ファーウェイはなぜ問題になっているのか~日本の選択、世界の分岐点

パソコンやタブレット、スマホのメーカーとしておなじみになったファーウェイ。スマホで世界シェア第2位(2020年第3四半期、IDC調べ)を誇る中国企業である。

しかし、同社はしばしば問題として取り上げられてきた。筆者も当ブログでGAFA独占問題を論じた際に同社創業者の娘でCFOの孟晩舟氏がカナダで逮捕された事件に触れたほか、米TikTok規制問題など中国系IT企業を何度も扱っている。

実は、ファーウェイをめぐる問題は、単なるIT関連の域にとどまらない。いま、我々は世界史が動こうとしている、その節目に立っている。世界の構図が変わる、その台風の目がファーウェイなのである。今回は、この中国系巨大IT企業にあらためてスポットライトを当てようと思う。

ファーウェイとは?―スマホメーカーではないその素顔

ファーウェイ(華為技術)は、近年では最新のスマホ端末で脚光を浴びることが多い。スマホメーカーとして存在感を増しており、前述の通り世界シェアは第2位である。

しかし、もとをたどればファーウェイはスマホメーカーではなく、「通信インフラ」の会社だった。つまり我々の手元にあるスマホやタブレットではなく、町に設置された携帯電話の基地局などを作ってきたのである。同社創業は1987年だが、初のスマホを発売したのは2009年。通信インフラ事業で成功を収めグローバル企業となった後、関連分野であるスマホやパソコンの製造に着手したというわけだ。

他のIT巨大企業と比べると、立ち位置の違いがよくわかる。GAFA、すなわちGoogle、Apple、Facebook、Amazonや、日本国内で言えばYahoo! JAPANや楽天などに関して問題となっているのは、主に「市場の独占」と「個人データの集積」である。たとえば「出店」形式を設けているネット通販サイト・楽天では、その影響力の大きさから出店者に送料を無料にするよう迫ったことが問題視された。また、SNSに投稿するということは、ユーザーの年齢や経歴、日々の行動や顔写真、思想などがSNS運営会社に集まることを意味する。詳しくは以下で解説した。

参照:GAFA独占の問題点と日本の現状・課題

このように「場」を提供する性質から、GAFAをはじめとする巨大IT企業は「プラットフォーマー」と呼ばれている。アメリカでの規制が問題となった中国系動画アプリTikTokも、Facebook等と同じSNSモデルのプラットフォーマーである。

そこをいくとファーウェイは、ネット通販サイトを運営して「場」を提供しているのでなければ、SNSを運営しているわけでもない。つまり「プラットフォーマー」ではないのである。「通信インフラ」のメーカーとして、また新興の超大国・中国の企業として、ファーウェイは他とは違う、独特な立ち位置にある。

5G基地局での世界シェアは?

通信インフラといえば、無線通信規格は現在の4Gから次世代の5Gに変わる節目をむかえている。5Gの詳細は以下で解説した。

参照:5Gとは?―5Gがもたらす未来と可能性

ファーウェイは基本的に通信インフラ会社なので、ライバル社と競争する舞台は「通信インフラ業界」ということになる。

では、通信インフラという業界において、同社はどのような位置を占めているのだろうか?

5G基地局の世界シェアにおいて、ファーウェイは28.5%を占め第1位である(2020年、TrendForce調べ、以下同)。2位にはエリクソン(スウェーデン)がつけ、3位はノキア(フィンランド)、それにサムスン(韓国)やZTE(中国)が続く。

ファーウェイ製の基地局は小型で取り付けが簡単な上、価格が他社より最大3割安いので、ヨーロッパを中心にシェアを拡大した。

アメリカvs中国―世界史の舞台となる5G

IT業界では、ここ数年で、中国企業が目覚ましく力をつけてきた。スマホ向け動画共有アプリ「TikTok」は世界一の人気を誇り、SNSアプリ「WeChat」などもシェアを広げている。

こうした新興IT企業の母国・中国は、いまや経済力で世界第2位にのぼりつめた一方、国内では一党独裁が続き、国民には自由がなく、言論弾圧、民族弾圧など深刻な人権問題を抱えるいびつな超大国である。軍事大国でもある。

その中国を最も警戒しているのがアメリカだ。冷戦終結以降、アメリカは世界一の超大国として君臨していたが、近年その影響力は落ち目であり、FacebookなどITグローバル企業は押され始め、国内には建国当初に由来する人種差別や経済格差など根深い矛盾を抱えている。軍事大国でもある。

以上のようないきさつから、アメリカと中国は、ITを舞台として、急速に対立を深めている。ここに5Gという通信インフラの変わり目が重なったことで、アメリカ一強だった世界の構図は変動しようとしている。いま世界史が動く、その台風の目が中国の巨大通信インフラ会社・ファーウェイ問題なのである。

アメリカ側の主張

アメリカは、ファーウェイが自社製の基地局やスマホに「バックドア」を仕組んでおり、アメリカ政府が通信網を経由してやりとりする機密情報やアメリカ人がスマホから送受信しているデータを抜き出せるようにしているのではないか、と警戒している。

その根拠としているのは、中国が習近平国家主席のもと2017年に制定した「国家情報法」である。この法律により、もし中国政府が同社に情報提供を求めたら同社は応じざるを得ないので、アメリカの機密情報が中国政府に流れるというのである。

「中国政府との癒着疑惑」というアメリカの主張は、ファーウェイ問題に限らずパターン化している。2020年には、米トランプ政権は中国系企業による世界的動画投稿アプリ「TikTok」とSNSアプリ「WeChat」に対して禁止措置をとった。この時も同じく、アプリを通してアメリカの情報が中国政府の手に渡る危険性があり安全保障上問題だというのが規制の理由だった。

ファーウェイ側の反論

アメリカのこうした主張に対し、ファーウェイは全面的に否定している。自社ホームページでは、

最近、中国の国家情報法について、さまざまな議論が行われています。一部の政治家は、中国の法律によって、政府に代わって企業が情報収集を強制することを政府が許可していると主張しています。

これは断じて真実ではありません。

と反論している。

以前の記事で解説した通り、TikTok規制においても、これとまったく同じ主張と反論の応酬があった。TikTokを運営するByteDance社は、「アメリカは証拠や事実を示していない」と米トランプ政権を批判している。

アメリカが発した「鶴の一声」

アメリカ・トランプ政権は、同盟国に中国の5Gインフラを排除するよう迫った。アメリカの軍事機密等が同盟国の中国製通信インフラからもれるというのである。

それまで、ファーウェイ製の5G基地局はヨーロッパで広く採用されていた。しかしアメリカの求めがあって以来、潮流は変化した。イギリスは2020年7月に排除方針へ転換、ドイツは同9月末に同社製品を大幅制限して事実上の排除、ベルギーでは通信最大手プロキシマスが5G基地局にノキアとエリクソンを採用すると発表した。

日本はどうしたのか?

では、米中対立が世界の新たな問題として浮上する中、日本はどのような立場をとっているのだろうか。

結論を言ってしまえば、日本は最初からアメリカに追従し、ファーウェイを排除している。2020年には5Gの本格運用が始まったが、日本の携帯大手3社、すなわちNTTドコモ・au・ソフトバンクは、いずれもファーウェイ製基地局を採用していない。

論評・提言

以上が、ファーウェイの5Gやスマホをめぐる問題の経緯である。影響力を増す中国企業と、それに危機感を募らせる現世界一の超大国・アメリカ、そして日本のアメリカに従う姿勢を確認してきた。

以下では、一連の問題にファクトチェックを入れつつ筆者による解説と論評を綴り、日本および世界に提言をしたいと思う。

アメリカの主張の真偽は?

アメリカが中国系IT企業に対する疑惑の根拠としているのが国家情報法の7条であることは先に述べた。

同法7条は、「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」と定めて、中国のあらゆる組織や個人に情報活動への協力を義務付けている。しかも、同法は外国でも適用されると定められている。

したがって、アメリカの「中国政府が基地局やスマホにバックドアを仕掛けたり送受信されるデータを抜き出して政府に提供するよう求めた場合、ファーウェイは応じざるを得ない」という主張は事実だといえる。7条ばかりが単独でピックアップされているきらいはあるが、法律による義務付けである。どうせそんなことは起こらない、と楽観視はできない。

ただ一方、アメリカは中国系IT企業に対する一連の疑惑において、一度たりとも証拠を示したことはない。感情論、陰謀論、そして経済力で中国に差を縮められた危機感が先行しているのもまた事実なのである。証拠を示せていない以上、ファーウェイ等から「アメリカの言っていることは空想にすぎない」と言われても反論はできない。

筆者は、アメリカが証拠を示すことなく力押しで疑惑を連呼していることに驚いている。なぜなら、誰かに疑いをかける以上は証拠を示さなければならないこと、証拠を集める義務を負うのは疑いをかける側であることは、近代法治国家の基本的な原則だからだ。

卑近な例になるが、もし読者がAさんという人から「あなたはツチノコに遭ったことがありますね」と言われたとする。あなたは反論できるだろうか。「ありませんよ」と言っても、Aさんは「いや、あるでしょう」と返してくる。「どこで遭ったというんですか」と声を荒げたところで、Aさんは「昔ツチノコが出る○○へ行ったでしょう。行ってないというなら、行ってない証拠を見せてくださいよ」とすごんでくるだろう。このように、Aさんが「かもしれないじゃないですか」という姿勢でたたみかけてきたら、あなたに打つ手はあるだろうか。

そんなバカなと思うだろうが、「自分はツチノコに遭ったことがない」と自分で証明するのは、事実上不可能なのである。なので、「あなたはツチノコに遭った」と疑いをかける以上は、Aさんの側が証拠写真などを示すのが筋である。ここでもし証拠がないなら、あるいは「なんだ、合成写真じゃないか」となったなら、うそをついて読者を散々振り回し、おかしな場所に出かけたなどと言ってあなたの名誉を傷つけたのはAさんのほうである。

アメリカが中国系IT企業にやっていることは、他人にツチノコ遭遇疑惑をかけるAさんと同じである。「データを抜き出すかもしれない」「中国政府と癒着してスパイ活動をしているかもしれない」と主張する以上、「ファーウェイのスマホを分解・解析したところ、このようなスパイウェアが検出されました」「基地局から不自然なデータの流れを発見しました」などと証拠を示さなければならないのはアメリカの側である。

疑いをかけられた側が「ある行為をした事実はない」と証明するのは事実上不可能であるゆえ、合理性に基づく近代国家においては、疑いをかける側が証明の義務を負っている。これは近代国家の基本的な原則である。(詳細に関心のある読者には、民事訴訟法の「不貞の抗弁」など手続法の学習をすすめたい。上記ツチノコの例はそうした理論から制作したものである。)

アメリカは、「自分たちは自由で民主的な国だ」との自負をくり返し公言している。世界からもそのように認識されてきた。

しかし先入観をきれいに取り払い、真っ白な頭で事実にフォーカスしたならば、まったく違う現実が見えてくる。アメリカは、こんな前近代的、非民主的、そして低レベルな誹謗中傷をくり返している。「言ってることとやってることが違う」のである。

中国企業の主張の真偽は?

ファーウェイは自社ホームページで一連の疑惑を否定し、

当社の独立性、当社製品のセキュリティ、または顧客ネットワークを危険にさらすような立場に置かれた場合は、当社の掲げる原則に違反するくらいであるならば、会社を閉鎖することを選びます。世界中のお客様や政府が望むのであれば、「スパイ行為なし」および「バックドアなし」の条項を含む契約に喜んで署名させていただきます。

と表明している。

すべてビジネスパーソンにとって、「誹謗中傷」による「営業妨害」は断じて許せない被害である。普通の商店や会社だったら、警察に相談するのは当然である。実際、ネットに誹謗中傷を書き込んだ者などは、次々と業務妨害罪で逮捕されている。ファーウェイが熱い筆を走らせるにとどまっているのは、背景に国家間のパワーバランスがあるからにすぎない。

しかし、中国が一党独裁の自由がない国であるのもまた事実である。人権問題は深刻で、国際社会から批判されて久しくなる。チベット等の地域では民族弾圧が行われ、表現の自由はなく、プライバシーもなく、人権派弁護士が自宅軟禁に追い込まれたり、政権を批判した人が謎の失踪や急死をとげることも少なくない。

そこにもってきて、ファーウェイは中国の国策「一帯一路」にとって必要不可欠な存在となっている。「一帯一路」とは、中国からヨーロッパまでの地域をシルクロードのように結んで各所にデジタル社会を整備していき、さらに「シルクロード」上へデジタル製品を売り込むという構想だ。これら2ステップのうち、ユーラシア大陸やアフリカに5G環境やスマートシティを建設する段階を担当するのは、巨大な通信インフラ会社・ファーウェイなのである。

(moovstock©123RF.com)

こうした立場と影響力の大きさから、同社は単なる私企業を超えた、中国政府や外交に深く関わらざるを得ない存在となっている。

ビジネスパーソンの思考では、国際取引の話が持ち上がった際には、相手企業の国に関してマーケットだけではなく文化や政治などまで調べ上げて考慮する。相手国の事情によっては商売ができなかったり、見込みがなかったりするからだ。ファーウェイが上記のような特殊な背景をもつ以上、普通の会社と同じに見られはしないということは、同社側もビジネスパーソンとして理解できるはずだ。

日本への提言:国際社会で独立した立場を確保せよ

世界の勢力図は、絶えず移り変わってきた。世界史を学べば分かるが、永遠に続く秩序や沈まぬ強国などひとつもない。

では、我々が生きているいまはどういう時代なのだろうか? 対象化して考えてみよう。

米ソで世界を二分した冷戦の終結以降、時代はアメリカ一強だった。

その国際社会秩序がいま、5Gをめぐって変化しようとしている。世界史が動こうとしているのである。

日本は、変わりゆく世界においてどのような立場につけるのかを考えなければならない。諸外国との付き合いを主体的に考え、動くべき時である。なんとなく今までのままでいるとか、時流に流され特に何もしないという選択をすれば、大国にずるずると引きずられ、見知らぬ場所にたどり着きかねない。

一強として君臨してきたアメリカと、ぐんぐん差を縮める中国。これら二か国は、どちらもそれぞれ難しい内政問題を抱えた国である。これからの世界では「危うい国」同士が勢力争いをするのだ、ということを重く認識する必要がある。

中国が自由のない、人権問題を多数抱えた国であることは公知の通りである。しかも現状において改革や民主化運動が進んでいるなどの動きはないため、短期的には改善は見込めない。

他方のアメリカは、世界において自由と民主主義を重んじる国だと認識されてきた。ただそれは、アメリカ側の自称によるところが大きい。事実はどうなのかと調べていけば、自由と民主主義からはかけ離れた側面を多数有しているのがありのままのアメリカの実情である。落ち目になったこの期に及んで爆発させたのが、迫りくる新興国企業への「前近代的」で「非民主的」な「誹謗中傷」だったことは先に指摘した。アメリカという国に関しては、建国当初に由来する人種差別や国内の経済格差、独特な政治的風土や思想など、外交相手国としては学んでおかなければならない事項が多い。

では、日本はどのような方向に舵を切っていくべきだろうか。

まず、「とりあえず敵にだけはしない」は外交の基本である。相手国が言っていることに説得力がなく人権問題を多数抱えた「あぶない国」だったとしても――中国やアメリカであっても――とりあえずは、である。

そして同時に、「追従しない」も基本である。他国の――アメリカの――付属物となりしがみつくようでは、そもそも「外交」になっていない。

日本がとるべき道は、世界各国との協力関係構築だと考える。アメリカに追従してアメリカの国際問題に巻き込まれることにならないよう、ヨーロッパ諸国や地理的に近いアジア諸国、新興諸国と手広く結びつき、独立した立場を確立していくべきだろう。

中国とアメリカ、21世紀前半の世界を占う両国はそれぞれ危うい国だが、くるりと背を向けて付き合わないということはできない。問題があるからといってその国がなくなってくれるわけでもない。相手国の難しさを理解した上で、なんとかかんとか付き合っていかなければならないのである。日本はしっかり地に足をつけ、将来を考える時である。

情報リテラシーを心に留めて

私が日本の一般市民に向けて言いたいのは、ファーウェイ等の問題では、情報に接したときには必ず一回立ち止まり、事実かどうかを一歩引いて判断すべきであるということである。

アメリカの見方や発言は、日本を含め世界に絶大な影響力を有している。そのため、日本でもしばしば、アメリカの主張する陰謀説がそのまま「事実」として報じられていることを私は指摘したいのである。最近では、執筆者に悪意があったかどうかは別として、「自由主義国の陣営は……」などと次に述べるアメリカのテンプレートにそのままのっかった報道や評論を見かけるようになった。私はこのことに注意を喚起したい。

言葉は言葉通りに受け取るのではなく、現実社会はどう動いているのか、その「実体的意味」に目を向けなければならない。そうでなければ、知らず知らずのうちに、アメリカ発信の情報で頭が染まった「アメリカの末端」のような哀れな人になりかねないからである。

今後、日本社会を立ち行かせてゆくには、草の根から一人ひとりが、自分の頭で考えられる、自立した大人になることである。

世界への提言:「IT帝国主義」から引き返せ

ネット関連の世界は、ここ数年であっという間に景色が変わった。私はIT業界に携わってきて、如実にそう感じる。がらりと様相を変えたIT風景のなかで、私には一点、危惧していることがある。

それは、中国企業の台頭という新たな局面で、欧米が「帝国主義」を蒸し返していることである。私はこの風潮を「IT帝国主義」と呼ぶことにする。

勘違いはしないでほしい。私は断じて欧米が今日でも非西洋に対して人種差別的だと言っているのではない。欧米諸国はこの100年余りで、過去に世界を人道危機に陥れた植民地主義・帝国主義、そして人種差別を自ら否定してきた。この動きは一般的な日本人が想像しているよりもはるかに進んでいて、人々の心や社会に浸透している。日本では1920年代に「欧米は非西洋を人種差別している」という意識が国民に広まり、今日でもかなり定着してしまっている感がある。しかし実際には、今の欧米人は現代人である。ためしに日本社会を見返せば、大正時代と今では何もかもが違うではないか。欧米だってそうなのである。100年前とは全然違う。1920年代に染みついたイメージを引きずったなら、かえって世界から遅れをとったり、世界情勢を見誤る結果となる。

一例だが、オペラの有名な演目『蝶々夫人』を観たことはあるだろうか。日本(?)を舞台とした同作には、日本文化を軽んじるシーンが含まれている。また全体を通して西洋人は親切で心あたたかく、西洋化せずに生きる日本人は冷酷な性格に描かれている。今日の観点では問題があるといえるだろう。ではこの点を今の西洋人はどう考えているのか、といえば、「『蝶々夫人』は植民地主義的・人種差別的だ」として批判があり、問題のシーンはカットすべきだとか、(現代の舞台芸術として)上演すべきでないといった意見がある。ところが当の日本人は、なぜか問題視することなく、せっかく西洋人がこんなに肩を持ってくれているのに反応もせず、高級な芸術として上演している始末である。

しかしなお、影響力を増す中国IT企業を前に欧米で浮かび上がってきたのは、植民地主義・帝国主義的な発想法だった。私は、欧米の植民地主義・帝国主義的な発想はこんなにも根深かったのだと、失望および大変危惧しているのである。

「19世紀的」な「分断の構図」を排すべし

私が帝国主義的だと言っているのは、中国への批判や疑惑で欧米がしばしば口にしている「我々は自由で民主的な国だが、中国はそうではなく人権を無視している」という表現である。これはアメリカの極右・トランプ政権に限ったことではない。一例だが、フランスのマクロン大統領も中国への危機感を語る際に同様の表現を使っている。

「歴史をくり返す」とは、過去の出来事とまったく同じことをするという意味ではない。本質的に同じパターンを別の形で行うことを指す。

歴史上、ユダヤ=キリスト教文化の選民意識や内輪意識に基づく二項対立の発想は、何百年もの間、欧米列強の侵略と植民地政策を正当化する暴力装置としてはたらいてきた。世界に人道危機を招いた思考パターンである。

掲げられる「スローガン」は、時代とともに変遷してきた。ガレオン船で海に出て「新大陸」に十字架を突き刺し、現地の「野蛮人」を「教化」した暗黒の歴史は周知の通りである。それが近代に入ると、「自由と民主主義」もまた、侵略を正当化するスローガンとして利用された。つまり、「我々は自由で民主的だが、彼らはそうではない」「まだ独裁的な国々に自由と民主主義を教え広める」と称して、アフリカやアジア、太平洋地域を植民地化していったのである。帝国主義が猛威を振るった19世紀のことである。

掲げるスローガンが何であれ、「分断の構図」を描くこと自体が問題なのである。世界を「正義と悪」「仲間と敵」「『文明国』と『未開』」そして「民主主義と独裁」へ二分してしまったら、あとは泥沼である。混乱が混乱を、憎悪が憎悪を、紛争が紛争をよび、収拾がつかなくなる。

参照:人類の過ちのもと、「聖戦の論理」(「アスペルガー症候群の有名人が特徴的な話し方の国連スピーチで残したもの」より)

ひるがえって、中国系IT企業への批判である。「我々は自由で民主的な国だが、中国はそうではなく人権を無視している」というお決まりの文言だが、これでは19世紀の帝国主義と寸分変わらないではないか! 欧米が、世界を二分する「パターン」を、21世紀に、今度はITを舞台として、中国相手にくり返している。私はIT業界の動向を見てきて、このことに強い憤りを覚えている。

IT分野における中国企業の台頭という局面をむかえ、私は西洋文明の抱える根源的問題を見た。反人種差別はもはや定着している現代西洋の内奥に残る人種差別意識の根深さを見た。

歴史をくり返してはならない。ITを戦場に変え、世界を19世紀に戻してはならない。欧米は、歴史に学んで帝国主義の思考パターンを排し、新しい道を選ぶべきである。

「IT帝国主義」は、走り出してまだ間もない。欧米は、迷い込んだこの道から今すぐ引き返すべきである。今ならまだ間に合う。

大日本帝国を生んだ背景とその反省

私が「IT帝国主義」を危惧する理由はもう一つある。私は、欧米の対中姿勢に、他でもない我が国が道を誤りファシズムへ転落した、その時代と重なるものを見出しているのである。

日本がなぜ恐怖の国家主義・軍国主義に陥ってあのような失敗をしたのかは日本人にとって永遠のテーマだと思うが、その原因というか、背景のひとつには、日本の主張が通らなかった第一次世界大戦講和条約やアメリカの反日移民法がある。明治以降の日本は、身分的な人間価値のランク付けや経済格差など、国内に深い矛盾を抱えていた。国内には不満が煮えたぎり、外に出れば猛威を振るう欧米列強帝国主義のただなかに立たされた、難しい国だった。そこに1920年代の欧米の姿勢によって「国際社会で日本は人種差別されている」という意識が国民に深く浸透し(実際には当時帝国主義は後ろめたいものになりつつあったのだが)、1930年代の国際連盟脱退を熱望する世論や国民の反米感情、ナショナリズムの一因となったのである。日本のファシズムが自国の自滅のみならず、近隣諸国を巻き添えにアジア太平洋地域を血の海に変えたのは、誰もが知るところである。

話を現代に戻すと、中国IT企業に対する欧米の姿勢は、はっきり言って人種差別的である。アメリカは「ファーウェイがアメリカの国家機密を中国政府に提供する可能性がある」というが、「可能性がある」などと言い出したらきりがない。どうとだって言えてしまう。証拠なしに「かもしれない」と言っていいならば、フィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソンだって自社製基地局からデータを抜き出し溜め込んでいる「かもしれない」ではないか。そういう疑惑が一つもうわさされないのはなぜなのか。私はいやなものを感じている。

非西洋の新興国・中国が、西洋の古い発想パターンで人種差別的な発言を重ねる欧米と対立を深め、大日本帝国と同じ道をたどりはしないか。私の懸念はそこにある。もっとも中国の国内問題は戦前日本とは異なるし、この国がナショナリズムと感情論で動くとはみられないが、「歴史をくり返す」とは本質的に同じパターンを別の形でくり返すことを指すのは前述の通りである。私は欧米の「IT帝国主義」に、1920年代と同じ「構図」を見ている。

アメリカは、中国の人権状況を問題視する。しかし、帝国主義的な優越感、「悪役」を作り出す思考、世界を二分する枠組みの正当化に「自由」「民主主義」「人権」を持ち出すなら、かえってそれらの価値を貶めることになる。くだけて言うなら、批判される側からすれば「自由だの民主主義だの人権だのってのは、欧米がつけてくる言いがかりじゃないか」ということになるのである。実際、「IT帝国主義者」が自称するほど欧米諸国は民主的でなく、しかも中国批判には生臭い背景事情があるのだから、「民主主義はただのスローガン」説のほうが説得力を持ちかねない。そうなってしまったら最後、あとは泥沼である。大日本帝国のナショナリズムと、それが今日まで残した傷を知っているからよく分かる。身にしみる。

そして大事な指摘になるが、IT帝国主義によって、チベットの人々は少しも救われない。人権派弁護士が解放されるわけでもない。もし本当に人権を侵害され苦しんでいる中国の人々を救う気があるのなら、「ヒーローごっこ」では未熟にすぎる。

中国が大日本帝国の二の轍を踏むようなことになってはならない。世界は第一次世界大戦後の失敗の歴史に学び、そのリスクを排除すべきである。さらに、自由と民主主義について、板につくまで学ぶべきである。その意味内容をすり替えたり、自国経済など別の目的のために利用してその価値を貶めるような言動をしてはならない。もう一点追加するなら、欧米は一方的な”上から目線”で中国の人権問題を批判する前に、自国の人権問題をしかと見つめ、取り組むべきである。

具体的な提言になるが、中国の人権問題を批判する際、「我々(と同盟国)は自由で民主的な国だが」というくだりは不要である。対立と憎悪をあおりマイナスにはなるが、プラスにはならない。削除すべきである。今後も二度と使うべきでない。

世界は「IT帝国主義」から今すぐ引き返すべきである。その道は、惨禍につながる。過去には失敗したが、今度こそは新しい道を選ばなければならない。

結びに―世界史が動くいまに向き合って

思い返すと中学生のころ、私は英語の読解問題で「第三次世界大戦があるとすれば、それはアメリカ対中国の、軍事衝突ではなく貿易戦争になる」という話を読んだ。その時私はまるで現実味を感じられなかった。1988年生まれの私の目には、アメリカは絶対的な世界のトップだった。超大国に成長する中国の姿も想像できなかった。

そして2020年、あの予測は本当になった。しかも私の携わってきたIT分野が世界史が動く舞台となったことに、私はなんともいえない驚きを感じている。

私は外交の専門家ではないが、本稿では民主主義とIT、世界史の観点から取り扱うことにした。というのは、満身創痍で持続が危ぶまれる日本社会をこれからいかに改善していくか、それを論ずるとき、グローバルな視点と感覚はどうしても必要になってくるからである。

読者には、「自分の国が大国同士の紛争に巻き込まれたり、あっちへこっちへ振り回されたり、アメリカにぶらさがっているうちにわけのわからぬ状況に追い込まれたのに、自分だけは人生うまくいって幸せ」ということは起こり得ないのだと強調したい。今の若い世代は、これから先を生きていくには国をなんとか立ち行かせなければならず、国を立ち行かせるには、世界においてまっとうな立ち位置を確保することは必須条件である。

自国の外国付き合いは、生きていくための「インフラ」整備である。

ITを舞台に、いま世界史が動こうとしている。変わりゆく世界の構図において、私たちの国は何とかやっていかなければならない。その台風の目であるファーウェイ問題の動向は、これからも追いかけていこうと思う。

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