GAFA独占の問題点と日本の現状・課題

GAFA(ガーファ)、すなわちGoogle、Apple、Facebook(新社名Meta)、Amazon。これら4社をはじめとする国内外の巨大IT企業は、インターネット上に小売りや交流などができる場所=プラットフォームを作り提供していることから「プラットフォーマー」と呼ばれています。今回は、巨大企業に成長し、事実上独占的地位を占めるに至ったGAFAの問題点を、各社の起こした事件とともに解説し、日本の現状や自分でできる対策について論じようと思います。

最新:ChatGPTなど生成AIの登場と開発競争により、GAFAの構図に変化が生じたので、新たな項を追加しました。目次の【最新】からジャンプできます。

GAFAを理解するための予備知識

最近話題の「GAFA」ですが、いったいどこがどう問題になっているのでしょうか? 「なんとなくだけどすごく怖い」と感じている人もいれば、「それは会社同士の問題であって自分には関係ない」とみなしている読者もいることでしょう。

どこに問題があるのか。それにピントを合わせるには現代社会とデジタルライフについての予備知識が必要になってくるので、最初に2つまとめておきます。

これを押さえればよくわかる! 3つのチェックポイント

まず一つは、定義について。あなたはもし「Googleとはなんですか?」と聞かれたら、どう答えますか? 「Googleは、検索したり、えーっと……」という具合に、案外答えにつまってしまう人も多いのではないでしょうか。

私はこれまでアカウント乗っ取りSNS疲れなどについて論じるとき、最初に「3つのチェックポイント」を頭に置くようアドバイスしてきました。

  1. 運営者は誰か
  2. 何のサービスか
  3. どうやって利益を出しているのか(ビジネスモデル)

誰もが何気なく利用し、日常にすっかり溶け込んだGAFAのサービス。しかしそれらは全部、ある会社が行っている「商売」です。

私たち利用者側にとっては、「スクリーン越しに相手企業と向き合っている」という意識をもつのが大事です。では、「Googleとは何ですか?」の答えは――まずは自分で考えてみてください。GAFA各社への当てはめは、以下で一社ずつ確認していきます。

いま世界で起こっていること―データの集中と分析

さらに、GAFAをはじめとするIT独占企業の本当の怖さを実感するには、インターネットやコンピュータープログラム(人工知能/AI)、クラウドといった新しいテクノロジーによって、現代社会で実際起きていることを押さえておく必要があります。

昔ながらの田園風景にえんとつが付け加わるでもなし。普段生活していて実感はないですが、近年の世界では「データ分析(データサイエンスともいわれる)」という新しい産業が急速に成長し、巨大産業へとのし上がりました。町に工場がぞくぞく建つのと同じくらい大きな変化なのですが、コンピューターやネットの世界のことだから目に見えにくいのです。

「データ分析産業」とは、簡潔に言えば、ごく普通に生活している一般人の年齢、居住地域、ネットでの検索履歴や登録情報など膨大なデータを集め、分析することで、その人の趣味嗜好や行動パターンなどを割り出し、その分析結果をほかの企業に売る、という仲介業です。こうしたデータ分析は、自社内や関連企業、委託先などで行われていることもあります。

……出だしなのでいいも悪いも言わずさらっと書いたのですが、考えてみればとんでもなく気味悪い商売に違いないですよね。

「えっ、じゃあつまり、私が昨日マンガ○○と歌手××のことを検索したのを、どっかの会社が知ってて勝手に分析してるってこと?」などと目を疑ったり、血の気が引いた読者もいるでしょう。残念ながら、その通り。まるで大げさなSF映画のようですが、私たちの行動が見知らぬ会社に監視・閲覧・分析されているというのは現代社会のリアルです。データ分析産業については以下の記事でしっかりまとめておいたので、くわしくはそちらをどうぞ。

参考:「データ分析産業」の急な台頭(新しいタブで開きます)

人の頭の中身が、モノのように、勝手に売買されている。現代社会で本当に起こっていることの怖さは、ITにくわしくない一般の人が想像できる範囲を超えています。それが、私がこうして個人データ売買の問題をくり返し世に訴えている理由なのです。

読者によってはすでにへこんで逃げ出したくなったかもしれませんが、事実を知らなければ対策はできないし、知れば問題点だけでなく問題ない点も見えてきます。これから新しい会社が出現しても、IT業界の勢力図が移り変わろうとも、応用のきく頭になります。以上の予備知識にのっとって、以下GAFA4社それぞれについて解説していこうと思います。

Google

言わずと知れたウェブ検索の最大手・Google。いまネット上のこの記事を読んでいるのにGoogleと一切関わりを持っていない読者は、まずいないでしょう。

予備知識で確認した「3つのチェックポイント」に当てはめていくと、Googleは「Google社が運営する」「ウェブ検索サービス」ですが、検索機能で培った技術とノウハウを生かし、今日では検索以外でもじつに手広いサービスを提供しています。

Googleのスマートフォンアプリ
Gmail、Googleマップ、YouTube……スマホに最初からインストールされている代表的なサービスだけで、こんなにある。

Googleは検索など代表的なサービスのほかに、サイト閲覧ブラウザ・Chrome、スマートフォンOS・Android、「オッケー、グーグル」と話しかけるGoogleアシスタント、スマートスピーカーなど、端末関連や無料ソフトなども手がけています。企業買収により、今日では動画投稿サイト・YouTubeもGoogleの一部となっています。もしあなたがこの記事をAndroidスマホのChromeアプリで読んでいるとしたら、それだけですでに2つのグーグルサービスを利用していることになりますね。

Googleの提供するサービスは、一般ユーザー向けのものだけで65個、ビジネス向けの29個とディベロッパー向けの13個を含めれば、合計107にのぼります(2020年3月4日現在)。

Googleのすべての人向けのサービス一覧
Googleの一般向けサービス一覧。「Earth」や「Google Express」などになれば、きっと初耳なのでは?

では、3つ目のポイント、Google社はどうやって利益を出しているのでしょうか? サービスが手広くなった今日ではバリエーションが増えたのですが、古典というべきなのは「広告収入」です。Gmailを開くと、受信ボックスのメールの上に広告が出ていますよね。もし健康サプリメントの広告が載っていたとしたら、Google社はあなたにはメールサービスを無料で提供し、広告主であるサプリメントメーカーから広告料をとって収益を出しているのです。

Gmailの中身は見られていた!

このようなオンライン広告は、デジタル時代の新しい分野です。運営の仕方いかんによって、画期的にも、大問題にもなり得ます。

一から説明しましょう。Gmailなどに表示される広告は「パーソナライズ広告/ターゲット広告」といって、ユーザーの行動や趣味嗜好に合った広告が表示される仕組みになっています。

これを広告主の立場に立って見れば、不特定多数に見せる新聞広告や街の看板などと違って、自分の広告を「届けたい相手だけに届ける」ことができるという大きなメリットがあります。

ユーザーにとっても、たとえば「車を持っていないのに自動車保険の広告を見せられても……」などということが減るので、そう悪い話ではないでしょう。

ところが、ターゲット広告を出すための「行動や趣味嗜好」の解析は、行き過ぎれば私たちユーザーがぎょっとするような事態に発展します。

2017年前半まで、Googleはユーザーそれぞれに向けてパーソナライズ広告を表示するため、ユーザーのメールの中身をスキャンしていました。そう、Google社は、我々のメール本文や相手などを、全部閲覧していた――筆者なんぞはIT分野に慣れてしまったのでいまさら驚きはしないのですが、いまからGAFAの問題点を学ぼうという読者は「じゃあ、私のメールは全部Googleに見られていたの!?」と卒倒しかけたのではないでしょうか。

メールが他人に見られている。これが大問題なのは火を見るより明らかです。批判されたGoogleは、以後メールのスキャンをやめ、広告表示を同社の他のサービスと同じ方法に変更する、ということで一件落着をみました。なんだ、昔の話なのか、と、ひと安心したのではないでしょうか。

ところが2018年、米ウォールストリートジャーナル紙は、Googleが何百ものサードパーティー(Google外の開発者)に数百万人分のメールのスキャンを許可していたとスクープ。巨大IT企業の”Dirty Secret(汚い秘密)”に批判が巻き起こり、社のイメージダウンが決定づけられました。

手軽さ、便利さ、自分の用途に合わせたカスタマイズ、そして優れた検索機能。Gmailはじつに魅力的なフリーメールサービスです。

ただGmailを利用するなら、少なくとも「『自分の送受信したメール』は、実際にはGoogleの手元にあるのだ」ということは分かっていたほうがいいでしょう。Google社による意図的なスキャンだけでなく、関連会社やディベロッパーがらみ、あるいはサイバー攻撃など不測の事態によっても、見知らぬ第三者への「流出」はあり得ます。なので、メールの流出など万が一にも許されないビジネスシーンではGmailといっても広告がない有料の「G Suite」を利用していたり、ITにくわしくてこだわる人になれば、Googleとはたもとを分かち、プライバシーに特化したメールクライアントを利用したりしています。

関連会社で枝葉は広がる

ここまでの話なら、「だったら、Google社がおかしなことをやっていないか注意していればいいんだ」と思われたかもしれません。

しかし、Googleには多数の「関連会社」が存在しています。Googleが出資しているAI研究開発企業などです。関連会社で有名どころといえば、NIANTIC(ナイアンティック)ではないでしょうか。……「どこ? 聞いたことないけど?」という方、世界的アプリゲーム「ポケモンGO」の開発・運営会社だといえばピンとくるでしょう。「ポケモンGO」はGoogleマップと連動したゲームですが、それを可能にしたのは、同社がもともとGoogle社内のスタートアップだったという会社間のつながりでした。

このように、Googleと社名が異なり、たいていは無名な関連会社まですべてを把握するのは、一般人には難しいと言わざるを得ません。Googleという幹から伸びた枝葉は私たちの視界に入らないほど広がっていて、ぎょっとするような問題がそのどこで起こるかは事実上予測できない。事件発生の場がGoogle社とは限らないというところもまた、怖さ、不気味さではないでしょうか。

検索で得たインターネット界での独占的地位

今日、ネットを検索することは人々の日常にすっかり溶け込みました。おそらくあなたも、一日に何度も「ググって」いるのではないでしょうか。

検索といえば、Googleです。そのシェアは、多くの国で7割以上、国によっては9割を超え、YahooやMicrosoftのBingといった他社サービスを大きく引き離しています。しかも、Yahooの検索には、Googleの検索エンジンと検索連動型配信システムが利用されています。つまり、実質的にはGoogleとほぼ変わらないのです。

インターネット上で大きな影響力を持つ検索という分野で、そのまた独占的シェアを獲得した――この地位が絶大な力につながるのは言うまでもありません。

検索サービスを運営しているということは、同社のコンピューターには「人々が何を知りたがっているか」のデータが世界中から途方もない量集まります。このデータは、ビジネス的に宝の山。Google社は自社の広告ビジネスや人工知能(AI)の開発などに活用し、巨額の富を生んでいます。

また、視点を変え、ウェブサイトの在り方という点でもGoogleは大きな存在です。今日、人々がサイトを見つけ、アクセスする経路は、ほとんどが検索ですよね。この検索結果が持つ強い影響力から、サイト(オンラインショップを含む)にたくさん人を呼ぶためには検索結果の画面で目立たなければならない、なるべく上の方に表示されたい、という需要が生まれました。要するに、Googleに好かれなければならないのです。こうして、サイトを運営する企業や個人にとって、同社の示すサイト作成のガイドラインはすり合わせざるを得ないものとなりました。

ウェブ検索サービスで独占的地位を築いたことによって、Googleは業界内にとどまらず、インターネット全体にまで広がる支配力を手中にしているのです。

詳細:インターネットで起こりつつあったGoogleへの追従(「生成AIとは?―どこが問題点で、何が起こっているのか」)

(2023年5月24日更新)

Apple

コンピューター二大企業の一角・Appleは、パソコンやiPhoneなど自社端末の開発・販売を手がけています。

端末の他にも、iOSのアプリストア、音楽ダウンロード販売のiTunes、サイト閲覧ブラウザSafari、音声アシスタントSiriなど、アップル社は数多くのプラットフォーム、無料ソフト、サービスを提供しています。

iPodのアプリ
iOSのプリインストールアプリ。ユーザー向けのブラウザ等からダウンロード販売のプラットフォームまで、Appleのサービスもまた幅広い。

Siriの「盗み聞き」事件

話しかけると応えてくれる、iPhoneのSiri。私は町の公園で、小学生がiPhoneに「ヘイ、シリ、○○(ゲームのキャラ)を倒す方法を教えて」と「質問している」ところを見かけたことがあります。それくらい普及しているのでしょう。

そのSiriから録音、送信されてきた人々の会話を、アップル従業員らが日常的に聞いていた――2019年に、英ガーディアン紙がスクープしました。アップル従業員が仕事として「盗み聞き」していた会話には、医師と患者の間で交わされた病状についての話といったデリケートで秘匿性の高い内容や、家の中での恋人同士の私的会話などが多く含まれていたということです。

“Hey, Siri.”という音声で起動するSiriは、それ以前より、似た発音の言葉(たとえばテレビから流れてきた「シリア」など)でも起動することが知られていました。この盗み聞き事件でも、iPhone所有者は意図せず、また気づかないうちに「ヘイ、シリ」と似たような音声に反応してSiriが起動してしまい、周囲の会話が録音されたとみられています。

Apple社はガーディアン紙の取材に対し、会話の音声データがそのユーザーのApple IDと結び付けられることはないと回答しました。

しかし、ガーディアン紙の取材に匿名で応じたApple従業員は、そうして録音された会話は、iPhone所有者の位置情報(=居場所)、連絡先(=人間関係)、アプリのデータなどと結び付けられていると話しています。

AppleのSiriのプライバシーについての画面
Siriを利用するなら「プライバシーについて」は必読(設定→一般→Siri)。Apple社は他サービスのデータとは結び付けられないとしているが――。

つまり、アップル社には「誰それは、誰それを相手に、何年何月何時何分に、GPSで測ったこの場所で、こんな会話をした」とまるわかりになってしまう――「気持ち悪い」などという言葉ではとうてい表しきれない気持ち悪さではないでしょうか。「盗み聞き」の浅ましさを考えれば、業務としてそんなことをさせられていた従業員が内部告発する気になるのもわかります。

Siri経由Apple従業員の「盗み聞き」に限らず、人々が「家にスパイを招き入れている」事態は近年頻発しています。Amazonでも、スマートスピーカー「Alexa(アレクサ)」から録音された音声を聞くための人員が雇われていたことが明らかになっており、Googleアシスタントでもこれらとまったく同じ事例が報じられています。声に応えるおもちゃやアプリ、スマートスピーカーなどは、楽しくておもしろく、まさかそんな重大なことになるとは夢にも思わないままそばに置く人が多いのです。

参考:楽しい会話の相手は、AIキャラクターではない(「人工知能(AI)の問題点5選と、人間が全然心配しなくていいこと」)

演出を信じ込まず、音声アシスタントの仕組みを理解して

気味悪く気色悪い「盗み聞き」事件ですが、私はそれが起こったこと自体には驚きませんでした。Siriの「仕組み」が頭に入っていれば、こういうことが起こり得るとは予測できるからです。

ただ、世の中を見渡せば、こういうことが起こり得るどころか、そもそも「Siriとは何か」を把握しないまま利用している――おそらくは、なぜ会話がSiriからApple社員に送られたのかすら見えなくて当惑するような――人が多く見受けられます。

私は、SiriやGoogleアシスタント、Alexaが世に出現してからというもの、検索エンジンのことを人間の友達のようにとらえる人が出てきたのを肌で感じてきました。私のブログに「(ある状況や気持ちを指して)どうすればいい」とか「(たまごっちを)かわいい子にする方法」といった、人間との会話のような検索ワードからやってくる訪問者が現れたからです。

そもそも、Googleなど検索エンジンとは、ウェブ上の天文学的なデータ(ページ)に検索をかけ、特定の「文字列」を探し出すためのプログラムです。なので、検索エンジンの利用に向いているのは、たとえば「東京オリンピックが開催された年」といった確定的な情報を探す場面。「かわいい」「きれい」といった個人差の大きい感性にかかわる事柄や、「こんなときどうすればいい?」といった漠然とした質問には向きません。検索エンジンは「有能な秘書」や「物知り先生」ではなく、あくまでユーザーの「道具」なのです。

Siriと「会話ができる」というのは、あくまで楽しくするための「演出」です。音声アシスタントに「質問する」のは、正確には「音声入力」のこと。すなわち、「今日の天気は?」と「Siriに尋ねる」のは、たとえユーザーには「お話している」ように感じられたとしても、実際に行われていることはGoogleの検索窓にキーボードで「今日 天気」と打って「検索」をクリックするのと同じです。入力方法がキーボードか声かの違いだけなのです。

iPodの音声コントロール画面
入力方法が声でも指でも、プレイリストが再生されるという結果は同じである。

私は、話しかけると応えてくれるという「演出」自体はまったく批判しません。夢があっておもしろいし、モノのデザインとして優れていると思います。音声入力の仕組みを分かったうえで楽しく、あるいは便利に利用している人もいるそうです(たとえば、メールで「わかりました。ありがとうございます。」と返信するだけなら、メールアプリを指で起動してキーボードで打つより音声入力のほうが早い)。しかも、音声入力は画期的な技術です。指が使えない人や視覚に障害のある人に大きな可能性が開けるからです。そもそも「入力方法」として、キーボードや電源スイッチ等は絶対ではありません。音声認識の研究は、今後もっと進んでほしいと思っています。

ただ、「演出」という皮の部分を「現実」だと勘違いし、Siriを人間と同じにとらえてしまった人には、そろそろ本当のことを学ぶチャンスが行き渡るべきだと思います。

Siriの仕組みは?

では、Siriをはじめとする音声アシスタントは、どうやって「話しかけると応えてくれる」かのように動いているのでしょうか? その「仕組み」は、以下の通りになります。

  1. 「Siriに話しかける」=音声で入力する
  2. 音声は録音され、Apple社のサーバーに送られる
  3. 音声がデータベースと照合され解析される
  4. 音声のキーワードと関連すると判断されたコマンドが、ユーザーのiPhone等に送り返される
  5. 「Siriが応える」

つまり、あなたが普段からSiriを使っているなら、話しかけた音声はすべてアップル社に送られているということです。

たとえばあなたがある夕方「ヘイ、シリ、明日の天気を教えて」と聞いたなら、あなたはアップル社に「私は2020年3月7日17:22に2020年3月8日の(GPSで測った自分の位置情報)の天気を知ろうとしました」と教えた、ということ。これをどう感じるかには個人差があって、かまわないよと考える人もいれば、アップル社にそんなことを教える筋合いはない、とSiriから去っていく人もいるでしょう。

もっとも、世界中から送られてくる膨大な一言一言を人間が耳で聞いて対応しているはずはありません。Apple社は、音声解析のほとんどはコンピュータープログラムによって自動で行っているとしています。ですが、録音された自分の音声はアップル社の手元にあるのだ、ということは忘れてはなりません。アップル社は、その気になりさえすればいつでも「盗み聞き」できる。それが、私が「こんなことがいつ起こってもおかしくない」と思っていた理由です。

Siriの「仕組み」を頭に置いてはじめて、自分はSiriを使うか使わないか、使うならどんな範囲でどのように利用するか、それぞれが自分の考えを持って決めることができるのです。

GAFAなどプラットフォーマーの問題点は、あわてずさわがず、「危ない、危ない、とにかく危ない」と極論や大衆扇動に走ることなく、事実をありのままに理解したうえで論じていきたいものです。

Facebook(新社名・Meta)

全世界ユーザー数ナンバーワンを誇る、SNSの元祖。フェイスブックは「Meta社(旧称Facebook社)による」「投稿・交流サイト運営サービス」です。企業買収により、スマホ向け写真投稿プラットフォーム・Instagram(インスタグラム)はフェイスブック傘下に入りました。

同社はGoogleやAppleと違って独占的なアプリストアを保有してはおらず、Amazonや楽天のように本や物品を売っているわけでもありません。

では、冒頭で挙げた「3つのポイント」のひとつ、どうやって利益を出しているのか、といえば、収益のほとんどはフェイスブック上に表示する広告からの収入によっています。

トランプ当選の秘密にFacebookあり!―SNS史上最大最悪の事件

世界が驚愕した、米トランプ大統領の当選。

なぜあのような人物が大統領に当選できたのか。なぜアメリカ人はあんな人物に投票したのか。誰もが疑問に思うところでしょう。

実はトランプ当選の裏側に、フェイスブック上の個人データが利用され、人々の心理が影から操作されたというとんでもない事件があることをご存じでしょうか?

トランプ陣営は選挙戦に、データ分析会社・Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)を雇っていました。このデータ分析会社に、フェイスブックから8700万人分の個人データ(氏名、年齢、学歴・職歴などプロフィールに登録してある個人情報はもちろん、顔写真、これまでに「いいね」したすべてのもの、投稿した日々思ったことやその時の気持ち、誰とつながっていてどんな関係にあるか、など)およびフェイスブック友達の同データが流出。ケンブリッジ・アナリティカはこの膨大なデータを分析し、「パーソナライズ広告」等に利用することで、人々の心をトランプ氏に投票するよう誘導していった――「良心の呵責に耐えられなかった」という元社員が、そう証言しました。

SNS史上最大最悪といわれるこの事件の全貌は以下リンクで徹底解説しましたので、そちらを参照ください。

FacebookからCambridge Analyticaへの個人情報流出事件を徹底解説!(新しいタブで開きます)

GAFAのようなプラットフォーマーに集まる個人情報は、ぎょっとするほどあなたの奥深くまでを映します。あなたが何という名前で、どこに住んでいて、どんな学歴・職歴で、日々何を思い……心の奥底で、どんな願望を抱いているか。どんなに親しい友達でも、長年いっしょに暮している家族でも、あなたのことをFacebookほど深く理解していることはあり得ません。願望や深層心理になれば、その理解は、あなた自身が把握できていないほど深い領域に達します。あなたが社名すら知らないデータ会社で働く見ず知らずの他人でも、フェイスブック上の行動データさえつかんでしまえば、それを分析にかけることで、あなたがどんな人物かを根こそぎ調べ上げることができるのです。

その分析結果を宣伝に利用すれば、人の頭の中を陰から操作できる。人々に、あんなどう見たってキテレツな人物に投票する気を起させることすら可能である。ケンブリッジ・アナリティカ事件は、GAFA規模で集まった個人データの分析によって、かつてない心理操作、大衆操作がすでに可能となっている現代社会の問題点と怖さ、危険性を露呈させました。

「ユダヤ人差別論者向け広告」事件

トランプ当選の立役者となったケンブリッジ・アナリティカの事件は、すでに徹底解説しました。やりきったと思っています。

なので、ここではその時触れなかった別のFacebook広告の事件を紹介しましょう。

2017年9月、ジャーナリスト団体・ProPublica(プロパブリカ)は、フェイスブック上で「ユダヤ人差別論者」をターゲットとした広告を出すことが可能だ、という衝撃のスクープを発表しました。

ProPublicaの記者は、フェイスブック上に広告を出したい広告主をよそおって、“Jew hater(ユダヤ人嫌い)” “How to burn jews(ユダヤ人を滅ぼす方法)”  “History of ‘why jews ruin the world’(ユダヤ人が世界を破壊した歴史)”などに興味を持つ人々(=プロフィールの「興味関心」「勤め先」「(学歴での)専門分野」にそのようなことを書いている人)を広告の表示先にできるか試したところ、可能で、広告料30ドルを支払うと、たったの15分で広告掲載が受理されたということです。

報道がなされると、Facebook社のCEO・ザッカーバーグ氏はすぐさま自らのフェイスブックで「ヘイトスピーチに場を提供することはない」旨を発表、ユダヤ人差別につながる広告ターゲット層を削除しました。広告のターゲットとするユーザーグループをはじき出すのは、人ではなくコンピュータープログラムが行っており、そのプログラムで「ユダヤ人差別論者」が生成されてしまったということでした。

ネット上の心理操作とヘイトスピーチ問題

テクノロジーは、使う人の人間性によって、良いものにも悪いものにもなります。

インターネットもそう。普通の人や企業だけではなく、悪意ある者もネットを「有効活用」していて、しかもその深さ、巧みさは、一般人の想像の域を越えています。

民族主義者やアメリカの白人至上主義者など、ヘイトスピーチを行う集団は、自らのブログ、SNSでのやりとりやYouTube動画などを駆使して、支持者を増やすべく勧誘活動をしています。オンライン広告も勧誘手段の一つとしていて、たとえば「教科書には載っていない歴史の真実」とか「学校で教わった歴史は嘘だった」など、好奇心をくすぐるタイトルや刺激的なキャッチフレーズの広告をネット上に掲載しています。クリックすれば、彼らのサイトや本の紹介などにつながるのです。これまでネットを使ってきたなら、「あれってそうだったのかも……」という心当たりが一つや二つはあるのではないでしょうか?

巧みに、というのは、あからさまな方法ではない、という意味です。たとえばYouTubeで”depression(うつ)”を検索すると、いかにもそれらしい「解説動画」で心理専門家の格好をした白人男性がもっともらしいレクチャーを始め、「自分に自信を持つ方法」などと称して白人至上主義をしゃべりだし、心が弱っていた視聴者を集団に引きずり込んだ、といった例が報告されています。差別発言をがなり立てる様子をビデオに撮ってYouTubeに投稿する、という単純なやり方ではないんですね。ぱっと見ではヘイトスピーチ団体であることがわからないよう、正体を隠しているのです。

このような状況があるので、フェイスブックやユーチューブなどに対しては、「ヘイトスピーチの場を提供している」と批判の声が絶えません。なので先ほどのザッカーバーグ氏のように、運営会社は通報システムや投稿削除などでヘイトスピーチに対応しています。

ただ、ヘイトスピーチへの運営側の対応は、いたちごっこになりがちです。たとえフェイスブックが「ユダヤ人嫌い」というワードを削除したとしても、ヘイトスピーチ集団は似たようなワードや隠語などで抜け道を通り、それが削除されたらまた……をくり返すのです。あるいは、フェイスブックやユーチューブはたとえヘイトスピーチであれ場を提供すればカネになるから対策に本腰を入れないのだ、と主張している人もいます。

私はかれこれ15年近く前から、ネット上のヘイトスピーチの動向には敏感でした。というのも実は私自身、高校でクラスの友人がネットからヘイトスピーチ集団にはまりこみ、その友人を失ったという経験をしているからです。SNSという新たな投稿型サイトが爆発的に広まった今日、ヘイトスピーチ集団のネットによる勧誘は、以前に増して私たちの身近になっています。私たちがこの時代をまっとうに生きていくためには、インターネットが悪意ある者にも「有効活用」されているという事実、およびその心理誘導の手口を学んでおき、自分でファクトチェックする方法を覚え、くせをつけ、根本的には差別そのものに立ち向かっていくことが、いっそう大事になっています。

Amazon

Amazonは、書籍にはじまり、日用雑貨や食品などにわたる総合的なネット通販を展開しています。したがって、アマゾンには利用者の検索履歴、閲覧履歴、商品の購入履歴、そして名前や住所などの個人情報が集まります。履歴データは、サイト上に「こちらの商品もおすすめ」を表示する目的でも利用されています。

アマゾンは、出店の場「Amazonマーケットプレイス」を提供しています。さらに、スマートスピーカー「Alexa」の開発・販売・運営、ビデオのダウンロード販売やストリーミングなども行っています。

そもそも市場独占とは?

社会の授業でも習う、独占禁止法。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。その目的は、

……公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進すること(独占禁止法1条)

とされています。裏を返せば、もし独占が起これば、公正かつ自由な競争が減退し、事業者が創意を発揮しようとしなくなり、事業活動は弱まり、国民の雇用や所得が下がり、一般消費者の利益が損なわれ、国民経済が非民主的で不健全になる、ということになりますね。

一般に、市場独占の問題点といえば「価格のつり上げ・品質悪化」が典型でしょう。次のような架空の例で考えてみるとよくわかります。日本国内に、巨大な電話会社・ニホンテレホンがあるとします。ニホンテレホンには力がありすぎるため、ほかの会社や新しい会社では競争に勝てるはずがありません。そうなれば、日本国内で「電話」といったらニホンテレホンのみ、つまり「電話」という業界がまるごと独占される結果となります。人々は、電話を引きたければニホンテレホンに頼むしかありません。するとどうなるか。ニホンテレホンは独占的地位にあぐらをかいて、電話料金をつり上げたり、電話がつながりにくくなってもほうっておいたりするでしょう。ぼったくろうが、サービスが悪かろうが、客は逃げていかないのだから。

独占禁止法は、独占によるこうした弊害を防止するための法律です。上記のような一般消費者からの「ぼったくり」等には、公正取引委員会が「競争を回復させるために必要な措置を命ずる(8条の4)」ことができるとしています。

GAFAでいう独占問題の特徴

ただ、市場独占の問題にはバリエーションがあり、Amazonマーケットプレイスなどのケースでは「価格のつり上げ・品質悪化」とは違う種類の害が生じます。不利益をこうむるのが、一般消費者ではなく、出店者なのです。

アマゾンは、「Amazonマーケットプレイス」という「店を開く場」=プラットフォームを広く世に提供しています。かんたんに「店を開く」ことができるのだから第三次産業革命・インターネットが可能にした夢のある話ではあるのですが、業者によっては、社の売り上げの大部分を「アマゾン店」に依存する状況となっています。そうなれば、アマゾンから退店したくても、事実上できません。

またスマホアプリの開発者になれば、現状、Google・Appleのアプリストアで売る以外に選択肢はありません。

出店者が事実上逃げられないなら、アマゾンなどプラットフォーマーは無理のある条件を突きつけられる。これがGAFAなどプラットフォーマーと出店者の間に生じる独占の問題点です。後述する国内の大手ネット通販・楽天の送料無料問題も、これとまったく同じケースです。

盲点に入ったMicrosoft

ここまで、GAFAそれぞれの問題点や事件をみてきました。この4社は世界規模で広く展開し、個々人のプライバシーにかかわる膨大な情報が集まっているため、時にケンブリッジ・アナリティカ事件のような極めて深刻な事件の引き金となっています。

ただ私が強調したいのは、上記のような問題点は、決してGAFA4社だけのものではないということです。

Google、Amazon、Facebook、Apple Storeのスマホアプリ
この4社が注目されているが……。(© windsurfer62/123RF.COM)

「GAFA」から抜け落ちた巨大企業といえば、なんといってもWindowsでおなじみのMicrosoftでしょう。マイクロソフトは、コンピューター端末やIT業界の変化をいち早く察知し、Windows10で従来のWindowsをプラットフォーム型サービスに転向させることで、新しい時代の波に乗りました。ウェブ検索「Bing」やクラウドサービス「One Drive」をはじめ、提供するサービスはGAFA各社と重なります。よって、独占問題はGoogleやAppleと同様です。

さらに、マイクロソフトは大手SNS・LinkedIn(リンクトイン)を買収。LinkedInとはビジネスパーソン用のSNSで、日本ではユーザーはめったにいないのですが、海外では人的つながりの構築、求職、人材募集、ビジネスに関する投稿などで活発に利用されています。LinkedInが加わったことで、マイクロソフトはさらに巨大化することになりました。

Microsoftが忘れられているなんておかしい、と憤ってか、「GAFA」に後からMを足して「GAFAM(ガーファム)」と言い出した人もいるようです。

Microsoft VS Google―生成AI開発とウェブ検索を舞台にGAFAMが激突【最新】

以上のような米巨大IT・GAFAの構図は、生成AIの登場で新たな局面を迎えます。

2022年から2023年にかけて、画像やテキストの生成AIが続々とリリースされました。中でもテキスト生成AI・ChatGPTは世界中で大きな話題となり、同時に様々な懸念を生じさせました。

このChatGPTを開発しているのはアメリカの研究企業・OpenAIですが、実は同社はMicrosoftから巨額の出資を受けています。Microsoftは、これまでGoogleに大きく水をあけられていたウェブ検索・BingにChatGPTの技術を組み込んでいくと発表。検索という分野のゲームチェンジャーになる自信と意気込みを見せました。

Googleも黙ってはいません。こちらもテキスト生成AIのBardを発表し、同じく同社の検索に活用するとしています。

こうして、Googleの強さが揺るがなかったウェブ検索分野でMicrosoftが対決姿勢を明確にし、GAFAM同士のAI開発競争は熾烈を極めるようになりました。同時に、生成AIという新たな局面で再び、GAFAMへの大量のデータ集積や著作物の無断利用が問題点として急浮上しています。詳しくは以下リンクをご覧ください。

詳細:生成AIとは?―どこが問題点で、何が起こっているのか

(2023年5月24日更新)

中国BATHもFAANGも原理は同じ

GAFA(あるいはGAFAM)はアメリカのグローバルIT企業をくくった言葉ですが、中国の巨大IT企業についても同じような語呂ができています。「BATH(バス)」です。

BATHは、Baidu(バイドゥ/百度、中国の検索サービス大手)、Alibaba(アリババ/阿里巴巴集団、IT系持ち株会社で法人向けマーケットプレイスAlibaba.comが有名)、Tencent(テンセント/騰訊、アプリ「WeChat」など)、Huawei(ファーウェイ/華為技術、通信インフラ機器・スマートフォン端末など)の4社。BATHという名称はGAFAと比べてあまり普及しておらず、耳にすることはめったにありませんが、これら中国4社がグローバル企業であるのは事実です。検索やSNS、マーケットプレイス運営のビジネスモデルやそこから生じる問題点は、GAFAのそれと変わりません。

さらに、最近はGAFAやGAFAMではなく「FAANG(ファング)」という言葉も出現。アルファベットを並べ替えてみれば、GAFAにNが足されていることがわかります。Nとは、新手の映画・ドラマストリーミングサービス、Netflixのこと。浮上してくる問題点はネットフリックスでも変わらないので、こちらもくり返しません。

一社だけ毛色の違うファーウェイ

こうした語呂でまとめられた大手IT企業のうち、BATHのファーウェイだけは異色な存在です。ファーウェイはITといっても基本的に「通信インフラ」の会社で、検索やSNS、マーケットプレイスなどを手がけるプラットフォーマーではないからです。

ファーウェイはメーカーとして握っている通信機器にスパイ活動ができるよう手を加えているのではないか。同社には、中国政府との癒着や、産業スパイの疑惑がかかっています。ファーウェイ製のスマホにも、セキュリティ上の問題がささやかれています。北朝鮮やイランなど独裁国家へのインフラ提供は、世界各国から批判されています。2019年、同社CEO(最高経営責任者)の娘で副会長・CFOの孟晩舟氏がカナダで逮捕されたのを覚えているでしょうか。これは、同氏がイランとの取引のためアメリカの金融機関に虚偽の説明をしたという容疑の事件です。この事件を受けたアメリカの号令により、日本を含む世界各国にファーウェイ製品を締め出す動きが生まれています。

参考:ファーウェイはなぜ問題になっているのか~日本の選択、世界の分岐点

このように、ファーウェイにかかわる事件や疑惑(背景には各国の外交関係や昏迷のアメリカ政治がひかえている)は、GAFA等のそれとは根本的に種類が異なります。

日本のローカル企業も原理は同じ

では、GAFAにMやNを付け足したり、中国のBATHを取り上げたりすれば、めでたく大手IT企業の問題点を網羅することができるのでしょうか。たとえば、Twitterではこういう問題は起こっていないのだろうか? アジアで人気を誇るLINEは? 「世界一収益の多いサイト」ともいわれる「Yahoo! JAPAN」は? 日本国内の巨大ネット通販・楽天は?

行動データの分析にもとづくターゲット広告、無料のブラウザやスマホアプリ。ビジネスモデルと個人情報の集中は、どこも同じです。最近は「GAFA」という語呂が流行り、まるでこの4社だけが後ろ暗いことをしているかのような印象を与える報道まで見受けられますが、実際には、上で挙げた問題点は、日本企業を含む現代社会全体で巻き起こっている現象です。

GAFAとアメリカとコンピューター
GAFA各社はアメリカの企業だが、その問題点は米企業だけの話ではない。

以下では、日本で起こったGAFA同様の事例をみていこうと思います。

楽天の送料無料問題

2020年、日本国内の大手ネット通販・楽天は、Amazon等との価格競争のため、プラットフォーム「楽天市場」の出店者に対し、「送料無料」とするプランの実施を求めました。

これに多くの出店者が反発します。公正取引委員会は、出店者に対して独占禁止法の定める「優越的な地位」にある楽天が、契約条件を出店者の不利益になるよう一方的に変更しようとしているとして問題視。立ち入り検査を行います。

これに対し楽天は、「送料無料」を「送料込み」に言い換えることで「出店者に送料の負担を強いてはいない」という姿勢を示し、退店する出店者へ出店料を返還するなど、支援策を打ち出しました。

しかしそれでも、公正取引委員会は独占禁止法違反の疑いから、楽天に送料無料プランを実施しないよう命じるよう、東京地裁に緊急停止命令を申し立てます。

その後、楽天は、新型コロナウイルスによる店舗の経済的負担を理由に、準備のできた出店者のみプランを開始する方針を発表。これを受け、緊急性が弱まったとみた公正取引委員会は3月10日、緊急停止命令の申し立てを取り下げたうえで、引き続き調査を続けるとしました。

楽天の対応は、新型コロナウイルスというまったくの別件にかこつけた一時的なものにすぎません。最終的にどう決着をみるかは、今後の公正取引委員会の判断が待たれます。

楽天の送料無料問題は、楽天と楽天市場出店者の関係だけにとどまっています。日本国内でのべ1億人を超える楽天利用者のプライバシーは、まったくもっての蚊帳の外でした。今後は出店者だけではなく、肝心の一般消費者を含めた見方をしていくべきでしょう。

Yahoo! JAPANとLINEが統合で巨大化、個人データ集中へ

2021年3月1日、LINEとYahoo! JAPANは正式に経営統合しました。

具体的には、ソフトバンクと韓国ネイバーが折半で出資する新会社・AホールディングスがZホールディングスの持ち株会社となり、ZホールディングスがヤフーとLINEを完全子会社として傘下にもつ体制になります。

Yahoo! JAPANは日本国内の検索大手で、ヤフーショッピング、オークション、電子書籍、求人情報、スマホ決済PayPay、公金支払いなど、幅広いサービスを展開するポータルサイトです。つまり、Yahooアカウントを利用しているなら、あなたの趣味や行動、生活実態がわかる検索履歴、購買履歴などの個人データがヤフーに集まっていることになります。ショッピングやオークションに出店者を招いている点では、ヤフーはAmazonや楽天と同じです。

一方、LINEは日本をはじめアジア地域で人気を誇るSNSアプリです。こちらもゲームやマンガなどの娯楽コンテンツ、ショッピング、求職、カーナビ、保険や投資、あるいは医師への相談に至るまで手広い事業を手掛けているので、あなたがもしLINEを使っているなら、利用した分だけ個人データがLINE社に集まっていることになります。

LINEのサービス一覧画面
LINEのサービスリストの一部。使った分だけ、自分の行動データがLINEに集まっている。

Yahoo! JAPANの国内年間利用者は約8000万人、LINEの月間利用者は約8600万人。この2社が統合したことで、膨大な人数の事細かな行動データが一社に集中することになりました。Yahoo! JAPANやLINEをどの程度利用してきたかは人によって異なりますが、使えば使うほど、相手企業の手に渡る自分の行動データは多くなります。これまでに利用したサービスによっては、職歴や健康状態などといったデリケートな個人情報が、もう片方にたまっているデータと結合され得ます。

新たな巨大プラットフォーマーとして、新会社の市場独占やプライバシーの問題は、これからも公正取引委員会によって審査され、社会から注視されていくでしょう。

(なお、今回の統合を経営の視点から見ると、ヤフーとLINEの新会社は、GAFAや中国BAT、国内大手・楽天に迫る存在を目指すとしています。複数メディアによれば、事業説明会では今後の戦略として、GAFAとサービスの差別化を図る、スマホ決済PayPayとLINEペイを統合して運営コストを削減する、アジア地域へ海外展開するなどの方針が示されました。ただ、巨大化したとはいえ、同社とGAFAの間には依然差があります。加えて開発の面でも、GAFA各社はデータ分析等に利用する人工知能(AI)の研究開発に年間1~3兆円を費やしていますが、統合前の2社では両社を足しても約200億円。さらに人材不足の指摘もあり、GAFAに迫るのは厳しい道のりになるとみられます。)

(2021年3月2日更新)

リクナビ事件を忘れるな―ローカル企業はGAFAより怖い?

2019年、リクルートキャリアが運営する就職情報サイト「リクナビ」が、利用者である大学生の同意を得ず、利用履歴等から内定辞退率を予測したデータを第三者企業に売っていたことが明らかになりました。自分のデータを分析され、第三者に売られていた学生たちからは、いっせいに悲鳴が上がりました。

リクナビは、いわゆる”就活”において独占的地位を占めています。事件発覚後、私がTwitter等を見て回ったところ、大学生からは「リクナビを退会したいけど使わざるを得ない」といった苦々しい落胆をかみしめる声がみられました。

リクルートグループは、飲食店予約サイトの大手「ホットペッパー」やポイントプログラム「Pontaカード」をはじめ、様々な大手事業にかかわっています。リクナビ事件のあとには、ホットペッパー等関連サービスから退会する動きもみられました。

性質の悪い事件でしたが、私から見ると、リクナビ事件を契機に、私がくり返し訴えてきた「データ分析産業」の実態と危険性がようやく日本でも知れ渡ったという手ごたえがありました。

近年は「GAFA」という語のおかげでアメリカのこれら4社ばかりがやり玉にあがる形になりましたが、実際には、「リクナビ」のような日本だけで展開するローカル企業でも、個人データの分析や市場独占という問題点はGAFAと変わりありません。私としてはむしろ、小規模ローカル企業のほうが不安に感じられたりもします。

というのも、GAFAほど大規模になれば、その動向に注意を払い、監視している団体等もまた世界中に多数存在しているからです。Googleがメールの中身を「盗み見」していれば、それに気付く人や市民団体等が出てきます。SiriとAlexaとGoogleアシスタントによる「盗み聞き」は、内部告発者が出たりしてメディアで大きく報じられました。Facebookの「ユダヤ人差別論者向け広告」は、気鋭のジャーナリストが突き止めてすっぱ抜きました。

しかし、日本国内だけで展開する企業になれば、その分注目している人、監視している人の絶対数が激減します。したがって、日本企業でGAFAと同様の「メールの中身スキャン」や「音声アシスタントからの盗み聞き」や「個人データの政治コンサルティング会社への流出」が行われていたとしても、明るみに出にくいのです。

Yahoo! JAPANや楽天は、GoogleやFacebookと同じく、ユーザーの興味関心に合わせたパーソナライズ広告で広告料を得ています。シャープやソニーなどの日本メーカーのスマホには、オリジナルの音声アシスタントがインストールされています。その仕組みは、GAFAのSiriやAlexaやGoogleアシスタントと同じです。よって、いつ同じ問題が起こってもおかしくありません。

ヤフーに楽天、シャープにソニーといったラインナップなら、これでもまだ「有名どころ」といえるでしょう。

しかし、AIキャラとの会話アプリの運営会社などになれば、会社名はほぼ無名です。会社にユーザーの音声等データが集まるのはSiriと同じ、いやそれ以上にデリケートな個人情報(体重や持病、学校の悩みや上司の悪口など!)を集めていることもあるのに、そのデータ取り扱い方法は、事実上ノーチェックなのです。

私がアプリストアを見ていると、「この会社は裏で何やってるか……」と震えることが多々あります。しかし、現代の「個人データ分析産業」を知っていればあからさまに危険な「個人情報収集用アプリ」でもダウンロード数は何万、何十万にも達していたりして、私はそのたび「このアプリを使ってる人、自分がやってることの意味に早く気付いて!」と心の中で叫びます。

リクナビ事件を忘れるな。GAFAの事件同様の問題は、日本国内だけで展開するあの会社でも、このサービスでも起こり得ます。冒頭で挙げた予備知識が理解と対策の大きな助けになる、ということがよくわかると思います。

世界的な規制の動き

「データ分析産業」の台頭に対し、私たち一般市民が自分の個人データの行方をコントロールできるよう、世界中で規制の動きが進んでいます。

2018年には、EUでGDPR(一般データ保護規則)が定められました。これにより、本人の同意なしにはデータ利用ができないとされたほか、データのEU外への持ち出しやプライバシーポリシー設定などにも規則が設けられました。

思い返すと2018年の一時、プライバシーポリシー変更のお知らせがやたらと届いた記憶はありませんか? あれは、GDPR施行にともなってのことでした。私もGDPRに合わせて、ブログにプライバシーポリシーページをつくることになりました。GDPRは「これさえあれば安心」というほどではないにせよ画期的な法規制で、個人データ分析が跋扈する現代に一石を投じました。日本にもこういうのがあればいいのに、と私はうらやましく思っています。

EUではさらに、閲覧履歴などの利用を規制する「eプライバシー規則」も議論中となっています。

日本での規制の現状と課題

独占禁止法が禁じる「優越的な地位」の濫用。従来この規定は企業間に適用されてきましたが、公正取引委員会はその適用をIT企業と私たち一般消費者にも広げる方針です。

2020年、個人情報保護法は、収集したデータの利用停止を求める「利用停止権」を拡大する改正がなされる見込みです。ただ、この改正では違反した企業への罰則は盛り込まれませんでした。規制の動きはありますが、十分とはいえません。

楽天の送料無料問題でスポットライトが当たったのは、「プラットフォーマーと出店者」の関係だけでした。問題意識は、私たち一般利用者のプライバシーにはおよんでいないのです。

リクナビ事件が起こってようやく、一般の人々が「データ分析産業」や「個人データの第三者提供」に身震いするようになったと思います。日本の一般個人がプライバシーに目覚めたのはよかったのですが、知識や対策の広がりは、ようやくスタートラインというところでしょう。

自分の身は自分で守る―自分でできる対策

このように、一般消費者のプライバシーを守る法規制が十分でない以上、私たちは「自分の身は自分で守る」スタンスでいるのが賢いといえます。

自分のオンラインプライバシーを守る方法は、本当はそれだけでサイトを一つ立ち上げられるほどのテーマなのですが、ここでは自分でできることをざっと並べておこうと思います。

  1. ブラウザの設定で、行動を追跡する「Cookie」を拒否
  2. ブラウザの閲覧履歴やCookieを定期的に消去する
  3. サイト閲覧に適宜プライベートウィンドウを利用する
  4. プライバシー保護に特化した検索サイト(DuckDuckGo)やアプリ(Firefox Focusなど)を利用する
  5. パソコンやスマホなど端末のセキュリティをアップ
  6. ネット通信を暗号化
  7. 使わないスマホアプリはアンインストール(できない場合は無効化)
  8. いらないサービスには会員登録しない・利用しない(特にヘルスケア関係!)
  9. 利用していないサービスはスパッと退会
  10. 必要ない時はスマホの位置情報を切る

今回はスペースの関係で細かくは説明できないので、気になる項目があれば検索(DuckDuckGoやFirefox Focusで!)してみてください。筆者はこれらを織り交ぜて、自分で対策しています。

私はなにも、GAFAやヤフー、楽天やリクナビ、その他企業に自分のことを一切教えてはならない、と言っているのではありません。プライバシーとは、「自分に関する情報を、自分のコントロール下に置く」という意味です。相手企業にどこまでなら教えていいか。それは、自分で決めることなのです。

自分の身を自分で守るためには、まず現代社会の「データ分析産業」の怖さを頭に置き、「スクリーン越しに企業と向き合っている」ことを常に忘れないでいるのが大事です。GAFAをはじめ、自分の行動データが自動的に送信される相手企業と、どの範囲で、どのようにつきあっていくか。自分の考えに合った利用方法を確立していきたいですね。

関連記事・参照元リンク

著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)MastodonYouTubeOFUSE

(性質上、この記事は更新されることがあります。記事公開2020年3月12日、最終更新2021年3月2日。)

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プライバシーポリシーを楽に読む方法 – 長くて難しいため多くの人が読まず終いになっているプライバシーポリシーを読むコツとポイントをまとめました。

【主要参考資料】

米ウォールストリートジャーナル “Tech’s ‘Dirty Secret’: The App Developers Sifting Through Your Gmail” – 2018年のGoogleによるメールのスキャンを暴いた大元の記事です。

英ガーディアン紙 “Apple contractors ‘regularly hear confidential details’ on Siri recordings” – 「盗み聞き」を業務として行っている匿名のアップル社員による内部告発です。社員らが耳で聞いていた私的会話の内容が衝撃的です。

ProPublica “Facebook Enabled Advertisers to Reach ‘Jew Haters’” – 「ユダヤ人差別者向け広告」を出せるかどうかの実験の手順や、そのつどの結果が克明に示されています。手の込んだスクープです。

【画像クレジット】

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