては「コンピューター、とりわけインターネット上に前からあったものが、突然オシャレに『人工知能』と呼ばれるようになった」というのが率直な実感でしたが、人工知能の研究自体は20世紀中頃から存在するコンピューター工学の一分野だということです。ただ近年、その定義があいまいであることに乗じて宣伝文句に登場させる商売人が増えたり、空想レベルの「情報」が跋扈したりしている状況に私は心を痛めています。現状では、ドラえもんのように人間とまったく変わらない思考をするプログラム・ロボットは夢物語にすぎません。にもかかわらず、その夢物語に立脚して議論したがる人は絶えません。しかも、インテリぶりたいマニア体質の人が振りかざす法律用語は荒唐無稽なのが定石。私はつい数日前もそういう理系出身の作家に頭を抱えたばかりで、他の読者がうのみにしていないことを願っています。私は現れては消えてゆく流行りだのポピュリストだのをこれまでいくつも横目で見てきましたが、「人工知能によって人類は滅ぶ」などという流説を耳に挟むたび「これは『ノストラダムスの大予言』系ブームだな」と感じます。こうした扇動と混乱を引き起こしているのは新しいテクノロジーではなく、他でもない人間です。事実・現実に立脚して論じ、人類社会を未来へ導いていきたいところです。
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