FacebookのVR「ホライズン」はSNSとゲームに何をもたらすか

SNSやゲームという分野をまたにかけて話題となっている「ホライズン」。2020年にスタートが予定されている、Facebookの新サービスである。

私はITの経験を活かし、SNSのいまや課題、問題、そして先行きをこれまでたびたび論じてきた。同時にゲーマーでもある私は、「ゲームのおもしろさとは何か」について自分なりの考え方を練り上げ、折に触れて少しずつ話してきた。今回は、FacebookのVR「ホライズン」を紹介したうえで、それがSNSとして、またゲームとして何をもたらすか、私の考えを述べていこうと思う。

VR「ホライズン」とは?

「ホライズン」の正式名称は「Facebook Horizon」。利用者はVR(仮想現実)世界の「市民」となって、世界を縦横無尽に動き回ったり、他の利用者と交流したり、ゲームを遊んだりできるという娯楽サービスである。

facebook horizon

運営会社はGAFAと称される巨大IT企業の一角・Facebookで、「ホライズン」はその子会社・Oculus(オキュラス)の開発販売するVRヘッドセットで利用できる。

「ホライズン」は、ゲームであり、SNSでもある。

VRヘッドセットをつけたプレーヤーは、ゴーグルのなかに広がる世界を、物理的な制約なしに探索できる。

VRヘッドセットをつけたカップル
VRヘッドセットとはこのようなゴーグルのこと。つけている彼らには、仮想現実の世界が見えている。

公式サイトによれば、プレーヤーは自由自在に空を飛んだり、月まで飛行したり、海に潜ったりできるという。また、用意されたゲームで遊ぶことができるといい、公式サイトでは飛行機操縦のゲームが紹介されている。さらに、プレーヤーはFacebook社が作った既成の世界で遊ぶだけではなく、モノ、新しいゲーム、さらには世界まで「作る」ことができる。それらをかんたんに操作できる製作ツールは、初心者から上級者まで楽しめるよう設計されているという。こうしたことからすれば、「ホライズン」は「自由度の高いゲーム」といえるだろう。

一方、「ホライズン」はSNSとしても機能する。利用者は、コミュニティやイベントに参加できるのである。従来のフェイスブックサイトで行われてきたことが、新しいホライズンの世界で行われるとみればよいだろう。

……と、ここまで私は、VRゴーグルをかけて「ホライズン」をやっている人を「利用者」と呼ぶか、それとも「プレーヤー」のほうがいいか、あれこれ迷いながら書いてきた。報道を見渡しても、あるメディアが「ホライズン」を「仮想現実のSNS」と紹介したかと思えば、別のメディアは「VRサービス」と呼んでみたりと、執筆者ごとに表現がバラバラである。説明に手をこまねくようなものであること自体が、新しさへの可能性をにおわせている。

Facebookによる公式サイトは、「ホライズン」は利用者が参加することによって「限りなく広がるVRの世界(原文:an ever-expanding VR world)」だとしている。

世界=プラットフォームの整備に徹し、あとは利用者にまかせ、交流によって何が起こるかは未知だというのは、かねてよりのFacebook社らしい姿勢だと思う。

SNSとしての「ホライズン」

端末(ハード)の普及なるか

私は、「Horizon」最大の関門は、端末だろうと思う。同サービスを利用するには、Oculus(オキュラス)のVRヘッドセット「Oculus Rift S」か「Oculus Quest」が必要になるのである。

その値段は、PC接続型の最新機種「Oculus Rift S」が49,800円(税込)。パソコン不要のオールインワンVR「Oculus Quest」は、64GBモデルで49,800円、128GBだと62,800円。

正直、かなり高価ではないだろうか。エントリーモデルのパソコンならこれより安く買えてしまうし、ゲーム機ではニンテンドースイッチが29,980円(税別)、ソニーのPlayStation 4が29,980円(税別)。さらに、ソニーはすでにVR機を出しているのだが、その「PS VR」はソフト「PlayStation VR WORLDS」同梱でも34,980円(税別)である。

フェイスブックは、本質的にはインターネット上のサイトである。政治に影響力をもつに至るまで巨大化したせいで「フェイスブックをは何か」という定義の部分がぼやけてしまったきらいがあるが、もとをただせば、ネット上に星の数ほどある「ウェブサイト」の一つにすぎない。サイトなので、パソコンかスマートフォン・タブレットさえあればアクセスできる。そのパソコンやモバイル端末はこれだけ広く普及しているのだから、利用開始へのハードルはないに等しかった。その手軽さ、そして利用料無料であることが、全世界の月間アクティブ利用者数26億人(2020年第1四半期)につながったのである。

ところが、「Horizon」は、やってみようと思ったらいますぐ、とはいかない。まずはVR端末を買って来なければ、「Horizon」の入り口にも立てないのである。

SNSをはじめ、オンラインの会員制サービスは、手軽さが命である。会員登録や購入までのクリック数を一つでも減らさなければ多くの人は脱落してしまうというのが、IT業界の鉄則である。

「ホライズン」に、5万円もするVRヘッドセットを買ってまでやってみたいと思えるほどの魅力があるか。そこが焦点になっていくだろう。

フェイスブックらしくないアバターシステム

「ホライズン」利用者は、アバターで仮想現実の世界に参加する。このアバターは自由に編集でき、本人とまったく違う見た目にすることもできる。

本来の自分と異なるアバターを使うのは、アバターシステム一般としては少しもめずらしくない。男性が「ポケモンGO」の世界では女性だったり、どこかのサイトですっぽり着ぐるみに身を包むのだって普通なことである。ゲームの主人公は、自分の分身ではなく、自分と切り離して考える人が多い。私もそちらのとらえ方をする一人である。

しかし、Facebookはずっと「実名」へのこだわりを特徴としてきた。利用者がフェイスブック上で別人になることを避けてきたのである。それを考慮すれば、「ホライズン」はかなり毛色が違うことになる。

それとも、フェイスブックはフェイスブック、ホライズンはホライズンと考えているのか。

Facebook社CEOマーク・ザッカーバーグ氏は、「ホライズン」をフェイスブックやインスタグラムと並ぶ同社の主力サービスに育てる意志を表明している。Facebook社はこれまで、インスタグラムなど他サービスの買収で大きくなってきた。それを思えば、毛色の違うブランドを持つのは、それほど不自然ではないのかもしれない。

VRである意義は?

VRという新しさがあるとはいえ、「Horizon」が「SNSの新手」である以上、ローンチは既存のSNS業界に参入することを意味する。

ただ、交流やコミュニティ、ネット上のイベントなどは、従来のフェイスブックでも行われてきた。単にSNSなら、「サイト」という方法でも十分できるのである。それをVRで行うことに、何かメリットはあるのだろうか。

VRの特色には、「没入感」や「体験」があるといえよう。それを活かしてオリジナリティある娯楽プラットフォームにできるのか。また、フェイスブックが培い他すべてのSNSの原型となった「型」をFacebook社自らが打ち破り、SNSの系譜に新たな概念を生み出せるのか。「ホライズン」は、VRである意義が問われる。

注目ポイントはビジネスモデル

そして最大の注目ポイントは、ビジネスモデルであろう。Facebook社は「Horizon」からどうやって利益を出し、運営していくのか。私はこれまで、利用料無料のSNSという分野を論じるたび、ビジネスモデルに目を配るよう強く訴えてきた。

すぐに思い浮かぶのは、課金と広告である。

課金のほうは誰にもわかりやすいが、オンライン広告のほうはくせ者だ。Facebook社はこれまでに何度もトラブルを起こしてきた。特に、政治コンサルティング会社・ケンブリッジアナリティカへの個人データ流出は、米トランプ大統領当選の陰の立役者だったとみられ、SNS史上最大最悪の事件といわれている。以下のリンクにて別途徹底解説したので、参照してほしい。

「ホライズン」では、Facebookアカウントでのログインが求められる。Oculusのアカウントやゲストユーザーでのログインも可能だが、将来的にはフレンド追加などの機能はFacebookアカウントがなければできなくなるという。

こう耳にしたとたん、私は身構えた。つまり、プレイした分だけ個人データが集まるのでは……と。ホライズンでの行動履歴とフェイスブックでの全履歴が紐づけされれば、ユーザー一人一人の膨大な行動データがFacebook社に蓄積されることになる。

しかし、こうしたプライバシーへの懸念が叫ばれるからだろう、同社はフェイスブックアカウントでログインしても、ホライズンでのユーザーネームや友達などといったデータはFacebookから切り離せるとしている。具体的には、Facebook上の友達をHorizonのフレンドとして自動追加するかどうか、実名を公開するかどうか、その他のプライバシー設定がもうけられるもようだ。

こう聞いた私は、利用者のプライバシーを意識してはいるのだな、とは思った。ただ、それ以上のことは、実際に運用が始まってみなければなんともいえないとしか言いようがない。Facebookに限らずTwitterであれLINEであれ、せっかくプライバシー設定があってもデフォルトのままにしているユーザーは多い。「ホライズン」は母体がSNS、しかも重大な問題を起こした経歴のあるFacebookである以上、プライバシーへの警戒感は続いていくだろうし、またそうあるべきだと思っている。

ゲームとしての「ホライズン」

ゲーム業界に打ち寄せるVRの波

近年、ゲーム業界ではVRが新しいジャンルとして食い込んできている。巷ではまだまだメジャーとはいえないが、私も遠巻きにその動きを感じてきた。東京ゲームショウを2017年に訪れた時、VRにワンフロアが充てられていたのである。家庭向けとしてはなじみがなかったので、私はかなり驚いた。

VRのボクシングゲームをしている人
東京ゲームショウにできていたVRエリアでは、ブースで体験する人もいた。

従来のゲーム業界の構図に今後変化が……と思わないでもなかったが、その時点では正直、VRゲームが爆発的に普及する予感はしなかった。インディーのような、まだ試みの段階という雰囲気だったからだ。

試みはあるが、まだヒット作は出ていない。ホライズンはVRのこの流れを変えるだろうか。

「ハードの行方はゲームが決める」法則

先ほどはSNSとしてのホライズンについて「ハードの普及なるか」と書いたが、このテーマはやはりゲーム側の視点からも考えたい。

ゲームのハードといえば、任天堂、ソニーのプレーステーション(プレステ)、そしてマイクロソフトのXboxが三大勢力である。全ハードをそろえてあらゆるシリーズをプレイする熱心なゲーマーがいるかと思えば、好きなゲームができるハードだけあればいいというライトユーザーもいる。あるいは同じゲーマーでも、ハードごとのカラーの違いから、任天堂のファン、プレステのファンなど、好みのハードを決めている人もいる。ちなみに私は、一本買ったらやりこむタイプにつきプレイ本数が少ないので、ハードはミニマムに一つだけという自分流スタイルでここまでやってきた。

これら三大勢力はこれまで、ゲームファンの取り合いにしのぎを削ってきた。史上有名なのは、1997年、ソフトメーカー・旧スクウェア(現スクウェア・エニックス)が「FINAL FANTASY Ⅶ」を従来の任天堂ハードではなくプレステで発売、同作の世界的大ヒットによってプレステが一時代の覇権を確立した事件である。私はこんな話に好奇心をくすぐられながら、会社同士のかけひきや立場関係、ビジネス界のセンスを自然と学んだものだった。

どのハードが時代を制するか。その大部分は、作品ラインナップとヒット作に恵まれるかどうかにかかっている。

とするならば、VRヘッドセットが売れるかどうかは、主力タイトル「ホライズン」の魅力にかかっている、といえる。

「ホライズン」をプレイするためならVR機器を買う、とゲーマーが思えるかどうか。オキュラスの主力タイトルとして、「ホライズン」にはプレッシャーがかかる。

ゲームとしてのジャンル分けは?

ここで、ゲームとしてのジャンルを考えてみたい。「ホライズン」はどのジャンルに属するだろうか。あるいは既存のタイトルのなかではどれに似ていて、競合はどうなっていくだろうか。

まず第一に挙げられるのは、「どうぶつの森」型の要素、すなわち作中世界で生活する感覚だと思う。

「どうぶつの森」シリーズといえば、今年3月発売の最新作『あつまれ どうぶつの森』の記録的大ヒットが記憶に新しい。プレーヤー同士がネットを通じて交流できるのが、新型コロナウイルスの影響で外出がままならない時期の娯楽として注目を集めたのである。さらに本作は、香港の民主化運動のプラットフォームとして利用されたことでも話題になった。『あつまれ どうぶつの森』は、仮想空間での人の交流にトレンドの波が来ていることを示している。

この点では、「Horizon」に既存のタイトルを押してまで選ばれるだけの魅力や独自性があるかどうかが焦点となるだろう。

第二に、ネットを通じてさまざまなプレーヤーが同じ世界に集まってくるといえば、MMORPGというジャンルが思い浮かぶ。『ドラゴンクエストX』などは、その成功例である。同作の掲示板に目を通せば、いっしょに強いボス敵を倒そうという王道のチームメート募集もあれば、「道具売ります」「いっしょに日の出を見ましょう」「コスプレ茶会」、あるいは「(現実世界での)○○についての悩みごと相談」など、じつにいろいろなコミュニティが出てくるので、私は閲覧しながら思わずほほえんでしまう。『ドラクエX』のコミュニティは、自由度も、成熟度も高い。たいしたものである。

『ドラゴンクエストX』は、オンラインとはいえ独立したひとつのゲーム作品である。SNSなどといった他サービスの利用は付属していない、いわば「閉じた世界」であり、料金体系はとてもわかりやすい利用券購入。プレーヤーとしては安心できる。

しかし、「Facebook Horizon」はかの巨大SNS・Facebook傘下のサービスである。Facebook社への個人データ集積は、どうしても気になってくる。自分のプライバシーがVR世界の裏側でどう扱われているのか、プレーヤーは心をつつかれ続けるだろう。単純にゲームを楽しむ、とは思えず、現実の不安感がまとわりつくのである。

最後に、もう一つジャンルを指摘したい。メーカーが作った世界で遊ぶのではなく「プレーヤーが作る」という、いわば逆転の発想も、ゲームの世界ではひとつのジャンルとなってきた。古いところでは「RPGツクール」シリーズが思い出されるし、もっと新しいところでは「大合奏!バンドブラザーズ」、最近では「マリオメーカー」シリーズが思い浮かぶ。

「自分で作る」要素は、多くの作品に取り入れられてきた。たとえば先の「どうぶつの森」シリーズでも、服などを自分でデザインする機能があり、夢中になるファンを生んでいる。個人的には、「バンブラ」の作曲ツールが思い出深い。本作は私にとって、音楽の構造や曲づくりの楽しさを覚えたきっかけでもあった。

「自分で作る」ことがゲームとなり得るのは、もとをたどれば、人間の本性に、創ること、表現することへの欲求や喜びがあるからだ。

「ホライズン」でプレーヤーが作れるのは、作中のアイテムだけではなく、自作のゲーム、さらには「ワールドビルダー」というツールを使って自分の世界にまでおよぶ。「自分で作る」要素が前面に押し出されているといえる。

公式サイトは、「既成のジャンルにとらわれないゲーム(原文:genre bending games)」としている。Facebook社の思い描いた通りになるかどうかは、プレーヤー=利用者のクリエイティビティにかかっている。

奇異なアバターのグラフィック

ゲームとしての注目ポイントとして、盲点というか、目新しさはないけれど重くなり得ると思ったのは、アバターのグラフィックだ。「ホライズン」のアバターは、上半身でブツリと切れ、下半身なしというめずらしい姿をしている。

「Facebook Horizon」のアバターたち
ホライズンのアバターは、上半身でプッツリ。

ゲームの作風にとって、グラフィックは絶大な影響力を及ぼす。これは、グラフィックがきれいか粗いかという単純な話ではない。グラフィックという要素は、作品世界全体の雰囲気、果てにはその作品の趣旨まで変えてしまうのである。

たとえば、スタンダードなシステムのRPGで、グラフィックがポップな絵柄と色づかいだったら、それは元気で楽しく、ともすれば熱血な雰囲気の作品になるだろう。これが、たとえシステムはまったく同じでもグラフィックが流麗な水彩風ならばシリアスめのファンタジーになるし、色彩やキャラクタービジュアルをダークにしたらホラーテイストの退廃的な作品にできあがるのである。

私は、上半身だけというユーレイよりプッツリ切れたアバターは、プレイする感触に少なからず影響を与えるだろうと考えている。アバターは無論人間を模式化するが、任天堂ハードのMiiであれ、『どうぶつの森』シリーズの主人公であれ、世のアバターで地に足がついていないものは私の知る限りで一つもない。

現実感のないアバターである。私には奇異に感じられるが、それを生かした表現をするとしたら、おもしろくなるかもしれない。

まとめ

Facebook社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、「ホライズン」を同社の最重要なプラットフォームに育てる意志を表明している。

SNSとゲーム、二つの分野にかかわってきた私から見れば、やはり課題はハードの普及だと思う。「Facebook Horizen」がエポック・メイキングなSNS、ゲーム、プラットフォームとなるか、注目である。

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