FacebookのVR「ホライズン」はSNSとゲームに何をもたらすか

SNSやゲームという分野をまたにかけて話題の「ホライズン」/「メタバース」。米巨大IT・Meta(旧称Facebook社)の新サービスである。

私はITの経験から、SNSのいまや課題、問題、そして先行きをこれまでたびたび論じてきた。また同時にゲーマーでもある私は、「ゲームのおもしろさとは何か」について自分なりの考え方を練り、折に触れては少しずつ話してきた。今回は、FacebookのVR「ホライズン」を紹介したうえで、それがSNSとして、またゲームとして何をもたらすか、私の考えを述べていこうと思う。

VR「ホライズン」とは?

「ホライズン」の正式名称は「Horizon Worlds」。利用者はVR(仮想現実)世界「メタバース」の「市民」となって、世界を縦横無尽に動き回ったり、他の利用者と交流したり、ゲームを遊んだりできるというサービスである。

FacebookのHorizon Worlds

運営会社はGAFAと称される巨大IT企業の一角・Meta、旧称Facebook社である。「ホライズン」はその子会社・Oculus(オキュラス)の開発販売するVRヘッドセットで利用できる。

2019年に発表された時点では「Facebook Horizon」という名称だったが、2021年10月には「Horizon Worlds」に変更された。社名変更と同時期に行われた名称変更については後述する。

ゲームでもSNSでもある仮想空間

「ホライズン」は、ゲームであり、SNSでもある。

VRヘッドセットをつけたプレーヤーは、ゴーグルのなかに広がる世界「メタバース」を、物理的な制約なしに探索できる。

VRヘッドセットをつけたカップル
VRヘッドセットとはこのようなゴーグルのこと。つけている彼らには、仮想現実の世界が見えている。

公式サイトでの過去の発表によれば、プレーヤーは自由自在に空を飛んだり、月まで飛行したり、海に潜ったりできるという。また、あらかじめ用意されたパズル、チームスポーツなどのゲームで遊ぶことができるといい、以前公式サイトでは飛行機操縦のゲームが紹介された。

さらに、プレーヤーは運営会社が制作した既成の世界で遊ぶだけでなく、モノ、新しいゲーム、さらには世界まで「作る」ことができる。「作る」といっても、初心者から上級者まで楽しめるよう、制作ツールはドラッグアンドドロップ方式でかんたんに操作できるという。

以上の点においては、「ホライズン」は「自由度の高いゲーム」といえるだろう。

一方、仮想空間・メタバースはSNSとしても機能する。利用者がコミュニティやイベントに参加したり、開催したりできるのである。従来のフェイスブックサイトで行われてきたことが、新しいVR世界・メタバースで行われるとみればよいだろう。ビジネス向けには、アバターで参加するバーチャル会議システム「Horizon Workrooms」も発表されている。

……と、ここまで私は、VRゴーグルをかけて「ホライズン」をやっている人を「利用者」と呼ぶか、それとも「プレーヤー」のほうがいいか、あれこれ迷いながら書いてきた。報道を見渡しても、あるメディアが「仮想現実のSNS」と紹介したかと思えば、別のメディアは「VRサービス」と呼んでみたりと、執筆者ごとに表現がバラバラである。説明に手をこまねくようなものであること自体が、新しさへの可能性をにおわせている。

巨額投資で注力する新サービス【更新】

Meta社(旧称Facebook社)は、Horizonの開発に巨額の投資をしてきた。資金面だけでも注力ぶりは十分うかがえるのだが、それだけではない。2019年にプロジェクトを発表して以来、同社は仮想空間がある程度整った時点で一般ユーザーに門戸を開くのではなく、十分なプラットフォームに構築できてから満を持してリリースする姿勢を貫いている。2021年現在も、世に出ているのは招待ユーザーのみが利用できるベータ版止まりで、一般向けにはサービス開始されていない。

同社は2021年7月には仮想空間「メタバース」事業に注力すると明言。同時に、Horizon内でゲーム制作やイベント企画などを行うクリエイター支援のファンドを立ち上げ、1000万ドル(約11億円)を投じると発表した。しかもこれだけでは飽き足らないとばかりに、同9月には、メタバースの開発研究やパートナーに2年間で5000万ドル(約55億円)を投資すると追加発表を行っている。

マーク・ザッカーバーグCEOは、VR「Horizon Worlds」を主力サービスに育てる意志を表明している。同社の看板SNS・フェイスブックからシフトして、「メタバース」に社運を賭けていると言って過言でないかもしれない。

SNSとしての「ホライズン」

以上、「Horizon Worlds」の概略と、発表からこれまでのあらましを紹介してきたが、いかがだっただろうか。

ここからは、発表されている情報に対する私の考えを述べていこうと思う。まず最初はSNSとしての顔に焦点を当てる。

端末(ハード)の普及なるか

私は、「Horizon」最大の関門は端末だろうと思う。同サービスを利用するには、Oculus(オキュラス)のVRヘッドセットが必要になるのである。

その値段は、最新機種「Oculus Quest2」がストレージ128GBで37,180円(税込み、以下同)、256GBでは49,280円になる。しかもこれはヘッドセット単体の場合で、快適に使用するための専用「Eliteストラップ」を付ければ6,820円、長時間使用のためバッテリーを内蔵したストラップなら13,200円が上乗せされる。

正直、かなり高価ではないだろうか。エントリーモデルのパソコンならこれより安く買えてしまいかねないし、ゲーム機ではニンテンドースイッチが32,978円、ソニーのPlayStation 4も公式ストアで32,978円。さらに、ソニーはすでにVR機を出しているのだが、その「PS VR」はソフト「PlayStation VR WORLDS」同梱で38,478円である。

SNSの元祖であるフェイスブックは、本質的にはインターネット上のサイトである。政治に影響力をもつに至るまで巨大化したせいで「フェイスブックをは何か」という定義の部分がぼやけてしまったきらいがあるが、もとをただせば、ネット上に星の数ほどある「ウェブサイト」の一つにすぎない。ただのサイトだから、パソコンかスマートフォン・タブレットがあればアクセスできる。そのパソコンやモバイル端末が世界中でこれほど広く普及しているのだから、利用開始へのハードルはないに等しかった。その手軽さ、そして利用料無料であることが、全世界の月間アクティブ利用者数26億人(2020年第1四半期)につながったのである。

ところが、「ホライズン」は「やってみようと思ったらいますぐ」とはいかない。まずは高価なVR端末を買って来なければ、「Horizon Worlds」の入り口にも立てないのである。マーク・ザッカーバーグCEOはインタビューでメタバース戦略は様々なデバイスに広がっていくと答え、パソコンやモバイルでの利用をにおわせたことがあるのだが、具体的な開発や計画ははっきりしない。

SNSをはじめ、オンラインの会員制サービスは手軽さが命である。会員登録や購入までのクリック数を一つでも減らさなければ多くの人は脱落してしまうというのが、IT業界の鉄則である。

「ホライズン」に、5万円もするVRヘッドセットを買ってまでやってみたいと思えるほどの魅力があるか。そこが焦点になっていくだろう。

フェイスブックらしくないアバターシステム

「ホライズン」利用者は、アバターで仮想現実の世界に参加する。このアバターは自由に編集でき、本人とまったく違う見た目にすることもできる。

利用者が本来の自分とは異なる姿で活動するのは、アバターシステム一般としては少しもめずらしくない。たとえば男性が「ポケモンGO」の世界では女性だったり、カラオケサイトですっぽり着ぐるみに身を包むのだって普通なことである。ゲームの主人公は、自分の分身ではなく、自分と切り離して考える人が多い。私もそちらのとらえ方をする一人である。

しかし、Facebookはずっと「実名」へのこだわりを特徴としてきた。ユーザーがフェイスブック上で別人になることを避けてきたのである。それを考慮すれば、「ホライズン」はかなり毛色が違うことになる。

Facebook社はこれまで、インスタグラムなど他サービスの買収で大きくなってきた。それを思えば、毛色の違うブランドを持つのは、それほど不自然ではないのかもしれない。

VRである意義は?

VRという新しさがあるとはいえ、「Horizon」が「SNSの新手」である以上、ローンチは既存のSNS業界への参入を意味する。

ただ、他ユーザーとの交流やコミュニティ、ネット上のイベントなどは、従来のフェイスブックでも行われてきた。あまり広まってはいないが、ビジネス向けプラットフォームもかねてより存在している。単にSNSなら、「ウェブサイト」という方法でも十分できるのである。それをVRで行うことに、何かメリットはあるのだろうか。

VRの特色には、「没入感」や「体験」があるといわれる。それを活かしてオリジナリティあるプラットフォームにできるのか。また、フェイスブックが培い、他すべてのSNSの原型となった「型」を同社が自ら打ち破り、SNSの系譜に新たな概念を生み出せるのか。「ホライズン」は、VRである意義が問われる。

名称変更・社名変更のねらいは【更新】

2021年10月には、サービスの名称が「Facebook Horizon」から「Horizon Worlds」に変更された。創業以来の看板サービスであり、社名でもある「Facebook」をタイトルから外した形である。

facebook horizon
旧タイトルとイメージ。以前のほうが遊びや楽しさを前面にアピールしているといえるだろう。

しかも、続く10月28日には社名を「Meta」に変更すると発表。

社の「顔」であるはずの「Facebook」というブランド名を、巨額を投じる新サービスや社名から次々消していったのである。ねらいはどこにあるのだろうか。

これについては、近年急速に広まったフェイスブックへのマイナスイメージを、社や個々のサービスから切り離したいのではないか、との見方が強い。

SNSの金字塔として世に時めいたのは過去の夢。ここ4年ほどで、フェイスブックがらみのトピックといえば、もはや悪い方向しか出てこないという有様にまで変貌をとげた。ここまで極端な高低差を10年に満たない短期間で転落する会社は、世界広しといえどもFacebookくらいではないかと思う。

零落の始まりは、2017年にトランプ氏が大統領当選を果たした頃であろう。フェイスブックから流出した個人データが大統領選の世論操作に利用されたとみられるケンブリッジ・アナリティカ事件は、「SNS史上最悪の事件」としてインターネット史に不朽の汚名を刻みつけた。

巨大企業としての市場独占については、マーク・ザッカーバーグCEOが幾度も公聴会で証言を求められてきた。彼が公聴会前後の発言でいら立ちをのぞかせるたび、私はかつてのアメリカンドリーム体現者もずいぶん苦しい立場になったものだと、なんともいえない驚きを以て見守ってきた。

一般市民からの風当たりも強まる一方である。いっこうに成果の上がらないヘイトスピーチ対策。傘下であるInstagramの若者のメンタルヘルスへの悪影響。2021年1月の議事堂襲撃事件では、誤情報やヘイトスピーチ、襲撃呼びかけの投稿を止められなかったとしてFacebookは批判の的となった。

問題は机にどんどん積み上がったいった。対処しきれないうちにもう次、という感じだった。そこに追い打ちをかけるがごとく、2021年10月には元従業員のホーゲン氏が6件数万ページにおよぶ内部文書をリーク。その中身は、10代のメンタルヘルスへの悪影響、社会的比較によってネガティブな感情が引き起こされるとの調査結果、Instagram閲覧による見た目の比較が10代女性の精神に悪影響を及ぼすという研究結果などだった。米主要メディア少なくとも17社が「The Facebook Papers」と題された共同プロジェクトを立ち上げて内部文書を共有し、関連記事の執筆を開始するなど、アメリカ国内での関心は高くなっている。

そこで巨額を投じる新しい仮想空間からFacebookの名を削除、社名を変更ときたのである。これにより、「Horizon」とFacebookのつながりは、少なくともタイトルからは見えなくなる。社名変更には、これまでにこびりついたマイナスイメージ、および今後起こり得る不測の事態が、社のイメージや展開する他のサービスまで波及するのを防ぎたい意図があるといわれる。

ただ、マーケティング等の専門家からは、社名変更によるブランドイメージへの影響は限定的との声が聞かれる。

「ホライズン」への巨額の投資、名称変更と社名変更は、新技術・VRによる新時代への意気揚々とした船出というよりは、社の苦しさのほうが前面に出ていると私は思っている。

ゲームとしての「ホライズン」

以上、「ホライズン」のSNSとしての側面について論評などを書いてきた。

次には、仮想空間・メタバースをゲームとして見た場合の業界動向や、私の考えなどを述べていこうと思う。

ゲーム業界に打ち寄せるVRの波

近年、ゲーム業界ではVRが新しいジャンルとして食い込んできている。

巷ではまだまだメジャーとはいえないが、私もそのうねりを遠巻きに感じてきた。東京ゲームショウを2017年に訪れた時、VRにワンフロアが充てられていたのである。家庭向けとしてはなじみがなかったので、私はかなり驚いた。

VRのボクシングゲームをする男性
東京ゲームショウにできていたVRエリアでは、ブースで体験する人もいた。

ゲーム業界の構図に変化が……と思わないでもなかったが、その時点では正直、VRゲームが爆発的に普及する予感はしなかった。インディーのような、まだ試みの段階という雰囲気だったからだ。

試みはあるが、まだヒット作は出ていない。ホライズンがVRゲームの流れを変えるかどうかは、今後視点の一つにしておきたい。

「ハードの行方はソフトが決める」法則

先ほどはSNSとしてのホライズンについて「ハードの普及なるか」と書いたが、このテーマはやはりゲーム側の視点からも考えたい。

ゲームのハードといえば、任天堂、ソニーのプレーステーション(プレステ)、そしてマイクロソフトのXboxが三大勢力である。全ハードをそろえてあらゆるシリーズをプレイする熱心なゲーマーがいるかと思えば、好きなゲームができるハードだけあればいいというライトユーザーもいる。あるいは同じゲーマーでも、ハードごとのカラーの違いから、任天堂のファン、プレステのファンなど、好みのハードを決めている人もいる。ちなみに私は、一本買ったらやりこむタイプにつきプレイ本数が少ないので、ハードはミニマムに一つだけという自分流スタイルでここまでやってきた。

ハード三大勢力は、ゲームファンの取り合いにしのぎを削ってきた。史上有名なのは、1997年、ソフトメーカーである旧スクウェア(現スクウェア・エニックス)が同社人気シリーズの最新作『FINAL FANTASY Ⅶ』を従来の任天堂ハードからプレステへ移行して発売、同作の世界的大ヒットによってプレステが一時代の覇権を確立した事件であろう。私はこんな話に好奇心をくすぐられながら、会社同士のかけひきや立場関係、ビジネス界のセンスを自然と学んだものだった。

どのハードが時代を制するか。その大部分は、作品ラインナップとヒット作に恵まれるかどうかにかかっている。

とするならば、VRヘッドセットが売れるかどうかは、主力タイトル「ホライズン」の魅力にかかっている、という一面は確実にある。

「ホライズン」をプレイするためならVR機器を買う、とゲーマーが思えるかどうか。Meta社の主力タイトルとして、開発にはプレッシャーがかかる。

ゲームとしてのジャンル分けは?

ここで、ゲームとしてのジャンルを考えてみたい。「ホライズン」はどのジャンルに属するのだろうか。あるいは既存のタイトルの中ではどれに似ていて、競合はどうなっていくだろうか。

「どうぶつの森」型の生活感覚

まず第一に挙げられるのは、「どうぶつの森」型の要素、すなわち作中世界でセカンドライフを楽しむ感覚だと思う。

「どうぶつの森」シリーズといえば、2020年3月発売の最新作『あつまれ どうぶつの森』の記録的大ヒットが記憶に新しい。プレーヤー同士がネットを通じて交流できるのが、新型コロナウイルスの影響で外出がままならない時期の娯楽として注目を集めたのである。

さらに本作は、香港の民主化運動のプラットフォームとして利用されたことでも話題になった。

『あつまれ どうぶつの森』は、仮想空間での交流にトレンドの波が来ていることを示している。

この点では、「Horizon」に「どうぶつの森」など既存の人気タイトルを押してまで選ばれるだけの魅力や独自性があるかが焦点となるだろう。

MMORPGと同じ楽しみ、異なる懸念

第二に、ネットを通じてさまざまなプレーヤーが同じ世界に集まってくるといえば、MMORPGというジャンルが思い浮かぶ。

『ドラゴンクエストX』は、その成功例である。同作の掲示板に目を通せば、いっしょに強いボス敵を倒そうという王道のチームメート募集もあれば、「道具売ります」「いっしょに日の出を見ましょう」「コスプレ茶会」、あるいは「(現実世界での)○○についての悩みごと相談」など、じつにいろいろなコミュニティが出てくるので、私は閲覧しながら思わずほほえんでしまう。『ドラクエX』のコミュニティは、自由度も、成熟度も高い。たいしたものである。

『ドラゴンクエストX』は、オンラインとはいえ独立したひとつのゲーム作品である。SNSなどといった他サービスの利用は付属していない、いわば「閉じた世界」であり、料金体系はとてもわかりやすい利用券購入。プレーヤーとしては安心できる。

しかし、「Horizon Worlds」はSNS史上最悪の個人情報流出事件を起こしたFacebook傘下のサービスである。プライバシー問題には警戒心を抱かずにはいられないだろう。「ホライズン」では、Facebookアカウントでのログインが求められる。Oculusのアカウントやゲストユーザーでのログインも可能だが、将来的にはフレンド追加などの機能はFacebookアカウントがなければできなくなるという。もし「ホライズン」での行動履歴とフェイスブックでの全履歴が紐づけされれば、ユーザー一人一人の膨大な行動データがMeta社に蓄積されることになる。

美しい仮想世界・メタバースの裏側で自分のプライバシーがどう扱われているのか、プレーヤーは心をつつかれ続けるだろう。単純にゲームを楽しむ、とは思えず、現実の不安がまとわりつくのである。

プレイヤーが「作る」要素

最後に、もう一つジャンルを指摘したい。メーカーが作った世界で遊ぶのではなく「プレーヤーが作る」という、いわば逆転の発想も、ゲームの世界ではひとつのジャンルとなってきた。古いところでは「RPGツクール」シリーズが思い出されるし、もっと新しいところでは「大合奏!バンドブラザーズ」、最近では「マリオメーカー」シリーズが思い浮かぶ。

「自分で作る」要素は、多くの作品に取り入れられてきた。たとえば先の「どうぶつの森」シリーズでも、服などを自分でデザインする機能があり、夢中になるファンを生んでいる。個人的には、「バンブラ」の作曲ツールが思い出深い。本作は私にとって、音楽の構造や曲づくりの楽しさを覚えたきっかけでもあった。

「自分で作る」ことがゲームとなり得るのは、もとをたどれば、人間の本性に、創ること、表現することへの欲求や喜びがあるからだ。

「ホライズン」でプレーヤーが作れるのは、作中のアイテムだけではなく、自作のゲーム、さらには「ワールドビルダー」というツールを使って自分の世界にまでおよぶという。「自分で作る」要素が前面に押し出されているといえる。世界=プラットフォームの整備に徹し、あとは利用者にまかせ、交流によって何が生まれるかは未知だというのは、フェイスブックらしい姿勢だと思う。

プロジェクト発表以来、公式サイトは「既成のジャンルにとらわれないゲーム(原文:genre bending games)」を謳っていた。仮想世界・メタバースが社の思い描いた通り無限に発展していくかどうかは、プレーヤー=利用者のクリエイティビティにかかっている。

奇異なアバターのグラフィック

ゲームとしての注目ポイントとして、私が目新しさはないけれど重くなり得ると思ったのは、アバターのグラフィックだ。「ホライズン」のアバターは、上半身でブツリと切れ、下半身なしというめずらしい姿をしているのである。

「Facebook Horizon」のアバターたち
ホライズンのアバターは、上半身でプッツリ。

ゲームの作風に、グラフィックは絶大な影響力を及ぼす。これは絵がきれいか粗いかという単純な話ではない。グラフィックという要素は、作品世界全体の雰囲気、果てにはその作品の趣旨まで変えてしまうのである。

たとえば、スタンダードなシステムのRPGで、グラフィックがポップな絵柄と色づかいだったら、元気で楽しく、ともすれば熱血な雰囲気の作品になるだろう。これが、たとえシステムはまったく同じでも、グラフィックが流麗な水彩風ならばシリアスめのファンタジーになるし、色彩やキャラクタービジュアルをダークにしたらホラーテイストの退廃的な作品に出来上がるのである。

私は、ユーレイのように上半身だけでプッツリ切れたアバターは、プレイする感触に少なからず影響を与えるだろうと考えている。アバターは無論人間を模式化するが、任天堂ハードのMiiであれ、『どうぶつの森』シリーズの主人公であれ、地に足がついていないものは私の知る限り一つもない。

現実感のないアバターである。私には奇異に感じられるが、それを生かした表現をするとしたら、おもしろくなるかもしれない。

まとめ

Meta社(旧称Facebook社)CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、「ホライズン」を同社の最重要なプラットフォームに育てる意志を表明している。

SNSとゲーム、二つの分野にかかわってきた私から見れば、やはり課題はハードの普及だと思う。「Horizen Worlds」がエポック・メイキングなSNS、ゲーム、プラットフォームとなっていくか、注目である。

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著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)MastodonYouTubeOFUSE

(この記事は性質上、サービスの動向等によって更新される可能性がある。公開:2020年5月21日。2021年10月29日、サービス名・社名変更に伴って更新。)

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