TikTok禁止をめぐる米国vs中国―規制動向まるわかりタイムライン

2018年に世界中で人気が爆発した動画アプリ「TikTok(ティックトック)」。中国企業によるIT業界の新星です。

しかし2020年夏、米トランプ政権は、TikTokを米国内で禁止すると発表。マイクロソフトをはじめとする米企業による買収計画が報じられたものの、その行方は混沌としています。

私はこれまで、GAFA独占によって起こった問題Facebookからの個人情報流出など、巨大IT企業をめぐる事件を解説してきました。今回は、中国の新星・TikTokが国家間かけひきの渦中に巻き込まれた経緯および最新の状況を追っていきます。

目次

TikTokとは?

TikTokとは、スマホアプリの動画投稿・共有サービスです。公式サイトは「モバイル向けのショートムービープラットフォーム」だとしています。また、TikTokアプリは簡易的な動画編集機能をそなえていて、スマホで気軽に撮った動画を、誰でもかんたんに加工・編集することができます。

AndroidアプリストアのTikTok。(2020年10月23日)

運営会社は中国のByteDance(バイトダンス/北京字節跳動科技、2016年設立)です。ビジネスモデルは主にTikTok上に表示する広告からの広告収入で、この点はYouTubeと同じなので詳しくは以下をご覧ください。

参考:YouTube社はどこから利益を出している?(「YouTuberの行く末~問題とその後を考える」より)

TikTokは10代の若者の間で爆発的な人気を博し、2018年前半にはiOSアプリストアでダウンロード数世界第1位、日本の2018年iOSアプリストアでもGoogleマップやLINEなどを押さえてダウンロード数1位に輝きました。

YouTubeとの比較―4つの相違点

動画の投稿といえば、Google傘下のYouTubeが世界一のプラットフォームとして君臨しています。両者を比較してみましょう。

まず、YouTubeはもともと「サイト」ですが、TikTokは基本的に「スマホアプリ」だという違いがあります。TikTokは、ちょうどInstagramと同じように、「スマートフォン」という現在一世を風靡している機械に根差したサービスなのです。

次に、アップロードできる動画の長さです。YouTubeでは、最大12時間におよぶ動画を投稿できます。劇場公開される映画でも尺はたいてい2時間ほどなのですから、事実上無制限といっていいでしょう。一方のTikTokは、たったの15秒に限られています。この短さ、ノリの軽さはTikTokの売りであり、その人気に火をつけました。

第三に、投稿されている動画のカラーにも違いがあります。YouTube上の動画はじつに多様で、エンタメだけでなく、映像作家の作品、報道、政治的言論など、重みのある動画も決してめずらしくありません。他方、TikTok上の動画は主にダンスや音楽、そして笑える「ネタ動画」です。TikTok自身、コミュニティガイドラインで自社のミッションを「人々の創造性を引き出し、喜びを提供すること」としており、娯楽であることをアピールしています。

最後に、YouTubeは今日では老若男女、万人が集まる動画サイトとなりました。一方のTikTokは10代の若者が中心です。若者向けのイメージから脱却できるかが今後の課題だといわれています。

TikTok Japanによる長岡花火大会の動画。最近は英会話や料理などオールジャンルの動画プラットフォームだというアピールに力を入れている。

以上の通り、TikTokはIT業界の新星とはいえ、少なくとも現状では世界一の動画サイト・YouTubeを食えるような存在ではありません。ユーザーのすそ野をいかに広げ、かつ、ネット動画という分野でどのようなポジションをとるのかが今後のカギとなっていくでしょう。

TikTok問題の序章

中国は、事実上の資本主義経済が大きく成長を遂げ、現在世界第2位の経済力を誇っていますが、別の側面としては一党独裁が続き、国民に自由がないといういびつな超大国です。

このような事情を抱えた中国が世界で影響力を増すにつれ、そのいびつさや不透明さから他国との間に摩擦が生まれることが、近年たびたび表面化しています。

動画検閲のスクープ

2019年9月、英ガーディアン紙は、ByteDance社によるTikTok投稿動画の検閲をスクープしました。

TikTokでは、動画のコミュニティガイドライン違反に「violation」「visible to self」という2段階がもうけられています。このうち「violation」にあたるとされた動画はTikTok上から完全に削除され、ユーザーアカウントも削除されます。「visible to self」はもう少し軽く、動画はTikTok上に残されますが、公開範囲が制限されます。

同紙が入手した内部文書によれば、TikTokでは、天安門事件、チベット独立、法輪功(90年代に創始された、道教と仏教ベースの独自の修行法)にかかわる動画が削除の対象となっているということです。

また同紙は、違反度が低いとして「visible to self」とされた場合、ユーザーには動画のどこが違反なのかわかりにくいという点も問題視しています。

ガーディアン紙の取材に対し、ByteDance社は、スクープされた検閲ガイドラインはすでに使われておらず、現在は投稿動画のポリシーは国ごとにローカライズを行っていると回答しました。

TikTokのコミュニティガイドラインは、現在も随時更新されています。

香港民主化運動の動画はどこに?

英ガーディアン紙が動画検閲をスクープしたのと同時期に、動画の検閲をうかがわせる別の指摘もなされていました。他のSNSと比べてTikTok上には香港民主化運動の投稿が極端に少ない、というのです。

この点を指摘したのは米ワシントンポスト紙でした。香港民主化運動に関するSNS投稿で使われる代表的なハッシュタグは「#antielab」というもので、ワシントンポスト記者が調べたところ、Instagramでは同タグの投稿が34,000件見つかりましたが、TikTokではわずか11件だったということです。また、TikTokで「#HongKongProtestors」を検索したところ、「このハッシュタグは見つかりません」というエラーメッセージが出たと報じています。

トランプ大統領という文脈

TikTok禁止はIT業界のニュースとして語られがちですが、事の全体をとらえるためには、欠かすことのできない視点があります。「アメリカ政治」「トランプ大統領」という文脈です。

ポピュリストであるトランプ大統領は、これまで国民の感情をあおることで支持を得てきました。今回のTikTok禁止以前に、トランプ大統領は支持者をつなぎとめるため、中国を敵視する過激な発言を立て続けに行ってきたという背景があります。

トランプ大統領がまずやり玉に挙げたのは、ファーウェイでした。ファーウェイは中国の通信インフラ企業で、近年ではスマートフォン端末なども手がけています。2019年には、ファーウェイ製の通信機器には中国政府のためにスパイができるよう手が加えられているとの疑惑が取りざたされ、同社CEOの娘で副会長・CFOの孟晩舟氏が米国での詐欺容疑で逮捕される事件がありました。こうしたファーウェイへの疑惑と締め出しの動きの裏には、常に米トランプ政権がありました。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大に際しても、トランプ大統領は「武漢ウイルス」と呼ぶなど中国への憎悪をあおる発言を繰り返します。そして5月下旬、トランプ大統領はWHO(世界保健機関)からの脱退を表明。その理由としたのは、WHOが「中国寄り」であるということでした。

トランプ政権は、2020年11月の大統領選を見据えています。バイデン氏優位との見方はしだいに強くなっており、政権は支持層固めに奔走しています。

このように、「IT業界の動向」ではなく「トランプ大統領」という文脈でみていけば、アメリカのTikTok規制は、11月に大統領選をひかえたトランプ大統領の支持者へのアピールの一環であることがわかります。ファーウェイ、WHOときて、今度はTikTok、ということです。

ポピュリストは、目立つことが生命線です。国民の感情――とりわけ憎悪――をあおる「お騒がせ」を途切れることなく発射し続けなければ、「人気」を失ってしまうのです。

今回のアメリカのTikTok禁止を理解するには、それを「米トランプ政権」という文脈の上に置く視点は欠かせません。

米TikTok規制まるわかりタイムライン

私は米TikTok規制の動向に当初から関心を持ち、ずっと追いかけてきました。ただその報道はなにせ「今日はこんな発表がありました」という速報の連続であるため、「で、今はどうなってんの?」と迷子になりやすいんですよね。

そこで以下では、日を追って次々流れてくる断片的な報道を整理し、TikTok規制の動向を一本の時系列に並べ直しました。自分で言うのもなんですがかなりの力作なので、読者にも「これを待っていた!」と便利に使ってもらえればと思います。

米TikTok禁止の前段

<2019年12月末>米軍で禁止

2019年12月末、米軍は職員に軍用端末でのTikTok使用を禁止しました。個人用のスマートフォンについては強制力はありませんが、アンインストールを推奨しました。

米軍はその理由を「セキュリティ上の懸念」としています。

<2020年2月>RedditのCEOによる発言が物議

米SNS大手・Redditのスティーブ・ホフマンCEOは、2月26日に開かれたシリコンバレーの投資家および起業家向けイベント「Social 2030」において、TikTokを「根本的にパラサイト(寄生的)」と発言し、物議をかもします。

Reddit(レディット)は日本ではほとんど使われていませんが、アメリカでは代表的なSNSの一つです。

同イベントは次の10年を形作るであろうソーシャルアプリにスポットライトを当てる趣旨で、多くの登壇者はTikTokのイノベーションを評価しましたが、ホフマンCEOは「常に盗聴していて追跡技術も恐ろしい。自分はインストールしない」と激烈に批判。「あのスパイウェアをインストールしてはならない」と呼びかけを加えました。ホフマンCEOは、具体的な根拠は示していません。

同23日には、米軍に続き、米運輸保安庁(TSA)も職員に対してTikTokの使用を禁止していました。

<7月7日>ポンペオ国務長官発言

米ポンペオ国務長官が、「トランプ大統領がTikTokの禁止を考えている」と発言。

<7月29日>Facebook・ザッカーバーグCEOによる批判

Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、市場独占に関する公聴会を前にTikTokを名指しで批判します。

ザッカーバーグCEOは、Facebookの成功はアメリカ的サクセスストーリーそのものであり、そうした米IT企業の力を弱めることは中国企業を助けることにしかならないと発言。そのなかでアメリカ国内で人気を増すTikTokを挙げました。また、「中国はインターネットの世界のルールを書き換えようとしている」と危機感を語りました。

これに対し、TikTokの新CEOであるケビン・メイヤー氏はすぐさま「TikTokはアメリカの一部である」と反論しました。

トランプ政権、TikTok規制を始動

<7月31日>禁止方針発表

トランプ大統領がTikTokの米国での事業を禁止する方針を発表します。

米メディアBloomberg(ブルームバーグ)は、事情に詳しい匿名の関係者から、米マイクロソフト社がTikTok買収に向けた協議を行っていると報じました。この時点では、マイクロソフトの広報担当はコメントを控えました。Foxビジネスも同様に買収計画を報じていました。

<8月2日>マイクロソフトが買収計画発表

マイクロソフトがTikTok買収計画を正式発表。この件についてトランプ大統領とも会談済みだとしました。

マイクロソフトによれば、トランプ大統領の禁止方針発表以前から買収の話し合いをしていたということです。ByteDance社は、TikTok禁止を回避するため買収に同意したということです。

<8月3日>

トランプ大統領が、9月15日までにTikTok米国事業をマイクロソフト社に売却しなければ禁止にすると発表。

<8月5日>

米ポンペオ国務長官が、米国内のインターネットから中国企業を排除しようとする取り組み「Clean Network」を発表。

<8月6日>トランプ氏、大統領令に署名

3日の発表を具体化する形で、トランプ大統領が2つの大統領令に署名。

大統領令は、アメリカ人および米企業のByteDanceとの取引を45日後に全面的に禁止するというもの。TikTokだけでなく、同じく中国企業によるソーシャルアプリ「WeChat」に対しても同様に取引禁止の大統領令を出しました。

WeChatは、中国企業・Tencent(テンセント)が運営するチャット・メッセージング・SNSアプリです。

AndroidアプリストアのWeChat。ダウンロード数は1億を超えている。(2020年10月23日現在)

TikTokの反論と反撃

<8月7日>TikTokが反論を発表

TikTok側が公式サイトニュースルームで「米国トランプ政権の大統領令に関するTikTokの声明」を発表し、大統領令に反論。以下引用は日本語版の一部です。

……これまでもそして今現在も、本件に対する適正な手続きを経るための法律の順守は一切行われていません。大統領令の文面を見ると、引用元の示されていない無名の「報告」に頼っていたこと、アプリが誤った情報を故意に流そうとしているキャンペーンに「使われているかもしれない」という根拠のない懸念、そして世界中の何千ものモバイルアプリの業界標準に則っているデータ収集への懸念が明記されています。私達は、TikTokが中国政府とユーザーのデータを共有したことはなく、中国政府の要求に応じてコンテンツを検閲したこともないことを明確にしています。その上、実際、当社ではモデレーションガイドラインとアルゴリズムのソースコードを透明性センターで公開しています。……

<8月24日>アメリカ政府を提訴

TikTokが、6日の大統領令は「過激な措置を正当化する根拠と法律上の適正手続をまったく欠いたまま(TikTokの)権利を奪う可能性がある」としてアメリカ連邦政府を提訴。

同社は、適正手続(デュープロセス)が無視されているだけでなく、大統領令の根拠とされた国際緊急経済権限法(IEEPA)が定める「通常でない異常な脅威」に当たる行為は見つかっておらず、また同法の適用にも誤りがあると主張しています。

中国側の対抗措置で、事態はさらに複雑に

以上のアメリカ・トランプ政権に中国が反応しないはずがなく、対抗措置を出してきます。こうして、TikTokは、アメリカ対中国の国家間かけひきの駒となっていったのです。

このあたりから何がどうなったのか見えにくくなっていったので、動向それぞれが意味するところまでしっかり解説していこうと思います。

<8月31日>

中国商務省は、「中国輸出禁止・輸出制限技術リスト」を改訂し、人工知能(AI)や個人向けデータ解析などをリストに追加しました。

TikTokに使われているプログラムは、この「人工知能(AI)」や「個人向けデータ解析」に該当すると考えられます。中国国営メディア・新華社通信は、売却交渉を中止すべきかどうかを「真剣かつ慎重に」検討すべきだという政府関係者の言葉を報じています。

したがって、ByteDance社は、中国政府の許可なしに海外企業へTikTokを売却できなくなりました。事実上、TikTokを米企業へ売却することは不可能な公算になったのです。

中国によるこの対抗措置の結果、TikTok買収の方向性は、完全な売却ではなく、株の一部売却へと変化しました。つまり、株主全体の過半数以上をアメリカの企業が占めることで、アメリカ国内のTikTokが米企業の傘下に入ることを目指していくことになったのです。

TikTok買収には、マイクロソフトのほか、Twitter、ソフトウェア大手・Oracle(オラクル)、小売大手・Walmart(ウォルマート)が名乗りを上げました。

(Marvin Tolentino© 123RF.com)

買収交渉のゆくえ

<9月13日>マイクロソフトが買収断念

米マイクロソフト社は公式ブログで、TikTok買収を断念したと発表しました。同公式ブログによれば、ByteDance社から同社には売却しないと知らされたということです。

<9月14日>オラクルが「提携」を発表・新大統領令

買収交渉に名乗りを上げていたOracleが「テクノロジープロバイダーになる」と発表。

買収ではないものの、オラクルがテクノロジー面に関わっていくことが明らかになりました。これにより、TikTokのユーザーデータはOracleの管理下に入るとみられます。

Oracleは発表のなかで「『(テクノロジープロバイダーとして提携することは)バイトダンスからアメリカ財務省への提案の一部である』というムニューシン長官の声明を承認する」としています。

同日、トランプ大統領は大統領令に署名し、11月12日までに交渉が成立しなければTikTokを禁止するとしました。(米大統領選は11月3日。)これは裏を返せば、11月12日までにいずれかの会社との交渉がまとまれば、TikTok禁止は回避できるということになります。

<9月18日>

米商務省は、8月の大統領令を受け、9月20日にTikTokとWeChatに関連する取引を禁止すると発表。

これにより、アメリカ国内ではTikTokとWeChatのアプリがダウンロードができなくなることになります。(ただし、インストール済みのTikTokアプリは最新版へのアップデートはできないものの使用を続けることができます。)

<9月19日>

Oracleが、トランプ大統領がOracleの提携案を暫定承認したと発表。

トランプ大統領のこの承認により、ByteDanceは「TikTok Global」という新会社を設立し、1年以内に米証券取引所で株式を公開、アメリカ国内だけでなく世界中でサービスを展開する予定となりました。

新会社「TikTok Global」の株式の過半数は、中国企業ではなく、OracleとWalmartを中心とするアメリカの投資家が保有することになる見通しです。

<11月3日>アメリカ大統領選

現職の共和党・トランプ大統領と民主党候補・バイデン氏が、票差わずか、開票速報で一進一退が続く大接戦にもつれこみました。

開票作業は難航しましたが、日本時間11月8日にバイデン氏が勝利宣言。世界各国の首脳がバイデン氏への祝意を発表しました。

トランプ大統領は敗北を認めておらず、選挙に不正があると主張し、開票の中止や集計のやり直しを求めて複数の州で訴訟を提起しました。これまで米大統領選は片方候補者の敗北宣言にて決着するのが通例となっていたため、異例の展開となっています。

なお、トランプ大統領の任期は2021年1月21日まで続くので、それまでの間は大統領令を出すなどすべての権限を行使することができます。

<11月12日>交渉期限、まとまらず

9月14日の大統領令で期限とされた11月12日の午後時点で、交渉はまとまっていません。ブルームバーグが報じています。

期限が迫る10日夜、ByteDance社は米政府外国投資委員会に期限を延ばすよう要請しており、同社スポークスは「変わらず全力を尽くしている」と話していました。

同社はオラクルおよびウォルマートとの合意を目指していましたが、最終合意には至らず期限日をむかえた形です。米政府が大統領令執行を裁判所に申し立てる可能性も出てきています。

現職大統領のトランプ氏は選挙での敗北を依然認めておらず、選挙以来TikTok売却について触れていません。12日には中国の軍事関連企業への投資を禁止する大統領令を出しています。

TikTok売却は、不安定な政局のなかで先行き不透明となりました。

<11月13日>期限延長

米政府外国投資委員会は、期限延長を求めていたByteDanceに対してもう15日間を与えると決定しました。

これにより、TikTok売却の交渉期限は11月27日まで延長されました。

<11月27日>期限再延長【更新】

トランプ政権はバイトダンス社に対し、売却期限をもう1週間延ばすと決定しました。

今回の再延長により、新たな交渉期限は12月4日となりました。よって交渉は続けられる公算となりましたが、現地22日には国家安全保障担当のオブライエン大統領補佐官がWeChatとTikTokの禁止措置が確実に行われることを期待すると発言しています。政権内や省庁間、米投資家、バイトダンス社の水面下での駆け引きは、結論が出ず混沌としたまま継続しています。

私見

以上、米TikTok禁止の動向を一本にまとめたタイムラインはいかがだったでしょうか? 私自身が便利に見返せるよう作ったので、頭ゴチャゴチャで困惑していた読者にも役立ってくれれば幸いです。

今回は、アメリカのTikTok規制という事件を私はどう見て何を思ったか、私見を述べて結ぼうと思います。

秘密が多くて外から見えない……

私は巨大IT企業の事件をこれまで何度も解説してきましたが、今回のTikTok規制だけは他と違いました。

情勢は刻一刻と変わりゆき、誰がどうしてどうなったやら、話についていくだけでも大変です。しかも大国の思惑が舞台裏でぶつかり合っているこの事件は、整理していて脳が汗びっしょりになりました。

TikTok規制事件は、なぜこんなに分かりにくいのか?

第一には、報道が断片的にならざるを得ないことが挙げられます。「トランプ大統領が大統領令に署名」といった数行の速報的なものが、早い時では翌日にもう古くなっている。たまりにたまった雑多な速報を机に広げると、一体どこから手を付ければいいものか、途方に暮れてしまいます。

が、私たちが迷子になる一番の原因は、動きがどれも水面下で進行していて、外部者には内幕が見えないことでしょう。

そもそも、一企業の行方にすぎない案件に政府が口出ししている時点で、本件はもはやビジネス界の域を越えています。

TikTok買収が国家レベルの問題へと発展するのに比例して、交渉の機密ぶりも国家レベルに。

マイクロソフトによる買収を報じたブルームバーグも、第一報の情報提供者は匿名でした。それが翌日のマイクロソフト公式発表の時点では、すでに「トランプ大統領とも会談済み」というところまで進んでいる。一体全体水面下で誰と誰の間にどんな話が進行しているのか、私たち一般人には知りようがないんですよね。

そのブルームバーグは、本件を米中の「冷戦」と呼んでいます。なるほど、たしかに水面下でスレスレのかけひきが進む様は、まるで冷戦だと思います。

「トランプ劇場」としてのTikTok規制

TikTok規制と買収は、もはや「IT企業の事件」ではない。「トランプ劇場」の一幕である。私は今回それを痛感しました。

21世紀前半現在、アメリカは世界一の超大国であり続けています。

しかし、絶大な国力を誇るアメリカは、奴隷制の歴史にはじまる人種差別、複雑化を続ける社会階層、国内の経済格差といった、根の深い社会問題をかかえています。アメリカン・スタンダードは、決して世界のスタンダードではありません。アメリカは、じつに独特な国です。

中間層は没落し、国民の間には経済面での怒りや政治への不満が山積。そして2016年、ついにはトランプ・ポピュリスト政権が立つに至ります。国民の感情をあおる独裁的な人物が大統領に当選したということ自体がアメリカの落日を世界に見せつけたわけで、私の目にも「病んだ超大国」の後ろ姿が焼き付いたものでした。

人類の歴史を学べば、国内で不満が高まったときに「外敵」の存在を持ち上げて排外ナショナリズムをあおるのはひとつの典型パターン、そして危険な兆候だと分かります。ポピュリストのトランプ大統領は、「外敵」として、こちらもまたいびつな超大国・中国に白羽の矢を立てました。

TikTok規制は国家安全保障のためなどといいますが、トランプ政権にせよ、RedditのホフマンCEOにせよ、危険性の根拠や証拠は示していません。ただ「危ない、とにかく危ない」と力押しで連呼しているだけなんですよね。

私はTikTok規制に関する記事のコメント欄やTwitterなどをずいぶん読んだのですが、アメリカ人の中国敵視は世界観(?)が独特です。「自分たちは自由な国だが、中国は自由のない国だ」という二項対立、進歩史観、上から目線の中国観は、私に言わせれば、今はなき欧米列強による帝国主義そのものです。200年くらいの時代錯誤を感じます。中国共産党がらみの陰謀論も、ファンタジー映画の観すぎじゃないかと言いたくなる独特な世界観。それを真顔で言い放っている人々は、私には被害妄想にとりつかれた「あぶない人」にしか見えません。なんだか宗教めいた話も少なからず。

もう、ついていけない……。TikTok規制の目まぐるしい動向ではなく、そのアタマについていけない……。それでも彼らは妄想が出る病気などではない「普通の人」なので、ポピュリストに熱を上げてしまう心理としては良い研究材料になります。もし興味があれば、トランプ支持者のTwitterなど、「実物」を見に出向いてはいかがでしょうか。

Facebookマーク・ザッカーバーグの必死の形相

Googleによるメール盗み見、Apple社員が日常的に行っていたSiriからの盗み聞き、Facebookからの個人情報流出やヘイトスピーチ問題、AmazonでもAlexaからの盗み聞きや市場独占。米巨大IT企業のぎょっとする事件については、私もずいぶん筆を走らせてきたものです。

参考:GAFA独占の問題点と日本の現状・課題

ピカピカな新興企業だったGAFAは、ほんの数年で急速に、絶大な力を振るう巨大企業、そして一般人からにらまれる「憎まれ役」のポジションに押しやられていきました。GAFAの一角・Facebookもヘイトスピーチや広告の問題等で批判され、しかも対応がうまくいかずFacebook離れが加速すればビジネス自体が下火になるという、困難な局面を迎えています。

そのCEOが中国のTikTokを名指しで批判したと聞いた時には、マーク・ザッカーバーグも落ちたものだと、私は思わず苦笑いしてしまいました。

彼の成功がアメリカンドリームの体現だという見方に対しては、私は心より同意します。最初はただおもしろいからやっていたことをビジネスの形に構築し、友達規模から学校規模、全国の規模、ついには世界規模まで広げていくのは、成功の理想的な道筋だと思います。

しかし、意気揚々と世界の長者番付を駆け上がっていた10年前と比べれば、最近のマーク・ザッカーバーグは必死の感が否めません。

ここ数年は年が明けるたびに「今年がSNS最後の年だ」という話題がのぼるくらいなので、同社がFacebook事業だけに安住していては先細るというのは確かにそうでしょう。ITはもとより猛スピードで変化する業界です。しかし、暗号通貨への進出を試みたり、今年には新規事業のバーチャルリアリティ「ホライズン」に巨額の資金を投じたりと、あれにもこれにも次々手を出すマーク・ザッカーバーグには、余裕というものがみられないんですよね。このままでは落ちていくから、なんとかしなければ、なんとか……。そんな焦りにたきつけられ、失う恐怖にとりつかれ、冷や汗だくだくの様相です。

そしてついには国策にすがりついてまでライバル企業を市場から排除してもらおうというのだから、情けないなぁと私は苦笑をこぼさずにはいられませんでした。これはもう、自力では中国企業に勝てません、ヘイトスピーチや市場独占に関する批判には対応しきれません、Facebookはあっぷあっぷしているんです、そう公言したようなものじゃないですか。マーク・ザッカーバーグのトランプ節の演説は、私の目には、アメリカンドリームの体現者もずいぶん小物になったものだと映りました。

目が離せない、超大国のかけひき

TikTok規制に息をまいたアメリカと、その買収に首を突っ込んだ中国は、どちらもそれぞれ、危うさを多分にはらんだ大国です。

トランプ政権の誕生以来、ヨーロッパ諸国において、アメリカはもはや「あぶない国」の一つとして見られています。メディアでトランプ大統領がキム・ジョンウンと同列に扱われていたり、ドイツのメルケル首相がトランプ大統領に詰め寄ったこともあるくらいです。

他方の中国はといえば、政権を批判したら即逮捕……そういう国です。

根深い矛盾をかかえた世界一の大国・アメリカと、まばゆい高層ビル群の陰で国民には自由がないいびつな大国・中国。2つの超大国のかけひきからは、今後も目が離せません。

(タイムラインは売却動向により更新されます。公開:2020年10月25日、最終更新:同11月28日)

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