インターネットという新しいインフラを基盤に、作家、ミュージシャン、映像作家、イラストレーターなど、アーティスト本人へ直接経済的支援を届けるプラットフォームが広まっています。
今回は、そうしたクリエイター支援サイトから代表的なものや、筆者が特におすすめするものを紹介します。新たな収入源を探している各種クリエイターの方や、応援している相手に支援を届けたい方等の参考になればと思います。
代表的なクリエイター支援サイト・サービス
まずは、創作活動をする側にとって使いやすく、実際に普及しているサイトを紹介していきます。
OFUSE(オフセ)
OFUSEは、「1文字2円の支援付きファンレターを送れる」というコンセプトの、国内スタートアップ企業によるクリエイター支援サイトです。
リリース後着実にアップデートを重ねており、現在では支援付きファンレターの他、
- 無料ファンレター
- ファンレターへのお返事
- サイト内の投稿への支援付きコメント
- 月額メンバーシップ
- ニュースレター配信
- ライブ配信向け投げ銭
と、様々なニーズに合った機能が用意されています。他社サービスと比べて個性的なのは、支援は匿名でも送れることでしょう。利用料は無料で、支援が行われた際に10%が手数料となり、90%がクリエイターに届く仕組みです。
利用者層は、スタート当初はアニメーターにファンが「お布施」を送るのが主流でした。それが現在では、クラシック音楽家、落語家、映像作家など幅広いジャンルのアーティストや、飲食店、町おこし団体などにも利用されています。
このOFUSEは、筆者が最もおすすめするクリエイター支援サイトです。そこには確固たる理由があるので、本稿下記で詳しく説明します。
リンク:OFUSE(公式サイト)
PayPal.Me(ペイパルミー)
PayPal.Meは、オンライン決済のグローバル大手・PayPalが手がけるリンク決済サービスです。
自分のURLを作成し、SNSアカウントや投稿、メールなどに貼り付ければ、そのリンクから支払いを受けることができます。URLの最後に「paypal.me/taro/1000JPY」のような形で金額を付記すれば、受取金額を指定することも可能です。決済手数料は受け取る側にかかります。
PayPal.Meは本質的に決済サービスであるため、投稿やメッセージのやりとり、コミュニティ作成などの機能はありません。
公式サイトをたどれば、PayPal.Meが念頭に置いているのは
- SNSで作品を個別販売する
- フリーランサーが仕事の代金を受け取る
- 開いている教室の月謝を集金する
といった目的だということがうかがえます。ただ実際には支援ボタンとして利用しているクリエイターも多く、代表的なサービスの一つとなっています。
注意点として、個人利用の場合、決済の過程では実名が表示される場面があります。したがって、ペンネームで活動している人には向かないといえるでしょう。
リンク:PayPal.Me(公式サイト)
note(ノート)
noteは、収益機能を備えた、日本国内の投稿型サービスです。ブログやSNSのような感覚で投稿することができ、投稿を有料コンテンツとして販売することができます。
性質上、noteは文章系クリエイター向きな風土ではありますが、画像、音声、動画の投稿・有料化も可能です。筆者は個人的に、自分の活動方針と合わないという理由で利用していないのですが、日本の文を書く人の間では代表的な発表場所となっています。文を読みたい人や出版関係者が集まっているため、チャンスを求めて乗り出す人もいるようです。
内容的には、小説や自作マンガといった作品の系統や、読書、育児、旅行、料理、ペットなどライフスタイル関係、音楽やスポーツなどエンタメ関係と、生活に関わるノウハウがずらりと並んでいます。また、noteはビジネス系のメディアが「人に教えられるノウハウを持っているなら比較的簡単に安定した収益を出せる」として取り上げることも多いです。創作とは関係なく、副業の場として注目する人もいるようです。
ただ、noteでは過去にトラブルも起こっています。
参考リンク:ユーザー爆増の「note」「cakes」炎上、他人事ではないメディアへの教訓(ダイヤモンド・オンライン)
日本で文章系の創作活動をしていると、周囲の仲間がこぞってアカウントを持っている、という状況の人もいるかもしれません。しかし、たとえ周りがそうであっても、noteは構造上、流されれば意図しないところに流れ着きやすいプラットフォームではあります。運営およびそのビジネスの仕組みをよく理解した上で、自分のニーズに合うかどうか見極めることをおすすめします。
リンク:note(公式サイト)
Patreon(パトレオン)
Patreon(パトレオン)は、「芸術家のようにパトロンをつけよう」というコンセプトの、アーティスト向けのプラットフォームです。月額で支援を受け取り、「パトロン」に返事を出したりコンテンツを限定公開したりできるようになっています。
Patreonは海外では代表的なプラットフォームで、クリエイター支援サイトのパイオニア的存在でもあります。現在では日本語にも対応しています。
「パトロンをつける」という性質により、海外ユーザーの間では、Patreonはアーティスト側のプレッシャーが強めだと評価されています。
Ko-fi(コーフィ)
Ko-fi(コーフィ)は、「コーヒーを1杯あげよう」というコンセプトのクリエイター支援サイトです。PayPal決済を通して、1口3ドル(300円)から支援を送ることができます。
月額メンバーシップ、ネットでの販売、コミュニティなど、機能は一通りそろっています。様々なアーティストや、YouTuber、ソフトウェア開発者などに利用されています。
「コーヒー1杯」というコンセプト通り、Ko-fiは1回きりの「投げ銭」的な支援に適しています。Patreonとは対照的といえるでしょう。
Ko-fiは、クリエイター支援サイトの中で最も代表的と言って過言でないプラットフォームです。海外で何かを作っている人は必ずと言っていいほどアカウントを持っているのですが、日本ではほとんど普及していません。
リンク:Ko-fi(公式サイト、英語版)
リンク:筆者のKo-fiページ
クリエイターも使えそうな「ライバー」向け「投げ銭」サービス
近年時々話題になる「ライバー」とは、「ネット上でライブ配信をする人」を指しています。世間一般ではYouTuberほど浸透していませんが、「ライバー」の中には多くのファンを取り付ける人も現れています。SNSインフルエンサーの新型のようにとらえればいいでしょう。
この「ライバー」の存在を支えているのが、いわゆる「投げ銭」サービスです。視聴者がクレジットカード経由などで、ライブ配信中に指定した金額を送れるのです。「投げ銭」は、どちらかというと消費者トラブルとして耳に入ることのが多いかもしれません。好きな「ライバー」に夢中になり、クレジットカードで実感がないまま高額を送ってしまった、といったケースです。
世界が違うとはいえ、クリエイターの中でも生配信と相性の良いジャンル――音楽やパフォーマンスなど――であれば、投げ銭サービスにも活用の道があるかもしれません。なので、以下では「ライバー」でなくても使えそうな投げ銭サービスをピックアップしてみます。
YouTube スーパーチャット(スパチャ)
動画サイトのグローバル大手・YouTubeの収益化プログラムには、ライブ配信向けの「スーパーチャット(スパチャ)」があります。チャットの中で視聴者が「投げ銭」できる、スタンダードな機能です。
注意点として、スーパーチャットは、YouTubeチャンネルがすでに収益化要件を満たしていなければ利用できません。
リンク:YouTube チャットの Super Chat と Super Stickers を管理する(YouTubeヘルプ)
Instagram バッジ機能
YouTubeと同じように、Instagramのライブ配信にも「バッジ機能」という「投げ銭」機能があります。ライブ配信中に、視聴者が120円、250円、610円の3種類から選んでバッジを購入すると、コメント欄にバッジのアイコンとアカウント名が表示されます。
配信者がバッジ機能を利用するには、
- 18歳以上であること
- プロアカウント(ビジネスアカウントまたはクリエイターアカウント)に切り替えてあること
- 配信内容が「Instagramコミュニティ規定」および「コンテンツ収益化ポリシー」を準拠していること
が必要です。
リンク:Instagramバッジを使ってライブ配信の収益を増やす(Instagram for Creators)
代表的なライブ配信アプリリスト
ライブ配信アプリは「ライバー」でなければあまり関係ないと思いますが、代表的なものはリンク付きで紹介しておこうと思います。
こうしたサイト・アプリは、それぞれカラーや配信者の層、扱うジャンルに個性があります。なので、利用を考える際にはまず雰囲気を見に行き、自分に合うかどうかを吟味するといいでしょう。
Amazon ほしい物リスト
少し変わったところでは、Amazonで自分のウィッシュリストを公開する、という手もあります。
これは、ほしいものを公開して、ファンに買ってもらう、というもの。音楽系YouTuberなどに多いでしょうか。
かなりひねったアイディアですが、機材、画材、生活のための日用品などは経済的支援になるのではないでしょうか。
私がOFUSEを強くおすすめする確固たる理由
筆者は作家・評論家です。上で紹介したクリエイター支援サイトの中からOFUSEを選び、読者からの窓口にしています。
私は、このOFUSEというサービスが今後大きく伸びていくことを切に願っています。そして、そこには確固たる理由があります。以下では、私がOFUSEを強くおすすめするのはなぜなのか、私自身の実体験を交えながら説明したいと思います。
クリエイターとファンの負担感がない距離感
まず、サイトの風土や使い勝手の面で言うと、OFUSEはクリエイターにとって重荷にならず、ファンにとっても重たくないプラットフォームです。
クリエイター側で言うと、支援をくれたファンに返事をしなければならないなどの決まりはありません。最近アップデートで返事をしたければできる仕様になったのですが、それはあくまでしたい人だけすればいいこと。支援者との関係に忙殺されることなく、自分の作品を本当に好きな人からだけ支援をもらい、創作活動に打ち込めるのは、アーティストにとって理想的な創作環境ではないでしょうか。
またファンの中にも、「メッセージは送りたいけど返事は求めていない」「活動の邪魔になりたくない」と希望する人は多いです。実際、私も読者からメッセージをいただいた際、「お返事は結構です」と書かれていることはよくあります。返事が来るとかえって重く感じる、という人もいるでしょう。
こうした気軽さ、あとぐされのなさは、OFUSEの他のクリエイター支援サイトとは違う大きな特長です。両者のニーズに合っているのです。
最も望ましいクリエイター支援サービスが、国内の起業家から出たことの意味
以上の通り、私はここ10年ほどの間に国内外で次々できていったクリエイター支援サイトの中で、OFUSEは群を抜いて優れていると考えています。
では、その設立・運営者は誰なのか。……というと、現社名・Soziという会社は、日本国内のスタートアップ企業です。大手出版社やIT企業の新サービスではないのです。
しかもこの会社は、戦後日本でありがちな、古い大企業からの出資で設立された事実上の子会社ではありません。ゼロから始めた、本当の意味での起業です。
実を言うと、こうしたしがらみのない真の起業は、私がいまの日本社会に最も必要だと考えるものの一つです。「こういう会社がついに日本にも出たか」と感極まる思いです。
クリエイターの行く手を阻む日本社会に失望した10年前のあの日のこと
私がOFUSEにそのような感慨を抱いた背景には、クリエイター支援サイトをめぐる私自身の苦い実体験があります。
これは、私が自分のサイトを制作・運営しようと計画中だった10年ほど前のこと。
当時、海外のブロガーの間では、PayPalの寄付ボタンを設置するのが定番化していました。現在のPayPal.Meはまだなく、オンライン決済でグローバル展開を始めていたPayPalのボタンです。名称は「寄付」でしたが、できること自体は今日で言う投げ銭と変わりません。それが活動への支援集めになると、PayPalの寄付ボタンは、ブロガーや、写真家、イラストレーターなどアーティストの間でよく利用されていました。
アート活動は、作品だけでなく、方法までクリエイティブかつフレキシブルでなければ。――海外クリエイターたちの斬新なアイディアを目にした私は、自分もサイトに寄付ボタンを設置しようと決めました。PayPalの口座アカウントを開き、業種や使用目的を「ブログでの寄付集め」に設定して申請を送りました。
ところが、申請が通らなかったのです。
なんでこうなったの? 世界中であんなに多くのブロガーがやっているのに! とうてい納得いかなかった私は、PayPalにメールで問い合わせました。しばらく経ち、PayPalシンガポール支社の法務マネージャーから返ってきた返答はこうでした。――日本の税法制による規制により、日本では寄付ボタンは利用できない、と。
たとえクリエイティビティを発揮しようにも、日本という国はそれを押さえつけるようにできている。新しい社会インフラと新しい活動方法にいち早く目を付けたところで、世界中でこの国だけは、それを使わせないようできている。――新しいアイディアを阻む日本社会の在り方に、私はひどく失望しました。あの日の怒りとやるせなさは決して忘れることがありません。
PayPalの法務マネージャーの返答は丁重で、同情的でさえありました。
法制度によって不可能だというなら、もうどうしようもありません。
日本の在り方に行く手を阻まれた私は、Patreonなどクリエイター支援サイトで生活をまかなっている海外のアーティストたちを、指をくわえてうらやんでいるしかありませんでした。
海外より好ましいサービスが日本国内で誕生!
それから約10年。私はふいに、OFUSEのことを知ります。私がサイトの制作と執筆に邁進している間に、日本の情勢も変わっていたのです。
耳にした情報のかけらによれば「アニメ関係中心なのかな」という印象だったのですが、私はサイトを見に行ってみました。日本でアーティストにオンライン寄付ができるようになったというだけで進歩が感じられ、興味をそそられたのです。
それがサービスの中身を見てみれば、あの日あれほどうらやんだPatreonより好ましいではありませんか! しかも運営企業を確認すると、それは大手IT企業の一部ではなく、都のスタートアップイベントから出てきた真の起業家。私が日本社会に存在すべきだと強く願ってきた「クリエイター支援サイト」と「真の起業」が、OFUSEにはダブルでそろっていたのです。
信用ゼロでのスタートはしがらみがない証拠
そんなOFUSEですが、スタート当初は「詐欺サイトなのでは?」などと疑われたこともあったとか。正体を隠せるネット上のこともあり、「お金を払ってしまって、本当にクリエイターに届くのか」と不安を感じる人が少なからずいたということです。
では、OFUSEが信用されていなかったのは、サービスが信用に値しないからでしょうか? 運営会社があやしいからでしょうか?
いいえ、違います。
信用ゼロでのスタートは、真の起業だということを示す勲章です。古いギスギスした企業群としがらみがない、まっさらからのスタートである証です。
信用というのは、モノやサービスの質により、しだいに固まっていくものです。有名大企業のネームではありません。OFUSEがある程度定着をみた今日では、過去のそうした疑念はすっかり消えてなくなりました。
提言:OFUSEを支えて
高度成長とバブルが終わり、日本経済は閉塞して久しくなります。雇用や働き方の面でも、長時間労働などの改善が叫ばれるようになったのは第一歩ではあるでしょうが、私たちがいま暮らす現実に光が見えるところまではとうてい来られていません。
私は、日本経済のこの状況を打開するために必須なのは「起業」である、大企業の下に付く名ばかりの起業ではない真の起業だと、前々から訴えてきました。
参考リンク:日本の企業文化「井の中の蛙」―その特徴と変革への指針7選
私は訴えたいのです。日本社会は、OFUSEのようなサービスが支持され、大きく伸びる社会になるべきです。有名大企業のネームではなく、中身の質で高い評価を受けられ、信頼される社会になるべきです。「クリエイター支援サイト」というビジネス界の新しい分野で、OFUSEが古い日系大企業の新サービスやPatreonやKo-fiに勝てるような社会になるべきです。
だから、私は、OFUSEというサービスを支えてあげてほしいのです。支援サイトに支援を、とはちょっと変わった話かもしれませんが、会社は利用者がいることによって回っていきます。日本社会の閉塞と生きにくさを打開するために、自分の時間を割いておおげさな慈善活動をする必要などありません。ファンレターを送る際にOFUSEを選ぶだけで、社会の潮目を変えることは必ずできます。
クリエイター側の私が言うのも不思議ですが、どうか皆様、OFUSEをよろしくお願いします。
クリエイターの皆様へ
そして、OFUSEが広く利用されるためには、クリエイター側がアカウントを持っていることが必要です。アカウント開設に難しいところはありません。「とりあえず」くらいの気持ちで、まずは「OFUSE箱」を持ってみてほしいと思います。
クリエイター・ファンともに利用者が増えれば、OFUSEやその周りに広がるアート分野は相乗効果で盛り上がっていくことにつながります。それは文化芸術にとって、第三次産業革命・インターネットの時代の画期的なことでもあるはずです。
まとめ
以上、代表的なクリエイター支援サイトを紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
私は今後、旧Twitterからの移行も兼ねてOFUSEの投稿機能をもっと利用しようと計画中です。最近は海外からの読者も増えてきたので、もしかしたらKo-fiなども始めるかもしれません。
クリエイターにとって重要なのは、プラットフォームが自分の創作活動やカラーが合うかどうかです。あらためて自分の活動内容や方針に向き合い、自分に合ったものを選ぶといいでしょう。
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著者・日夏梢プロフィール||X(旧Twitter)|Mastodon|YouTube|OFUSE
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