スマート家電(IoT家電)のメリットとデメリットー使ってみた感想とセキュリティ対策

ひょんなことから、我が家にスマート家電がやって来ました。

スマート家電は、電気製品の最新のジャンルです。うまく使えば便利で、人によっては生活に欠かせないアイテムも。しかし他方で、持ち主が無頓着な使い方をしたり、万が一誤作動やサイバー攻撃があったときには、以前では考えられなかったような危険を自宅に招き入れる結果となってしまいます。

今回は、私がスマート家電を使ってみた感想と、セキュリティの観点から気を付けるべきポイントを書いていこうと思います。

スマート家電とは?

まずは定義を確認しておきましょう。

「スマート家電」とは、インターネットに接続できる家庭用の電気製品のことをいいます。実用的に言うと、最近は多くの製品が専用のスマホアプリで操作できるようになっています。定義はメーカーまかせなところがあり、はっきりとした線引きはありません。

「IoT家電」という用語も同じ意味です。

製品の例としては、

  • スマホや音声で指示できるロボット掃除機
  • 音声でオン・オフできるライト
  • レシピの指示をしゃべってくれる電子レンジ
  • ペットや子どもの様子をスマホで見られる留守番カメラ

などがあります。

白いキッチンで男性の手がスマートホームを操作するタブレットを持っている写真
あらゆるモノをインターネットに接続して制御する家は「スマートホーム」と呼ばれる。

初めてスマート家電を使ってみての感想

実を言うと、私はつい最近まで、スマート家電は特に欲しいと思っていませんでした。

私はこれまで長年、インターネット上の世界やIT業界の内部を見てきました。当ブログでもアカウントのセキュリティプライバシーAIの問題に関する記事を多く執筆しています。

そんな私の結論は、「何もかもインターネットにつなげばいいというものではない」。IT業界には聞いて真っ青になるような事件がざらにあり、それを知っていれば身構えます。

ところが、最近空気清浄機と加湿器を買おうと思い立った時、たまたま良いと目星をつけたモデルには、ネットに接続する機能が付いていました。期せずしてスマート家電だったのです。性能は気に入ったのでそのままゴーサインを出し、我が家に最新のテクノロジーを搭載した空気清浄機と加湿器が届いたのでした。

Levoitの空気清浄機と加湿器が部屋の床に置いてある写真
我が家に初めてやって来たスマート家電の加湿器(左)と空気清浄機(右)。

もちろん、インターネットに接続しなくても差し支えはありません。このままでも十分空気をきれいにし、ミストを出してくれます。

しかし、セキュリティのリスクが少ない機器だったこともあり(詳しくは後述します)、私は「せっかく家に来たんだから」と、専用アプリとの連動をやってみました。

すると、これが高機能でなかなか便利。スマート機能も悪くありませんでした。以下では私の具体的な感想を書いていこうと思います。

本体の機能を拡張できるのは最大のメリット

私の第一印象は、「本体に組み込まれていない機能を使えるんだな」ということでした。スマホアプリは、いわば機能を追加してくれる感じです。

細かなスケジュール設定が可能に

例えば、空気清浄機の本体には、2時間・4時間・8時間で動作を切るボタンがついています。

空気清浄機の丸い操作パネル
本体の操作ボタン。電源や運転モード、3つのタイマーボタンがある。

これがスマホアプリを使えば、タイマーはなんと1分単位。しかも、何時何分と、時刻でスケジュールを設定することもできます。

スケジュール作成画面のスクリーンショット
専用のスマホアプリは、リモコン代わりに使えるだけでなく、融通の利く、細かな設定ができる。

さらには曜日ごとの設定もでき、空気清浄の強さ、夜用ライトのオン・オフ、プラズマイオン発生の入り切りもスケジュールが可能です。

これらを組み合わせれば、頭で望む通り、自由自在にスケジュールができます。

例えば、

  • 平日だけ、自分が帰って来る前に17:00から10分間、強モードで運転しておいてもらう
  • 毎晩21:45に夜用ライトを自動で切る
  • 花粉が部屋に入ったみたいだから、今から花粉モードで回して10時間後の17:11で止まるようにしておこう

といった感じです。

家電製品において、本体に内蔵できる機能は限られています。空気清浄機本体に「2時間、4時間、8時間で切る」くらいのボタンは搭載したとしても、「1時間の設定もほしい」「6時間は?」「切るだけじゃなくて、8時間後に入れるとかもしたい」となれば、その数だけ操作ボタンを増やさなければなりません。それを動かすプログラムも機械の中に詰め込まなければならなくなります。ニーズやリクエストは一人ひとり違います。全部にはとうてい応えきれないのです。

そこで、機能をスマホアプリに割り振ってしまえば、ユーザー側にとって格段便利になります。しかも、本体の機能や価格は抑えられる。電気製品にとってスマート家電は一石二鳥を実現できるので、これは先見の明があるのでは、と思いました。

本体にはない機能を追加

関連して、本体には搭載されていない機能がアプリ上で追加されるケースもあります。

例えば、私の空気清浄機には「花粉モード」があるのですが、これはスマホアプリからのみ使うことができます。本体に「花粉モード」への切り替えボタンはありません。

また、加湿器のほうでは、アプリで湿度計を見られるようになっています。

室内湿度を表示するアプリのスクリーンショット
湿度計はアプリから見られる。他にも本体より細かい9段階のミストの量の設定や、タイマー、スケジュール設定が可能。

加湿器本体には、湿度を表示するディスプレイは搭載されていません。アプリによって機能を拡張したといえます。

外出先から遠隔操作

スマート家電の多くは、アプリによって外出先からでも遠隔で操作することができるようになっています。

私はあまりそういう利用はしていないのですが、遠隔操作ができれば、まず家を出た後、電源の切り忘れが怖くなくなるでしょう。

特にエアコン等だと「今日は暑いから設定温度をもう1度下げておこう」といったことができるので、重宝するのではないでしょうか。

私が使っていないスマート機能

このように、私はひょんなことから家にやってきたスマート家電をなかなかに愛用しています。

ですが、使っていない機能もあります。

一つは、スマホの位置情報と連動する機能。

もう一つは、GoogleアシスタントやAlexaと連動して音声でコントロールできる機能です。私は空気清浄機と加湿器自体はすっかり気に入りましたが、もし別のIT企業がからむなら話が変わってくるからです。

スマート家電のデメリット―家電が凶器に変わる時

私が箱から出したばかりの空気清浄機と加湿器を「せっかくだからインターネットにつないでみよう」と思えたのは、万が一のことがあっても大した事態にならないと分かっていたからでした。

たとえ空気清浄機が誤作動を起こしたとしても、ブンブン回って我が家の空気がきれいになるだけです。プライバシー面でも、万が一通信が乗っ取られたところで、私がいつ空気清浄機を使ったかの情報だけでは悪用されようがありません。

白いカーテンの前で加湿器が噴霧しているところの写真
加湿器は霧を吹くだけの機械なので、たとえ困ったことが起きたとしても霧が出すぎた程度で済む。

空気清浄機や加湿器なら、たとえ暴走したところで、私はノーダメージでいられるのです。

しかし、それは全ての製品に言えることではありません。IoTやAIが世に出始めた当初から、「家電が人を攻撃する武器になり得る」「家の中が盗撮・盗聴されかねない」といったSF映画並みの危機が指摘されてきました。どこかで一歩間違えば、インターネット接続などなければあり得なかったような危機を、自分で家に招き入れる結果になってしまうのです。

実際、「おもしろそうだから」くらいの気持ちでインターネットに接続し、想像だにしない事態に陥る例はすでに出てきています。

十分な知識とセキュリティ対策がなければ、スマート家電は生活上のメリットになるどころか、凶器と化してしまうのです。

セキュリティに注意すべきスマート家電・機能の種類

身構えるかどうかは、第一に、家電の性質によります。「こういう機能が付いていたら要注意」というポイントがあるので、以下で解説していこうと思います。

カメラを使うもの:ペットカメラなど

まず、カメラ機能が付いた機器は要注意です。例としては、

  • ペットカメラ
  • 子どもの留守番見守りカメラ
  • カメラ付きのドアホン

などが挙げられます。

こうしたカメラには、自宅の中の様子が映ります。しかも、それがネット回線を通して送受信されるのです。

もし誤作動や通信の乗っ取りが起これば、プライバシーは危機的です。そんなつもりはさらさらなくても、「監視カメラを家に招き入れる」状態に陥るのです。

音声のやりとりをするもの:スマートスピーカーなど

カメラ機能と並び、音声を使うものにも注意が必要です。

  • 音声コントロール機能
  • 通話機能
  • スマートスピーカー

などがこれに当たります。

カメラと同様の原理で、音声のやりとりをするスマート家電は、どこかで何かが間違えば「盗聴器を家に招き入れる」に等しくなります。

過去には、Apple社が、iPhoneのSiriを通して送られてきた家の中でのプライベートな会話を従業員らに聞くよう指示していたと、内部告発からスクープされました。同様の「盗み聞き」は、AmazonのAlexaとGoogleアシスタントでも行われていたことが分かっています。ウソのような話ですが、これが現代の現実なのです。

リンク:Siriの「盗み聞き」事件(GAFA独占の問題点と日本の現状・課題)

健康データ:体重計など

スマホアプリと連動して体重の記録をつけられる体重計。心拍数や血中酸素濃度を測れるランナー向けのスマートウォッチ。――いま、スマート家電という分野では、日々の健康管理ができる商品が次々とリリースされています。

こうした健康に関するデータは、個人情報の中でも指折りにデリケートです。早い話、自分の体重なんて、親しい友人にも教えたくないほど「はずかしい」ものですよね。

それがどこぞの企業に送られ、見知らぬ人々に利用されるのです。「はずかしい」どころの騒ぎではありません。

個人の健康データは、データ産業界がいま最も集めたがっているデータです。売れば高値が付くからです。いま健康関連のスマート家電やスマホアプリが次々リリースされているのは、それが便利だから、人々の生活を豊かにするからではありません。幕の裏には、企業群の身の毛もよだつような都合があるのです。

位置情報

健康データと並んで細心の注意を要するのは、位置情報です。スマホアプリとの連動やナビゲーションでよくあります。

たとえ住所を入力していなくても、夜に長時間滞在した場所はユーザーの家だとほぼ断定できます。移動した時間からは、おおよその行動パターンや職業が分かります。訪れた場所からは趣味嗜好などを割り出すことも可能です。

位置情報がオンになったスマホは、「人類史上かつてないストーカー」になり得るのです。

いまプライバシー警報が鳴っているのは自動車!

位置情報といえば、ちょうどいま危険な業界としてホットな話題となっているのは、IT系の企業ではなく、自動車業界です。……意外でしょうか?

なぜかというと、自動車からは、その人や家族の移動経路と時間が記録されていくからです。そこからは、思いもかけない個人情報や、趣味嗜好などが分かってしまうのです。

例えば、平日の朝の7時台と夜の6時台にきまって〇〇保育園に駐車している、というデータがあったらどうでしょう。この自動車の持主には未就学の子がいて、〇〇保育園に通っていて、いつごろどのルートで送り迎えをしているかが丸わかりになります。万が一犯罪などに悪用されたら大変なことになるでしょう。

ショッキングなケースは他にもあります。これはインターネットブラウザ「Firefox」の製作者として有名な団体・Mozillaが指摘したのですが、自動車からはその人の性的活動が分かるというのです。例えば、車でゲイバーに行き、2時間滞在した後いつもの住宅で駐車したなら、たとえ本人が伏せていたとしても、自動車会社は性的志向や個人的な行動を知ることができてしまうのです。

ここまででも大変なプライバシーの危機ですが、Mozillaは、その個人データが売りに出される危険性を指摘しています。国内ではトヨタ、日産、ホンダ、スバルなど主要な自動車メーカーは全て警告マークを付けられており、海外でもフォルクスワーゲン、フォード、BMW、メルセデスベンツなど、主要メーカーは全て網羅されています。言い換えれば、これはグローバルな自動車業界全体の問題であり、現状では、安心して使えるメーカーは存在しません。

自動車持っている読者はいますぐセキュリティチェックを!

スマート家電を安全に使うためのチェックポイント

「スマート家電なんてもういらない!」――ここまで読んでそう叫んだ読者もいるのではないでしょうか。

インターネットにつなげる電気製品は、「今までの製品をもっと便利にしました」というだけで、生活必需品ではありません。ネットなしでも十分活躍してくれます。もしその範囲でいいならば、わざわざリスクを背負ってまでインターネットに接続する意味はないでしょう。

ただ、上記で指摘したような製品を使いたいという人も中には少なからずいると思います。例えば私の知人は初老のネコを飼っているのですが、その大事なネコちゃんがお腹をこわしがちになった時は、「外出している間ずっと心配で心配で、動物病院に連れていかなきゃいけない時にはすぐ動けるようスマホで逐一様子を確認した」と話していました。こんなに役に立っていても、プライバシーが危ないからもう使うべきではないのでしょうか?

実は、スマート家電のセキュリティでは、製品のカテゴリや機能だけでなく、使い方でもチェックポイントがあります。それらをクリアすれば、真っ青になるような危険は回避できます。安全性と便利さを手に入れることができるので、考慮する価値はあると思います。

使い時を限る

上記で触れた真っ青になるような事例の多くは、インターネットにつなぎきりであることに端を発して起きています。

したがって、スマート家電では、使う時間や場面を限ることが非常に効果の高いセキュリティ対策になります。万が一データ流出事件などがあった際にも、流出するデータを減らすことができます。

例えば、ペットカメラなら、ペットに留守番させる時だけ出してくるようにすればいいでしょう。これなら、自分の私生活を自分で撮影するという身の毛もよだつ結果を生まないですみます。

また、音声アシスタントを利用するなら、話す内容を限定するのは有効な手をなります。流出しても自分に危険が及ばないことだけ話すようにすればいいのです。

スマホアプリの権限

スマホアプリのセキュリティでは、「アプリの権限」が重要なポイントです。

自分が使わない機能に必要な権限は与えなければ、悪用を防ぐことができます。アプリの権限は、スマホ本体の「設定」の中にあります。

VeSyncアプリの権限管理画面のスクリーンショット
筆者の空気清浄機と加湿器の専用アプリ。同じメーカーが出している調理家電や健康製品向けの権限は与えていない。

もしアプリが過剰に要求してくるようなら要注意。そのメーカーが個人情報の収集に熱心だという可能性があります。その権限が何に必要なのかを考え、余分な権限は与えないことが大事です。

位置情報に関しては、権限レベルではなく、スマホ本体で切るという手もあります。

商品のプライバシーポリシーと情報集め

相手企業のプライバシーポリシーをチェックするのも有効です。集めたデータをどう利用すると言っているか、そしてデータが第三者へ提供されることがあるのかの2点が特に重要です。

リンク:プライバシーポリシーを楽に読む方法

企業自身が言っていることだけでなく、プライバシー関係の情報サイトで商品の安全性を確認することもおすすめします。より専門的な視点でのチェックを入れることができますし、安全だと判定されていれば一安心、そうでないにしてもアドバイスを読むことができます。残念ながら日本ではこうした社会活動が盛んでないのですが、海外サイトに足をのばせば情報が見つかることはよくあります。

本稿ではMozillaのサイトのリンクを紹介しておきますので、自分の製品が載っているかどうか、もし見つかったら警告マークを付けられているかどうかだけでもチェックしてみてはいかがでしょうか。

リンク:Privacy Not Included(Mozilla)

通信のセキュリティ

機器本体やスマホアプリだけでなく、インターネット回線のセキュリティをしっかり固めておくのも有効です。回線からのデータ流出を防げるからです。

ルーター(モデム)のパスワードが「password」や「admin」のままになっているなら、複雑なパスワードに変更しましょう。もしやりたければ、ルーター段階での通信暗号化なども視野に入ってきます。

あまりできることはないのですが、やらないよりは確実にリスクが減ります。

最強のセキュリティは「コンセントから抜く」

インターネットにつなぎきりであることが原因でした。ならば、接続を切れば安全なわけですが、それだけを切るとか、スマホアプリの権限だけを消したりするのはめんどうですよね。

そういう場合、スマート家電をコンセントからブチッとぬいてしまえば全て解決します。「元を断つ」のは最強の技。電気が通っていなければ家電は動かず、何もできないので、悪さをしようがないからです。

まとめ

以上、スマート家電のセキュリティ対策を解説してきましたが、いかがだったでしょうか?

新しいテクノロジーは、私たちの生活を無条件に便利にしてくれるのではありません。適切な管理ができなければ、かえって重大な危険を招くことになります。

家電に振り回されないこと。スマート家電を便利に使うには、使う人が賢くなることが大事です。

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著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)MastodonYouTubeOFUSE

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