昼寝は時間の無駄ではない!―体を壊して分かったその効果

昨年、体調を崩しました。その時に新しく学んだことが、昼間から寝ることでした。

いま、昼寝をとることが勉強・ビジネス、スポーツなどで注目されています。私は研究結果や体験談を聞くたび、わかる、わかると思わずうなずいています。また、「頭をスッキリさせる」メソッドとしては、以前取り上げたマインドフルネス瞑想より万人向けではないかとも考えています。

今回は、科学的に証明された昼寝の効果と適切な時間、筆者がどんな風に取り入れているかを紹介しようと思います。勉強・仕事や健康管理にぜひ活用してください。

なぜ昼間から寝ることが注目されているのか

一般に、勉強や仕事をしている昼間から寝るといったら印象がすばらしいとはいえません。

  • 時間の無駄だ。
  • 眠気で頭がぼんやりしそう……。
  • そもそも、そんな昼間に眠れるのか?

こんなふうに疑問や疑念がわくばかりではないでしょうか。「そうか、なら今日からやってみよう!」と乗り気になる人はあまりいないでしょう。

しかし、注目されているのにはきちんと理由があります。私が昨年体調を崩してダウンしたこととも、深く関係しています。

脳を酷使している現代人

現代人は、ごく当たり前の生活をしているだけでも、過剰な疲労をためこんでいます。たとえ「疲れた」と自覚がなくても、です。

中でも特に負担のかかっている臓器が、脳です。生物にとって、脳は文字通りのブレーン。目、耳、鼻、舌、皮膚から送られてくる外部からの情報を、絶え間なく処理しています。

問題は、現代の情報社会で、人が取り込む情報量が極端な域に達していることです。マスコミから流れてくるニュースや、ネットの話題、SNS。最近では、一日中情報を見ることによる若い人の「スマホ認知症」も話題になりました。

また情報の量だけではなく、処理している内容も高度です。中高校生が勉強している、文章の読解、数式、歴史、化学式、等々……どれも「むずかしい」ですよね。大学生になって専門的な知識をさばくようになったり、専門職の最前線で働いたりすれば、高度な思考を長時間する日々が延々と続きます。

知らず知らずのうちに、私たちの脳はオーバーヒートの危機にさらされているのです。

オフィスで頭痛を抱えているビジネスマン

人間も生物で、脳とて臓器です。食べ過ぎれば胃もたれになり、アルコールを飲みすぎれば肝臓が病気になるのと同じように、脳も酷使すれば健康を害し、機能不全に陥ってしまうのです。

常時「猛獣が出た」モードが生むストレス

現代人はまた、ストレスも深刻です。

原始時代、人類がストレスを感じるのは猛獣に出くわした時だけでした。この瞬間、逃げるか、隠れるか、戦うかの判断をするのみ。ストレスは、猛獣が去るとともにすぐ消えていたのです。

ところが現代人はどうでしょう。受験生・学生やビジネスパーソンは、常時「猛獣が出た」モードで戦い通しです。人間関係や学校・職場、将来の不安など、悩みを抱えることも少なくありません。ごく普通に生活しているだけで、あり得ないほどのストレスをため込んでいるのです。

自分のスイッチを切る必要性

このように、現代人の脳には無理がかかっています。

今思えば、私もその一人でした。詳しいいきさつなどは別の機会にしようと思いますが、去年の私はフル稼働していました。強いストレスに押しつぶされた状態で、足を止めることのない毎日。飛び回っている間はとにもかくにも無我夢中で、そんなに「疲れている」とは感じていませんでした。が、生身の臓器に限界がきて、ダウンする瞬間は突然やってきたのでした。幸い大事には至らないで済んだのですが、その日から私の生活は変わりました。それまでの生活パターンは崩壊。もう、フル稼働はしようがない。体が動かないのだから。体調を崩すとは、そういうことです。

こんなことにならないためには、現代人は意図的に自分のスイッチを切り、脳を休ませる必要性があるのです。脳への情報伝達をなくし、情報処理をストップさせなければなりません。

ブルーで描かれた脳が眠っている

「脳の休憩」が生み出す効果

では、一体どうすれば脳を休ませることができるのでしょうか?

その効果的な方法として挙がっているのが、「昼寝」なのです。

生物学的・医学的に、「睡眠」という活動は脳を休ませるための活動であり、脳の疲労回復がその主な機能だからです。

具体的な6つの効用

効果として研究で確認されているのは、だいたい次の6つです。

  1. ストレス解消・リフレッシュ
  2. 集中力アップ
  3. 記憶力アップ
  4. パフォーマンスの向上、ミス防止
  5. 自己評価の向上
  6. 心臓疾患や認知症の予防

勉強や仕事を中断し、寝ている間はストレス源を完全にシャットアウトできるため、起きた時には気分爽快。リフレッシュできます。

また、人間は、疲れてくればミスが増えます。騒いだり、考え事をしながらいつの間にか終わる休み時間ではなく、完全に自分のスイッチを切ることは、ミスの防止にも役立つのです。

さらに、眠気が強い中で仕事をした人は、昼寝をした人に比べて自己評価が低いという実験結果も出ています。眠気が強まると、達成感が脅かされるなど、心理的負担が生じるのだとか。勉強や仕事で成功するには、ポジティブなマインドは非常に大事です。マインド面にも良いのです。

医学的メカニズム

以上、睡眠をとることの具体的な効果をみてきました。次には、体内のどういうメカニズムでそうなるのか、理論的な面も紹介しておこうと思います。

ストレスによる記憶力・学習能力の低下を解消

ストレスは脳、とりわけ脳内で記憶に深く関わる「海馬」という部分に悪影響を与えます。ラットを使った実験では、ストレスをかけられたラットは海馬の働きが阻害され、学習能力が低下することが示されています。

また、脳のストレス応答が長時間続けば、高血圧や糖尿病、免疫機能の低下、自律神経障害やうつ病、摂食障害など、様々な病気や不調の引き金にもなります。

裏を返せば、昼寝によってストレスのかかった状態をリセットし、リフレッシュすれば、記憶力や学習能力の低下を防ぐことができるといえます。

近年の研究では、睡眠が記憶・学習に深く関与していることが解明されています。多くの研究が進められており、今後また新しい事実が明らかになるかもしれません。

交感神経・副交感神経のバランスを回復

「自律神経の乱れで……」などと、健康情報ではおなじみの自律神経。これはそもそも何なのか、というと、体内のコントロールを担っています。例えば、私たちが「動かそう」と意識しなくても内臓が動いているのは、自律神経のはたらきによるのです。

この自律神経は、交感神経と副交感神経によって、二重拮抗支配を受けています。

「二重」とは、交感神経・副交感神経の二つが支配していることを指しています。このうち、交感神経は恐怖や怒りなどを感じた時に優位になり、心拍数や血圧を上げて全身を闘争準備状態に導きます。一方の副交感神経は、ストレスからの解放後に優位になり、全身をリラックスさせます。

交感神経と副交感神経の機能を説明したイラスト

また「二重拮抗支配」の「拮抗」とは、片方が促進すればもう片方は抑制される関係を指しています。例えば、心拍数と血圧が上がったままでは心臓が破綻してしまいますよね? そこで、交感神経が活性化して心拍数と血圧が上がった後には、副交感神経がそれを静めるのです。

緊張状態とリラックス、どちらかに振れたら、バランスの取れた状態に戻すようにできています。このように、外の環境が変わっても体内環境を一定に保つはたらきのことを、ホメオスタシス(恒常性)といいます。自律神経の主な機能はホメオスタシスにあります。

が、現代人の生活は常に「猛獣が出た」モード。交感神経が促進している状態が長時間続いています。このままでは健康被害が出る、危険な状態にあるのです。

そこで適切な昼寝をとれば、副交感神経系を活性化し、体の恒常性を取り戻すことができるのです。

ノンレム睡眠の作用

ヒトの眠りの深さには交互に入れ替わるリズムがあります。レム睡眠とノンレム睡眠です。言葉自体はどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか? このうち、ノンレム睡眠は、脳の疲労回復に大きな役割を果たすと考えられています。

ノンレム睡眠と聞くと、「それは深い眠りのことじゃなかったっけ?」と思われるかもしれません。実は、ノンレム睡眠は、脳波を指標としてステージ1~4の4段階に分けられます。つまり、爆睡というほどではない浅めの段階もあるのです。

ヒトが入眠すると、まず入るのはノンレム睡眠です。特にステージ2には、脳の疲労回復に大きな効果があります。それを積極的に利用することで、脳の疲れを解消しようというのです。

いつ、どのくらいするといいの?

時間帯の目安は、多くの見解で12時~15時頃が望ましいとされています。ただしこれは一般論。時計の針がどこを指しているかに関わらず、自分がしようと思った時にできるのが理想です。

長さは、多くの研究で10~20分程度が良いとされています。効果は時間によって変わってくるのですが、わずか10分間の昼寝でも疲労回復に役立つことが科学的に証明されています。

最も理想的だと言われているのが、20分間の「パワーナップ」です。使いすぎた脳には、動作が重くなったパソコンのごとく、疲労など余計なものがたまっています。その「キャッシュメモリ」が、入眠20分ほどで訪れるノンレム睡眠のステージ2でクリアされるという研究結果が出ています。

時間で確実に起きる方法

とはいえ、「20分きっかりで起きるなんてできるのか……?」と疑問になるのではないでしょうか。

最近では多くの外資系企業が取り入れているという”nap”。もちろんその点でも、きちんと起きる方法が編み出されています。

一つには、昼寝をする前にコーヒーや緑茶などカフェインの入ったものを飲むという方法があります。カフェインの覚醒作用は20分ほどで効いてくるので、ちょうどいい時に目覚めやすくなるということです。

アラームをかけておくよう勧める人もいるようです。

筆者が個人的におすすめするのは、アラームの代わりにリラクゼーション音楽を活用することです。10分くらいの曲をかける、あるいは合計20分になるよう再生リストを設定しておき、それを流してから寝るのです。そうすれば、音楽が止まったら起きればいいということになるので、寝過ごす心配から途中で時計をのぞいたり、耳に痛いアラーム音で目覚めることにならなくて済みます。先程書いた通り、パワーナップでは夜のようにぐっすり深く眠るわけではありません。音楽が止まれば気づきます。「寝過ごしてはいけない」と肩ひじ張らず、やわらかく目安になってくれるので、個人的には最も目覚めに良いと考えています。

と、このように起きる方法には様々なアイディアがありますが、それ以前に、ヒトの体はうまくできています。20分くらいでちょうど気分がリフレッシュし、起き上がろうという気になるのです。これについては私の実体験とともに後述します。

私の昼寝術と実感

以上、ここまでは、世間に出回っている情報のまとめでした。

では、ここからは筆者がそれをどのように取り入れ、どんなふうに感じているのかを紹介しようと思います。漠然とした情報ではなく、具体例だからこそ参考になる部分もあるのではないでしょうか。

バタッとあおむけでOFF

私の昼寝はシンプル・イズ・ベストです。ただバタッと床にあおむけで倒れ込むだけ。まくらやクッション、ハンモックなど特別なグッズを買ったりはしていません。時間帯や長さも決めていません。

シンプルだからこそ、「私は今休んでいる」と感じられていいと思っています。私は常時ものを探したり考えたりしている性質なのですが、床にバタッと倒れた体勢だと、あれこれ考えようという気が起きないんですよ。休むのも形から入る、と言ったら語弊があるかもしれませんが、床に倒れているのはどう考えたってオフじゃないですか。

特別な場所やグッズを用意しないのにも理由があります。もしわざわざ寝る環境を作って整えれば、「さぁ、昼寝をするぞ!」と気合いが入ってしまうだろうな、と思うからです。私の場合性格的にそうなりやすいので、「休む」ということを分かりやすくするため、グッズも何もなくバタッと倒れるだけに徹しています。

「眠らねば」とは思わない

「そんな真っ昼間に眠れるのか?」と疑問になるのはもっともです。

その点でも、私は「眠りに落ちなければならない」とは考えていません。バタッと倒れて思考は切りますが、それ以上に決まりはなし。もしその時の私の脳波を医療機器で計測すればノンレム睡眠のステージ1や2かもしれないし、そうでない時もあるかもしれませんが、特に気にしていません。気持ち良ければそれでよしです。

私は体調を崩し、クリニックにかかってしばらく経ってから、自然発生的に活動時間の昼間でも横になることを覚えました。お医者さんに「休憩をとるようにしました」と話したら、「とても大事なことだと思います」とおっしゃっていました。

昼寝をするのは、脳を休ませるため。なので、「こうしなければならない」と厳しく取り決めるようなことではないと思います。

時間を測るのは体内時計

目標目指して真剣な学生・受験生やビジネスパーソンの皆さんにとって、所定の時間でちゃんと起きられるのかは、やはり心配なところだと思います。

ですが、私の場合はタイマーで時間を測ることはしません。先程音楽を流すことをおすすめしましたが、実はそれもしないことが多いです。バタッとあおむけになったら、自分が「そろそろいいな」と感じるまでそのままでいるだけです。

「そんなんで大丈夫なのか……」と思われたならもっともですが、実はそれでうまくいっているのです。しばらく倒れたままでいると、うーーーんと伸びをしたくなる時がやってくるんですよ。その時には頭も体もスッキリしていて、時計を見るとちょうど10分、20分か30分が経っていた、となるのです。自分でも不思議ですけど、人間にはすごい体内時計が内蔵されているものだなぁと思います。そのちょうどよさを言語化したのが上でまとめた研究結果、ともいえるのではないでしょうか。

受験勉強の時はどうしていたのか?

私はすでに学校を卒業した大人ですが、受験生の読者は体内時計に頼ろうとはなかなか思えないでしょう。私が受験生だった時なら、「万が一にでも寝過ごしたら大変なんですけど?」と白い目を向けた気がします。

これについて、まず、学生さんの場合は学校には時間割がありますし、自宅での勉強でも必ずいくつかの科目を順々になりますよね?

大人になると、時間割や休み時間はありません。自分で決めなければどんどん突き進むのみなので、ずっと働き通しになりがちです。

今思うと、受験生だった頃の私は、トイレ休憩で席を立ったり、テスト形式でタイムを測って問題集を解いたり、科目をチェンジしたりしたので、それが知らず知らずのうちに脳を休ませる役割を果たしていたのだと思います。実際、「ちょっと席を立って体を動かす程度で眠気が飛ぶことがあるのは、脳の休憩ができたから」だという情報もあります。

それから、当時の私は、教室ではよく机に突っ伏して休み時間を過ごしていました。自然と昼寝に近いことをしていたといえるでしょう。

そしてもう一つ、これも意図せずなのですが、私は受験生だった頃、お気に入りの映画のサウンドトラックが何枚かあって、勉強の時によくかけていました。映画音楽ですから、長さは約1時間弱。音楽的にも、始まりがあって、だんだん盛り上がっていき、クライマックスに達して、エンディングという流れがあります。音楽が止まれば、「あぁ、もうそんなに経ったか」と気付きます。席を立って「次はどれにしようかなー」などと考えるのが、勉強の小休止になっていたのだと思います。

今になって振り返れば、受験勉強は大変なものです。国語、数学、英語、あるいは歴史や化学であれ、内容は受験生の皆さんが思っている以上に高度だと、大学を出た今では確信しています。それを来る日も来る日も、脳フル回転でさばき続けている。それでも私が体を壊さなかったのは、適度な休憩をとれていたからだったのかもしれません。

気の向くままに体をゆすって起きる

さて、寝転がったままうーんと伸びをしたら、私はその時々、思うままに体を動かして起き上がります。ある時は、左右にゴロゴロ転がって。こうするとちょうどいい具合に背中がマッサージされて気持ちいいですね。またある時は、ひざを立ててから右に倒して体をひねり、反対側もやってから。あるいは寝転がったまま足のストレッチをする時もあります。

ここでも、ストレッチに定型は設けていません。「これをやるぞ」ではなく、あくまで「気持ちいい~」と感じられることを、思うまま、気の向くままにやってみる。そうしていると、「ヨガは古代の人がこんなことをしながら自然発生したのかもしれない」なんて思ったりします。

結びに―夢をつかみたいならば

以上、昼寝の効果や生活への取り入れ方について書いてきましたが、いかがだったでしょうか? 注目されるのには現代特有の理由があり、少なくとも時間の無駄ではないということが分かったかと思います。

志望校に受かりたい。仕事をテキパキさばきたい。自分のパフォーマンスを上げたいというのは、目標を目指す誰もが望むことでしょう。やる気と気合いだけで達成できないのは言うまでもありませんが、実は綿密な計画や、詰め込みすぎのスケジュールだけでも人間は破綻してしまいます。

夢をつかみたいなら、急がば回れ。

観葉植物が置いてある白い部屋にあるハンモックの写真

人間は生き物で、脳は臓器の一つです。体が壊れれば、勉強・仕事はできなくなります。能力以前に、日常生活自体が変わってしまうのです。

そうなる前からきちんと自分を休ませる習慣は、現代人には必要だと私は確信しています。善は急げ。今日から、あなたの生きる時に「昼寝」を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)MastodonYouTubeOFUSE

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【主要参考資料】

昼寝 ~ストレス解消法~ 日本成人病予防学会 2019年10月17日更新

『パワーナップ』(昼寝)を疲労回復につなげよう! 大正製薬、越野博文著

目を閉じてできるトレーニング NIKE、最終更新日:2021年6月25日

『ぜんぶわかる 脳の事典』酒井建雄、久光正監修 成美堂出版

【画像クレジット】

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